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第四章

彼女の気遣い

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 階段を上がり、一階のホールに出た静葉が目にしたのは床に多数転がる兵士の死体であった。その中には先ほど逃亡した兵士も含まれていた。自分が手に掛けた覚えのない死体に少し訝しんだが、気にすることなく二階へ上がろうとホールの中央にある階段に目を向けた。

「仕事中はずいぶんとつれないのねぇ。魔勇者様」

 誰もいないはずの正面から突然声が聞こえた。目を凝らすと空間がほんのり歪んでいる。その歪みの裏から銀髪の女僧侶――メイリスが姿を現した。その衣装は以前の修道士の服と類似しているが、カラーリングは黒を基調としており、どこか禍々しい印象であった。
「このアイテム、なかなか面白いわね。本当に誰にも見つからずに隠れられるんだもの」
 メイリスは手に持っている周りの風景に溶ける布――ステルスコートをまじまじと見つめて感心した。彼女と静葉はこれを用いて警備をかいくぐり、城内に潜入したのである。
「…あの時もそうだったけど、なかなかの殺しっぷりね。さすが魔勇者と名乗るだけあるわね」
「…どこから見てたの?」
「あなたが扉をぶち壊した辺りからかな?」
 メイリスは悪びれることなく答えた。どうやら最初から静葉の行動を身を隠しながら見ていたらしい。彼女の何かとなれなれしい態度は静葉にとってうっとおしいものであった。
「…そういうあなたもなかなかえげつないわね…」
 静葉は床に転がる死体を見ながら答えた。
「いいのよ。どうせ私はもう人間じゃないんだし。今や魔王軍あなた達の一員なんだから」
 メイリスはクスクスと笑いながら足元の兵士の頭を踏み潰した。
「割り切りがいいわね…元冒険者のくせに…てか、それ…」
 静葉はメイリスに対して何か言いたげに指をさした。彼女の肩や胸には兵士が放ったと思われる何本かの矢が刺さりっぱなしになっていたのだ。
「あぁ、これ?避ける必要がないからね。痛みなんて感じないし」
 そう言いながらメイリスは自分の身体に刺さった矢を無造作に引っこ抜き、投げ捨てた。その傷口は白い煙を発しながらみるみるうちに塞がっていった。
「こうして見るとゾンビって恐ろしいわね…」
 静葉は溜息まじりに呟いた。
「ていうかあなた、なんでここにいるのよ?」
「あのメイドさんに頼まれたのよ。魔勇者様のサポートをしに行ってくれってね」
 メイリスは懐にステルスコートをしまいながら答えた。
「サポートって…一人で十分だって言ったでしょ!」
「そうつれないこと言わないでよ。こんなだだっ広いお城、一人じゃ骨が折れるでしょ?外の方はメイドさんと猫さんが対応してくれているわよ」
「でも…」
「いいからいいから。任せなさいよ」
 静葉は何か言いたげにメイリスをにらんでいたが、彼女はそれを気にすることはなく静葉の頭髪をわしわしと撫でた。静葉は煩わしそうにその手を払った。

「メイドさんから聞いたわよ。あなた、異世界ってヤツから来た人間なんでしょ?」
「…まぁね。あの魔王に無理やり召喚されたのよ。元の世界に帰してほしかったら魔勇者になれってさ」
 静葉は肩を竦めた。
「この国の連中が異世界から勇者を召喚しているとは聞いたけど、それとこの作戦と何か関係があるの?」
「……」
 静葉は質問に答えなかった。
「まぁいいわ。だべっている暇なんてないしね」
 メイリスは苦笑しながら懐から火薬を取り出した。
「…?それは?」
「あのタヌキ君から試作品を分けてもらったのよ。これで私は図書室とかを木っ端みじんにしてくるわ」
「図書室?」
「ええ、は設備や関係者、資料まで一つ残らず消し去るのが定石なんでしょ?」
「…だったら、そいつを私が――」
 静葉はメイリスが持つ火薬を取ろうとするが、メイリスは火薬を持つ手を頭上に揚げてそれを阻んだ。
「任せなさいって言ったでしょ。いいからあなたは宮廷魔導士とやらを探しに行きなさい」
 有無を言わさぬ姿勢でメイリスは静葉の鼻を指でつついた。

「それじゃ。くれぐれも無理しないでね」
 メイリスは手を振りながら先に二階へ上がっていった。静葉はその背中を見送りながら頭の中で彼女の言葉を反芻していた。

「無理するな…か…」

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