異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

文字の大きさ
上 下
70 / 261
第四章

もう一人の異世界召喚

しおりを挟む
「…は?誰?」

 やたらと煌びやかな武器防具を装備した女剣士を見て私は首を傾げた。年は私と同じくらいだが、少なくともこの世界では見たことのない顔だ。しかし、相手は私のことをよく知っているらしい。六組ということは…。

「私よ!同じクラスの長谷川千夏ちなつよ!忘れたの?」
「長谷川…?…あぁ!」

 手をポンと叩きながら私は思い出した。確かクラスで一番人気の女子でいつもグループを作っては何かとおしゃべりをしていた。私は彼女とあまりしゃべったことはないけど。

「あなたも異世界召喚されてたの?奇遇ねー!」
 大して仲良くもないはずの私に気安く話しかけてきた。同じ世界の人間に出会えてよほどうれしかったのだろうか。
「『あなたも』?…ということはもしかして…」
「ふふん!その通りよ!」
 急にドヤ顔した。今戦闘中のはずなんだけど。
「ついこの前、ゾート王国この国に異世界召喚されてね。そこでなんと勇者に任命されちゃったのよ!」
 千夏はとんでもないことを自慢げに語り出した。
「しょ…召喚?」
「そうよ!この世界で悪さする魔王を倒すために王様が宮廷魔導士達の力を借りてこの私を召喚したのよ!お城の地下に立派な魔法陣まで用意されていてすごかったわよ!勇者の力なんてものを与えられてこんな剣を軽々と持てるし、魔法まで使えるようになっちゃってまるでラノベの主人公になった気分だわ!読んだことないけど」
 よくもまぁ、楽しそうにしゃべるわね。私も同じ目に遭っているけど全然楽しくないわよ。
「しかも王様からお金をたくさんもらえたし、勇者権限ってヤツでアイテムを安く買えるし、私のカリスマでこんなに冒険者の仲間ができたのよ!すごくね?」
 千夏は後ろに控えている冒険者達に手を向けた。やはり群れを作るのが好きなのね彼女は。
「おまけにね、勝手に人ん家に入って箪笥や壺を漁っても何にも言われないし、勇者ってサイコーね!」
 こちらに気をかけることなく彼女は話を続けた。
「それで、これからこの橋を渡って魔大陸ってところに乗り込んで魔物をかたっぱしから狩りに行くのよ!楽しみだわ」
 やはりそうか。
「勇者様。この人は誰なんですか?」
 冒険者の一人が千夏に尋ねた。
「ああ大丈夫よ。彼女は私のクラスメイトよ。友達と呼ぶほど親しくもない薄っぺらい仲だけどねぇ」
 本人を目の前にして失礼な言い回しだ。よく考えたら元の世界でもこんな感じで本人の前で陰口をたたくようなろくでもない性格だったわね。
「それで…皆川さんはなんでこんなところに一人でいるの?」
 舐め腐った表情で私に質問を投げかけた。
「ああ…それはね――」
「あ!わかった!」
 私がしゃべりかけた途端、食い気味で彼女は勝手に何かを納得した。どうやら今の私については知らないらしい。
「勇者である私を出し抜こうとして一人でここまで来たけど怖気づいて逃げ帰ってきたところなんでしょ?」
「は?」
 急に何言ってんの?元の世界でも確かにこんな感じで勝手に相手のイメージを決めつけていたけど。
「無理もないわよね!矢とか炎とか飛んでくるんだし!そのぼろい格好も奴らにやられたんでしょ?」
「いや…」
「だいたい、あんたみたいな本ばっか読んでる陰キャなんかが冒険者やってるなんてマジ受けるんだけど?ねぇ」
 同意を求められて冒険者達は一斉に笑いだした。完全に太鼓持ちだなこりゃ。
「そうだ!あんたがどうしてもっていうならうちのパーティーに入れてやってもいいわよ?といってもトイレ掃除ぐらいしか仕事ないけど?」
「そう…」
 もういいだろう。時間稼ぎを兼ねて話を聞いてやったが、大した情報はない。強いてあげるならばゾート王国は異世界召喚の技術を有していることぐらいか。これ以上コイツのたわごとを聞く義理はない。

