異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第四章

その狙いは

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「た、大変です!図書室と資料室で火災が発生しました!」
「なんだと?」

 ゾート城三階にある会議室。その日、ゾート橋が魔族によって破壊されたという報告を受けた国王は宮廷魔導士をはじめとする王国の首脳達を集めて緊急会議を開いていた。そこに息を切らして入室してきた兵士から受けた新たな報告にそこにいた全員は愕然とした。最初は事故によるものという考えが浮かんだが、兵士からの詳細な報告がその考えを否定した。

「あそこには異世界召喚の資料や記録が厳重に保管されているのだぞ!ただちに消火しろ!」
 宮廷魔導士の一人が怒鳴りつけた。
「だ、ダメです!大量の火薬が使われたらしく、近づくこともままなりません!すでに二階の大半は火の海です!」
「ば、バカな…!」
「やはり魔族が…」
「しかし、どうやって?」

 魔族からの攻撃を警戒して兵士や冒険者を王国内外に配備し、守りを固めていた。ネズミ一匹たりとも城内に侵入する隙などないはずだった。それを嘲笑うかのように敵はいともたやすく侵入し、城内に火を放ったのだ。

「敵の狙いはまさか…」
「ということは地下の魔法陣もすでに…」
 魔導士達はざわつき始めた。
「くそっ!まだ次の勇者を召喚していないというのに!」
 赤いローブの魔導士の一人がドンとテーブルを叩いた。
「落ち着け。確かに魔法陣と資料は失われたが、まだ我々がいる。魔法陣の術式さえ覚えていればどうにでもなる。最悪、召喚できなくなった場合、その辺の兵士や国民に勇者の力を付与すればいい」
 その隣にいる魔導士がなだめた。
「ならば、早く脱出しなければならないのではないのか?」
「おそらく敵はここにも…」
 その懸念は現実であった。報告のために入室してきた兵士の胸部から突然刃が突き出し、兵士は吐血した。背後から何者かが剣を突き刺したのだ。

「な…なんだ?」
 剣を抜き取られた兵士が倒れると、その影にいた何者かが姿を現した。黒いローブを身に纏い、今の季節には不似合いな赤いマフラーを首に巻いた少女が佇んでいた。

「…あんた達が宮廷魔導士ね?」
「だ、誰だ貴様はあああぁ!」
 魔導士の一人が問いただそうとした途端、彼の頭に飛んできた剣が突き刺さった。少女が投げた剣を脳天で受け止めた魔導士はそのまま仰向けに倒れた。
「…その言葉、聞き飽きたわよ」
 少女は辟易した言葉を漏らした。

「おのれ!『メガフレイム』!」
 赤いローブの魔導士は炎の上級魔法を唱え、巨大な火球を少女に向けて放った。やがて着弾し、大きな爆風が少女を包み込んだ。
「やったか?」
 会議室の入り口は黒煙に包み込まれ、相手の姿は見えない。しかし少女は回避はおろか防御するそぶりも見せなかった。ましてや近距離で上級魔法の直撃を受けた以上、ただではすまないはず。勝利を確信した赤いローブの魔導士は黒煙に近づこうとした。その瞬間、黒煙の中から植物のツルのような縄が飛び出し、魔導士の首に巻き付いた。
「うがっ?ああっ?」
 巻き付いた縄を伝って黒い炎が魔導士に襲い掛かり、その全身をまんべんなく焼き尽くした。
 黒煙が晴れるとそこにはローブの代わりに全身を黒い炎で包み、右手に長い鞭を持った少女が佇んでいた。彼女は着弾の直前に炎の鎧を作り出し、火球によるダメージを防いだのだ。
 少女は魔導士を巻き付けた鞭を鉄球ハンマーのごとくテーブルに叩き付けた。テーブルは真っ二つに割れ、その下にあった床も瞬く間に崩落した。その場にいた者達は逃げる間もなく崩落に巻き込まれ、破片とともに下の階に落とされた。
「うわああぁぁ!」
 下の部屋はすでに火の海と化していた。辺りには本棚から零れ落ちた書物が無残に散らばっており、その多くはすでに炭となっていた。会議室の真下は資料室だったのだ。
「ぎゃあぁぁぁ!」
 火の海の中に悲鳴が響いた。落下した国王や大臣は炎に身を焼かれ、何人かの魔導士は衝撃で崩れてきた本棚の下敷きとなった。

「な…何者なんだ貴様は?」

 辛うじて炎から逃れた青いローブの魔導士が少女に問うた。両手に黒い炎を宿した少女は冷たい視線でただ一人残った魔導士を見下ろしながらその問いに答えた。

「異世界召喚……それを滅ぼしに来た者よ」
 
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