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第四章

もう一人の異世界召喚

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「…は?誰?」

 やたらと煌びやかな武器防具を装備した女剣士を見て私は首を傾げた。年は私と同じくらいだが、少なくともこの世界では見たことのない顔だ。しかし、相手は私のことをよく知っているらしい。六組ということは…。

「私よ!同じクラスの長谷川千夏ちなつよ!忘れたの?」
「長谷川…?…あぁ!」

 手をポンと叩きながら私は思い出した。確かクラスで一番人気の女子でいつもグループを作っては何かとおしゃべりをしていた。私は彼女とあまりしゃべったことはないけど。

「あなたも異世界召喚されてたの?奇遇ねー!」
 大して仲良くもないはずの私に気安く話しかけてきた。同じ世界の人間に出会えてよほどうれしかったのだろうか。
「『あなたも』?…ということはもしかして…」
「ふふん!その通りよ!」
 急にドヤ顔した。今戦闘中のはずなんだけど。
「ついこの前、ゾート王国この国に異世界召喚されてね。そこでなんと勇者に任命されちゃったのよ!」
 千夏はとんでもないことを自慢げに語り出した。
「しょ…召喚?」
「そうよ!この世界で悪さする魔王を倒すために王様が宮廷魔導士達の力を借りてこの私を召喚したのよ!お城の地下に立派な魔法陣まで用意されていてすごかったわよ!勇者の力なんてものを与えられてこんな剣を軽々と持てるし、魔法まで使えるようになっちゃってまるでラノベの主人公になった気分だわ!読んだことないけど」
 よくもまぁ、楽しそうにしゃべるわね。私も同じ目に遭っているけど全然楽しくないわよ。
「しかも王様からお金をたくさんもらえたし、勇者権限ってヤツでアイテムを安く買えるし、私のカリスマでこんなに冒険者の仲間ができたのよ!すごくね?」
 千夏は後ろに控えている冒険者達に手を向けた。やはり群れを作るのが好きなのね彼女は。
「おまけにね、勝手に人ん家に入って箪笥や壺を漁っても何にも言われないし、勇者ってサイコーね!」
 こちらに気をかけることなく彼女は話を続けた。
「それで、これからこの橋を渡って魔大陸ってところに乗り込んで魔物をかたっぱしから狩りに行くのよ!楽しみだわ」
 やはりそうか。
「勇者様。この人は誰なんですか?」
 冒険者の一人が千夏に尋ねた。
「ああ大丈夫よ。彼女は私のクラスメイトよ。友達と呼ぶほど親しくもない薄っぺらい仲だけどねぇ」
 本人を目の前にして失礼な言い回しだ。よく考えたら元の世界でもこんな感じで本人の前で陰口をたたくようなろくでもない性格だったわね。
「それで…皆川さんはなんでこんなところに一人でいるの?」
 舐め腐った表情で私に質問を投げかけた。
「ああ…それはね――」
「あ!わかった!」
 私がしゃべりかけた途端、食い気味で彼女は勝手に何かを納得した。どうやら今の私については知らないらしい。
「勇者である私を出し抜こうとして一人でここまで来たけど怖気づいて逃げ帰ってきたところなんでしょ?」
「は?」
 急に何言ってんの?元の世界でも確かにこんな感じで勝手に相手のイメージを決めつけていたけど。
「無理もないわよね!矢とか炎とか飛んでくるんだし!そのぼろい格好も奴らにやられたんでしょ?」
「いや…」
「だいたい、あんたみたいな本ばっか読んでる陰キャなんかが冒険者やってるなんてマジ受けるんだけど?ねぇ」
 同意を求められて冒険者達は一斉に笑いだした。完全に太鼓持ちだなこりゃ。
「そうだ!あんたがどうしてもっていうならうちのパーティーに入れてやってもいいわよ?といってもトイレ掃除ぐらいしか仕事ないけど?」
「そう…」
 もういいだろう。時間稼ぎを兼ねて話を聞いてやったが、大した情報はない。強いてあげるならばゾート王国は異世界召喚の技術を有していることぐらいか。これ以上コイツのたわごとを聞く義理はない。

「ところで千夏さん…ついさっき死んだ剣士や重騎士が誰に殺られたのかわかる?」
「は?何言ってんのか意味不なんだけど?」
「あらそう…」
 そう言いながら私は剣を振り上げ、千夏の左隣の剣士の胴体を斜めに切断した。

「…え?」

 どうやら何が起こったのか理解できていないようだ。千夏は断面から見える内臓を直視して表情を凍り付かせていた。そんなことはお構いなしに私はもう一人の剣士の首と右腕を斬り落とし、そいつが持っていた剣をその後ろの魔法使いに投げつけた。剣はうまいこと眉間に命中し、魔法使いは仰向けに倒れた。

「な…何をしてるの?」
「さぁね。何だと思う?」
 わざとらしくとぼけながら私は高く跳躍し、冒険者達の群れの中に飛び込んだ。着地点にいた弓使いは私の剣に頭を突き刺されてそのまま潰れた。
 その惨劇を目にした周囲の冒険者達は各々の武器を構えて私に向かってきた。迎え撃ちながら私はその顔触れを観察した。数こそ大したものだが、陣形と呼ぶにはあまりにもお粗末な並びだ。少なくとも魔法使いや弓使いをこんな前に出すものではない。これでは魔法や矢を放つ前に私に斬られてしまう。もう斬ったけど。ただ数で圧倒しようという魂胆が丸見えだ。肝心の勇者リーダーがあの有様だから無理もないか。

「さて…恨むなら、あの能無し勇者を恨むことね…」

 恐怖におびえる目を向ける冒険者達に対して私は呟いた。
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