「ところで千夏さん…ついさっき死んだ剣士や重騎士が誰に殺られたのかわかる?」
「は?何言ってんのか意味不なんだけど?」
「あらそう…」
 そう言いながら私は剣を振り上げ、千夏の左隣の剣士の胴体を斜めに切断した。

「…え?」

 どうやら何が起こったのか理解できていないようだ。千夏は断面から見える内臓を直視して表情を凍り付かせていた。そんなことはお構いなしに私はもう一人の剣士の首と右腕を斬り落とし、そいつが持っていた剣をその後ろの魔法使いに投げつけた。剣はうまいこと眉間に命中し、魔法使いは仰向けに倒れた。

「な…何をしてるの?」
「さぁね。何だと思う?」
 わざとらしくとぼけながら私は高く跳躍し、冒険者達の群れの中に飛び込んだ。着地点にいた弓使いは私の剣に頭を突き刺されてそのまま潰れた。
 その惨劇を目にした周囲の冒険者達は各々の武器を構えて私に向かってきた。迎え撃ちながら私はその顔触れを観察した。数こそ大したものだが、陣形と呼ぶにはあまりにもお粗末な並びだ。少なくとも魔法使いや弓使いをこんな前に出すものではない。これでは魔法や矢を放つ前に私に斬られてしまう。もう斬ったけど。ただ数で圧倒しようという魂胆が丸見えだ。肝心の勇者リーダーがあの有様だから無理もないか。

「さて…恨むなら、あの能無し勇者を恨むことね…」

 恐怖におびえる目を向ける冒険者達に対して私は呟いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)倭寇が明の女性(にょしょう)を犯した末に生まれた子供たちが存在した……  彼らは家族や集落の子供たちから虐(しいた)げられる辛い暮らしを送っていた。だが、兵法者の師を得たことで彼らの運命は変わる――悪童を蹴散らし、大人さえも恐れないようになる。  そして、師の疾走と漂流してきた倭寇との出会いなどを経て、彼らは日の本を目指すことを決める。武の極みを目指す、直刀(チータオ)の誓いのもと。

雑貨屋リコリスの日常記録

猫餅
ファンタジー
長い旅行を終えて、四百年ぶりに自宅のある島へと帰宅した伊織。しかし、そこには見知らぬ学園があった。更には不審者として拘束されかけ──そんな一日を乗り越えて、伊織は学園内に自分の店舗を構えることとなった。 雑貨屋リコリス。 学園に元々ある購買部の店舗や、魔術都市の店とは異なる品揃えで客を出迎える。……のだが、異世界の青年が現れ、彼の保護者となることになったのだ。 更にもう一人の青年も店員として、伊織のパーティメンバーとして加わり、雑貨屋リコリスは賑わいを増して行く。 雑貨屋の店主・伊織と、異世界から転移して来た青年・獅童憂、雪豹の獣人アレクセイ・ヴィクロフの、賑やかで穏やかな日常のお話。 小説家になろう様、カクヨム様に先行投稿しております。

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
【書籍化決定しました!】 異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く異世界での日常を全力で楽しむ女子高生の物語。 暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

僕が皇子?!~孤児だと思ったら行方不明の皇子で皇帝(兄)が度を超えるブラコンです~

びあ。
ファンタジー
身寄りのない孤児として近境地の領主の家で働いていたロイは、ある日王宮から迎えが来る。 そこへ待っていたのは、自分が兄だと言う皇帝。 なんと自分は7年前行方不明になった皇子だとか…。 だんだんと記憶を思い出すロイと、7年間の思いが積もり極度のブラコン化する兄弟の物語り。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

処理中です...