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第五章
助けを呼ぶ声
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よく晴れたお昼時。昼食を終えた三人の少女はエキョウの街の北門を通過し、エキョウ平原に出た。見渡す限りの青々とした平原。その平原の上に造られた街道の上を歩きながら三人は北の方角、グロハの町を目指していた。
「にしてもすごいわね!折れた状態でも持つだけで強くなれるんだから!」
ビオラは感心しながら隣を歩くリエルの腰に携えられた聖剣を指でつついた。
「やっぱ聖剣の名は伊達じゃないってわけね!」
「う~ん。やっぱりそうなのかなぁ?」
リエルは戸惑いながら返事した。タタリア遺跡でメイリスから託された聖剣エクセリオン。魔勇者との戦いでその刀身がへし折られてもその力は失われることなく、所有者に並みならぬ力を与えていた。リエル自身もそれまでとは比べ物にならない力を得たことにいまだ困惑していた。
「どうよ?俺ツエーできる気分は?」
「どうって言われても…あと何その表現?」
「あ…あの…」
二人の会話を一歩後ろから聞いていたアズキは恐る恐る声をかけた。その声に反応した二人は後ろを振り向いた。
「ん?どうしたの?」
「あ、その…それが、聖剣なんですか?」
アズキはリエルの腰の剣を指さした。
「ええ、そうよ」
リエルは折れた聖剣を手にとりながら答えた。
「この聖剣は元々ペスタ王国の物なの。ひょんなことから折れてしまったこの剣を直すよう依頼されてね。デワフ山の向こう側にいるらしいドワーフの鍛冶師に直してもらうために私達は向かっているのよ」
「そうなんですか…」
「ところで、アズキはどうしてデワフ山に?」
「あ…僕はですね…その、アカユカリ草を採りに行こうと思って…」
「アカユカリ草?」
「ええ。高地の寒い地域に生える植物でして、この時期だとデワフ山で大量に採取できるらしいんです」
さっきまで静かだったアズキはまるで別人のように説明を始めた。
「アカユカリ草は雑草として一般的に認知されていますけど、最近になって調合素材として薬品業界で注目を浴びるようになってきまして、たとえばリフュール草と一緒に調合すると外傷治療薬としての効果が倍増するんですよ」
アズキはやや早口気味で説明を続けた。
「へ、へぇ。そうなんだ…」
その様子にビオラは苦笑していた。
「プギャアアア!」
「な、何?」
どこからか奇妙な悲鳴が聞こえた。三人は互いの背を合わせながら警戒した。周りを見渡していると近くの茂みから巨大な影が飛び出してきた。
「…大蛇!」
その影の正体は大蛇の魔物であった。大木と見紛うほどの大きさの胴体を持ち、成人男性を容易く丸呑みできそうな巨躯だ。閉じた口から細長い舌を出し、チロチロと震わせている。黒っぽい緑の鱗も相まってその全容は見る者に嫌悪感をもたらす。
「…この蛇、確か『ラトルヴァイパー』だったっけ…?」
「ええ。最近、この辺りで目撃情報が多発しているらしいわね…」
武器を構えながらビオラとリエルはギルドで得た情報を確認していた。
「でも、あんな鳴き声するかな?」
「そうよね――ってうわっ!」
ふとした疑問が頭をよぎったが、それを阻むかのように大蛇が飛びかかってきた。すかさず散開し、三人はその攻撃から逃れた。
「こいつっ!『フリーズ』!」
お返しと言わんばかりにビオラは氷魔法を唱えた。彼女が持つ杖からラグビーボールほどの大きさの氷塊が放たれ、大蛇の腹部に命中した。砕けた氷塊は地面に落下し、すぐさま蒸発した。攻撃を受けたはずの大蛇は何事もなかったかのように平然としていた。
「ちっ…思ったより硬いわね…」
ビオラは舌打ちした。
「プギャアア!脂肪が溶けるぅぅ!」
悲鳴と共に人の言葉が聞こえた。その声はこの大蛇から聞こえたが、大蛇自身の声ではないようだ。
