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第四章
提案する魔勇者
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「魔勇者よ…此度の任務ご苦労であった」
魔王城に帰還した静葉とアウルは魔王の間にて任務の完了を報告した。
「いやぁ、百人ほどの冒険者と勇者をたった一人でねじ伏せるとはさすがは魔勇者様ですな」
魔王の隣で話を聞いていたゴードンは感服した。
「同感です。ですが、一つ気がかりなことがあります」
アウルは静葉から聞いた勇者についての話を説明した。
「…なんと…異世界から召喚した勇者とな…」
「はい…しかも、その勇者は魔勇者様と同じ世界から召喚されたとのことです」
アウルからの報告を聞いたゴードンは思わず固唾を飲んだ。
「まさか我々以外にも異世界召喚ができる勢力がいるとは…」
「ええ。これは想定外でした…」
さすがのアウルも動揺を隠しきれないようだ。静葉の話によると召喚された勇者はゾート王国の魔導士達によって強力な勇者の力を付与されたらしい。静葉自身は結局それを目にすることはなかったが、場合によっては厄介な存在となりえる話であった。
「そうなのよ…で、それについて話があるんだけど…」
片膝をついて黙っていた静葉がようやく口を開いた。
「話だと?よろしい。聞かせてもらおうか」
魔王からの許しを得て静葉は帰還するまでに考えていた事をこの場にいる全員に聞かせた。
「…なるほど…おぬしらしい提案ではあるな…」
魔王は静葉から持ち掛けられた話に感心しながらうなずいた。それと同時に彼女から普段以上の威圧感を肌で感じ取っていた。
「しかし、危険ではありませんか?魔勇者様といえど、単身でそれを実行するなど…」
ゴードンは苦言を呈した。
「こうしている間にも敵は次の勇者を召喚しようとしているかもしれないのよ?『私』みたいな奴を敵に回してもいいの?さっさと送りなさい!」
静葉の手には黒い炎が灯されており、今にも放ちそうな勢いだ。
「で…ですが…」
「わかりました」
ゴードンが反論しようとしたところにアウルが割って入った。アウルは静葉の方を見ながら右手でゴードンに何らかのハンドサインを送った。それを見たゴードンは黙ってうなずいた。
「では、ゾート王国へご案内いたします。『ワール』」
つむじ風に包まれて二人は魔王の間を後にした。
「よろしいのですか?確かにゾート王国は我らにとっても厄介な勢力ですが…」
二人の背中を見送ったゴードンは魔王に尋ねた。
「構わん…我らの脅威を排除してくれるならば都合がよい。それに…」
一瞬間をおいて魔王は口を開いた。
「あ奴の中の『力』に大きな昂りを感じる。次の『段階』へ進む時が来たのかもしれぬ…」
その夜、魔勇者の怒りを買ったゾート王国に黒い炎が放たれたのであった。
魔王城に帰還した静葉とアウルは魔王の間にて任務の完了を報告した。
「いやぁ、百人ほどの冒険者と勇者をたった一人でねじ伏せるとはさすがは魔勇者様ですな」
魔王の隣で話を聞いていたゴードンは感服した。
「同感です。ですが、一つ気がかりなことがあります」
アウルは静葉から聞いた勇者についての話を説明した。
「…なんと…異世界から召喚した勇者とな…」
「はい…しかも、その勇者は魔勇者様と同じ世界から召喚されたとのことです」
アウルからの報告を聞いたゴードンは思わず固唾を飲んだ。
「まさか我々以外にも異世界召喚ができる勢力がいるとは…」
「ええ。これは想定外でした…」
さすがのアウルも動揺を隠しきれないようだ。静葉の話によると召喚された勇者はゾート王国の魔導士達によって強力な勇者の力を付与されたらしい。静葉自身は結局それを目にすることはなかったが、場合によっては厄介な存在となりえる話であった。
「そうなのよ…で、それについて話があるんだけど…」
片膝をついて黙っていた静葉がようやく口を開いた。
「話だと?よろしい。聞かせてもらおうか」
魔王からの許しを得て静葉は帰還するまでに考えていた事をこの場にいる全員に聞かせた。
「…なるほど…おぬしらしい提案ではあるな…」
魔王は静葉から持ち掛けられた話に感心しながらうなずいた。それと同時に彼女から普段以上の威圧感を肌で感じ取っていた。
「しかし、危険ではありませんか?魔勇者様といえど、単身でそれを実行するなど…」
ゴードンは苦言を呈した。
「こうしている間にも敵は次の勇者を召喚しようとしているかもしれないのよ?『私』みたいな奴を敵に回してもいいの?さっさと送りなさい!」
静葉の手には黒い炎が灯されており、今にも放ちそうな勢いだ。
「で…ですが…」
「わかりました」
ゴードンが反論しようとしたところにアウルが割って入った。アウルは静葉の方を見ながら右手でゴードンに何らかのハンドサインを送った。それを見たゴードンは黙ってうなずいた。
「では、ゾート王国へご案内いたします。『ワール』」
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「よろしいのですか?確かにゾート王国は我らにとっても厄介な勢力ですが…」
二人の背中を見送ったゴードンは魔王に尋ねた。
「構わん…我らの脅威を排除してくれるならば都合がよい。それに…」
一瞬間をおいて魔王は口を開いた。
「あ奴の中の『力』に大きな昂りを感じる。次の『段階』へ進む時が来たのかもしれぬ…」
その夜、魔勇者の怒りを買ったゾート王国に黒い炎が放たれたのであった。
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