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第四章
慈悲はない
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「な…なんだよコイツ…!」
「こんな奴がいるなんて聞いてない…!」
「勇者様!助けて…!」
四肢や首を斬られながらそんな断末魔をあげて冒険者達は武器を振るう暇もなく息絶えていく。完成したばかりのきれいな橋は彼らの血肉でどんどん赤く汚れていった。
自分達の中に突然飛び込み、踊るように剣を振り回しながらさっきまで肩を並べて楽しく語り合った仲間を次々と殺していく少女。冒険者達にとってそれは地震や洪水のような災害に突然巻き込まれたような気分であった。
返り血で衣服を赤く染めながら少女は殺した人間の生命を喰らい続けており、疲れることなく剣を絶えず振り回していた。正面から挑めばその剣で容赦なく斬り伏せられ、背後から挑めば彼女の首に巻かれた赤いマフラーに絞め殺される。抵抗しようがしまいが彼女に近づいた者はその命を無慈悲に奪われるのだ。
一方で勇者千夏は仲間が悲鳴をあげながら殺されているにも関わらず銅像のように固まり、何もできずにいた。彼女が金に物を言わせて雇った百人ほどいた冒険者のパーティーはあっという間に十人ほどに減っていた。
「こいつ…もしかしてあの魔勇者じゃないのか?」
「魔勇者だって…?ペスタ地方でタタリア遺跡を一人で破壊したっていうあの?」
「肩に生えている三本目の赤い腕…間違いねぇ!」
繰り広げられる惨劇を眺めていた冒険者達は自分達を平然と殺しまくるこの少女が巷で噂の魔勇者であることにようやく気付いた。その魔勇者は返り血で顔を赤く染めて残りの冒険者達をにらんでいた。その視線にすくみ上った冒険者達は恐怖に手を震わせ、次々と武器を落とした。
「ひぃぃぃ!ば…化け物だぁぁぁ!」
「こんな奴相手にするなんていくらもらってもわりに合わねぇぇぇ!」
「金なんていらねぇ!助けてくれぇぇぇ!」
残った冒険者達は皆戦意を失い、一斉にゾート王国の方角へ逃げ帰っていった。
「ちょ…ちょっとあなた達!待ちなさい!ねぇ!」
千夏の制止の声を聞く者など一人もいなかった。彼女は必死で逃げていく冒険者達の背中を見送ることしかできなかった。同様にその背中を見送った魔勇者はふと思い出したかのように勇者の方に向き直した。
「…大したカリスマね。金で命は買えないだろうしね」
鼻で笑いながら魔勇者は静かに皮肉を漏らした。
「な…何よまゆうしゃって…そんなの聞いてない…!」
そう呟く勇者の足は産まれたての小鹿のように震えており、煌びやかな剣を構えようともしていなかった。
「あら、冒険者達から聞いてないの?…まぁ、聞こうともしないから当然よね」
そう言いながら魔勇者は勇者の膝から下をきれいに切断した。自分の身体を支える足を失った勇者はうつ伏せに倒れ、足元まで広がっていた血だまりはその顔を赤く汚した。
「あ…ああぁあぁぁぁぁ!い、痛いぃぃぃぃぃ!」
両脚を斬られた激痛で叫びをあげながら千夏はあがこうと両手を床についた。しかし、それを阻むかのように静葉はその右手に拾い上げた冒険者の剣を突き立てた。
「ぐあああぁぁぁ!」
さらなる追い打ちを受けて千夏は涙と鼻水を流しながら絶叫した。その無様な姿を静葉は哀れむような目で見下ろしていた。
「や…やめて…私達…友達でしょ…?」
千夏は痛みに耐えながら静葉に訴えかけた。
「あれ?友達と呼ぶほど親しくもない薄っぺらい仲なんでしょ?私達は」
そう訝しみながら静葉は突き刺した剣をグリグリと動かした。
「あああぁぁぁ!」
「簡単に言うとね、私は魔王の味方。つまりあなたの敵よ」
痛みに苦しむ千夏に対して静葉は淡々と説明した。
「あなたがどうなろうと私には知ったことではない。そういうことよ」
「ま…待って…!お金なら全部あげるから…アイテムだって…」
「あいにく、間に合ってるわ」
千夏はかすれた声で交渉を持ちかけるが、静葉は歯牙にもかけなかった。
「お願い…!私は死にたくない…死にたく…ない…の…た、助け…て…」
なりふり構わぬ哀願であった。それを見た静葉は一瞬空を見上げてから溜息をついた。
「…そうね…私達の任務はあなたを殺すことではない…」
そう語る静葉を見て千夏は安堵の表情を浮かべた。しかし、彼女が助かることはなかった。
「…この橋を破壊することよ…」
そう告げながら静葉は飛び上がり、滑空してきたアウルの足につかまった。それと同時に橋の下から轟音が響いた。橋全体に亀裂が走り、やがて崩れていった。
その様子を静葉は飛び去りながら眺めた。取り残された千夏が何かを叫んでいたようだが、爆発と崩落の音にかき消されてその声は静葉に届くことはなかった。
「…ずいぶんと派手に暴れたようですね。何かあったんですか?」
「…ちょっとね……」
そう答えた静葉は荘厳な橋が跡形もなく崩れていく様子を上空から見下ろしていた。
「…あいつだけじゃなかったのね…」
「…?どうかしましたか?」
「…別に…」
静葉は目線をどこでもない場所に移した。
「こんな奴がいるなんて聞いてない…!」
「勇者様!助けて…!」
四肢や首を斬られながらそんな断末魔をあげて冒険者達は武器を振るう暇もなく息絶えていく。完成したばかりのきれいな橋は彼らの血肉でどんどん赤く汚れていった。
自分達の中に突然飛び込み、踊るように剣を振り回しながらさっきまで肩を並べて楽しく語り合った仲間を次々と殺していく少女。冒険者達にとってそれは地震や洪水のような災害に突然巻き込まれたような気分であった。
返り血で衣服を赤く染めながら少女は殺した人間の生命を喰らい続けており、疲れることなく剣を絶えず振り回していた。正面から挑めばその剣で容赦なく斬り伏せられ、背後から挑めば彼女の首に巻かれた赤いマフラーに絞め殺される。抵抗しようがしまいが彼女に近づいた者はその命を無慈悲に奪われるのだ。
一方で勇者千夏は仲間が悲鳴をあげながら殺されているにも関わらず銅像のように固まり、何もできずにいた。彼女が金に物を言わせて雇った百人ほどいた冒険者のパーティーはあっという間に十人ほどに減っていた。
「こいつ…もしかしてあの魔勇者じゃないのか?」
「魔勇者だって…?ペスタ地方でタタリア遺跡を一人で破壊したっていうあの?」
「肩に生えている三本目の赤い腕…間違いねぇ!」
繰り広げられる惨劇を眺めていた冒険者達は自分達を平然と殺しまくるこの少女が巷で噂の魔勇者であることにようやく気付いた。その魔勇者は返り血で顔を赤く染めて残りの冒険者達をにらんでいた。その視線にすくみ上った冒険者達は恐怖に手を震わせ、次々と武器を落とした。
「ひぃぃぃ!ば…化け物だぁぁぁ!」
「こんな奴相手にするなんていくらもらってもわりに合わねぇぇぇ!」
「金なんていらねぇ!助けてくれぇぇぇ!」
残った冒険者達は皆戦意を失い、一斉にゾート王国の方角へ逃げ帰っていった。
「ちょ…ちょっとあなた達!待ちなさい!ねぇ!」
千夏の制止の声を聞く者など一人もいなかった。彼女は必死で逃げていく冒険者達の背中を見送ることしかできなかった。同様にその背中を見送った魔勇者はふと思い出したかのように勇者の方に向き直した。
「…大したカリスマね。金で命は買えないだろうしね」
鼻で笑いながら魔勇者は静かに皮肉を漏らした。
「な…何よまゆうしゃって…そんなの聞いてない…!」
そう呟く勇者の足は産まれたての小鹿のように震えており、煌びやかな剣を構えようともしていなかった。
「あら、冒険者達から聞いてないの?…まぁ、聞こうともしないから当然よね」
そう言いながら魔勇者は勇者の膝から下をきれいに切断した。自分の身体を支える足を失った勇者はうつ伏せに倒れ、足元まで広がっていた血だまりはその顔を赤く汚した。
「あ…ああぁあぁぁぁぁ!い、痛いぃぃぃぃぃ!」
両脚を斬られた激痛で叫びをあげながら千夏はあがこうと両手を床についた。しかし、それを阻むかのように静葉はその右手に拾い上げた冒険者の剣を突き立てた。
「ぐあああぁぁぁ!」
さらなる追い打ちを受けて千夏は涙と鼻水を流しながら絶叫した。その無様な姿を静葉は哀れむような目で見下ろしていた。
「や…やめて…私達…友達でしょ…?」
千夏は痛みに耐えながら静葉に訴えかけた。
「あれ?友達と呼ぶほど親しくもない薄っぺらい仲なんでしょ?私達は」
そう訝しみながら静葉は突き刺した剣をグリグリと動かした。
「あああぁぁぁ!」
「簡単に言うとね、私は魔王の味方。つまりあなたの敵よ」
痛みに苦しむ千夏に対して静葉は淡々と説明した。
「あなたがどうなろうと私には知ったことではない。そういうことよ」
「ま…待って…!お金なら全部あげるから…アイテムだって…」
「あいにく、間に合ってるわ」
千夏はかすれた声で交渉を持ちかけるが、静葉は歯牙にもかけなかった。
「お願い…!私は死にたくない…死にたく…ない…の…た、助け…て…」
なりふり構わぬ哀願であった。それを見た静葉は一瞬空を見上げてから溜息をついた。
「…そうね…私達の任務はあなたを殺すことではない…」
そう語る静葉を見て千夏は安堵の表情を浮かべた。しかし、彼女が助かることはなかった。
「…この橋を破壊することよ…」
そう告げながら静葉は飛び上がり、滑空してきたアウルの足につかまった。それと同時に橋の下から轟音が響いた。橋全体に亀裂が走り、やがて崩れていった。
その様子を静葉は飛び去りながら眺めた。取り残された千夏が何かを叫んでいたようだが、爆発と崩落の音にかき消されてその声は静葉に届くことはなかった。
「…ずいぶんと派手に暴れたようですね。何かあったんですか?」
「…ちょっとね……」
そう答えた静葉は荘厳な橋が跡形もなく崩れていく様子を上空から見下ろしていた。
「…あいつだけじゃなかったのね…」
「…?どうかしましたか?」
「…別に…」
静葉は目線をどこでもない場所に移した。
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