「今の声…まさか、大蛇の中から?」
「…ということは…」
このままでは声の主はどうなるか。それは火を見るより明らかであった。
「急がなきゃ!」
「でもどうするの?あいつ防御力高いみたいよ?」
二人が思案しているとアズキが一歩前に出た。
「ぼ、僕に任せてください」
「任せろって…あんた、どうやって戦うのよ?」
見たところ武器らしい武器は持っていない。ただでさえ戦闘向きではない薬師に戦う術はあるのか。ビオラは訝しんだ。
「大丈夫です!」
アズキは身につけている白いコートの裏から黄色い液体の入った一本の細長い瓶を取り出し、大蛇の首元に投げつけた。命中した瓶は粉々に砕け散り、中身の液体が大蛇の身体に付着した。
「ギャアアアア!」
液体が付着した首元は焼けただれ、その苦痛に大蛇は悶絶した。
「今の…何?」
「金属をも溶かす強酸性の液体です。こういう時のためにこういうのをいくつか用意しているんですよ」
そう説明しながらアズキはもう一本の瓶を投げつけた。今度の瓶には赤い液体が入っていた。大蛇の鼻先に命中した瓶は砕け散り、空気に触れた赤い液体はその量からは想像つかないほどの大きさの爆発を発生させた。液体の火薬だ。
「グギャアアア!」
「今だ!」
ひるんだ大蛇の首元目掛けてリエルは距離を詰め、光の刃を纏った聖剣を横に振りかぶった。大蛇の首は瞬く間に胴体から文字通り切り離され、地面に落下した。胴体の断面から噴き出した大蛇の体液は周囲を赤く汚し、頭部を失った胴体は木こりによって切り倒された大木のように大きな音をたてて崩れ落ちた。
「…ふう…」
一息ついたリエルは光の刃を収めた。額の汗をぬぐおうと右腕で額をこすり、その右腕の袖を見た彼女はそれが赤く汚れていることに気づいた。今の大蛇の体液をもろに浴びていたのだ。
「…この辺に銭湯あったかしら…?」
ほとんどダメもとの質問をリエルはビオラに投げかけた。
「…ない」
友人はいい笑顔で返事した。
「にしてもすごいわね!折れた状態でも持つだけで強くなれるんだから!」
ビオラは感心しながら隣を歩くリエルの腰に携えられた聖剣を指でつついた。
「やっぱ聖剣の名は伊達じゃないってわけね!」
「う~ん。やっぱりそうなのかなぁ?」
リエルは戸惑いながら返事した。タタリア遺跡でメイリスから託された聖剣エクセリオン。魔勇者との戦いでその刀身がへし折られてもその力は失われることなく、所有者に並みならぬ力を与えていた。リエル自身もそれまでとは比べ物にならない力を得たことにいまだ困惑していた。
「どうよ?俺ツエーできる気分は?」
「どうって言われても…あと何その表現?」
「あ…あの…」
二人の会話を一歩後ろから聞いていたアズキは恐る恐る声をかけた。その声に反応した二人は後ろを振り向いた。
「ん?どうしたの?」
「あ、その…それが、聖剣なんですか?」
アズキはリエルの腰の剣を指さした。
「ええ、そうよ」
リエルは折れた聖剣を手にとりながら答えた。
「この聖剣は元々ペスタ王国の物なの。ひょんなことから折れてしまったこの剣を直すよう依頼されてね。デワフ山の向こう側にいるらしいドワーフの鍛冶師に直してもらうために私達は向かっているのよ」
「そうなんですか…」
「ところで、アズキはどうしてデワフ山に?」
「あ…僕はですね…その、アカユカリ草を採りに行こうと思って…」
「アカユカリ草?」
「ええ。高地の寒い地域に生える植物でして、この時期だとデワフ山で大量に採取できるらしいんです」
さっきまで静かだったアズキはまるで別人のように説明を始めた。
「アカユカリ草は雑草として一般的に認知されていますけど、最近になって調合素材として薬品業界で注目を浴びるようになってきまして、たとえばリフュール草と一緒に調合すると外傷治療薬としての効果が倍増するんですよ」
アズキはやや早口気味で説明を続けた。
「へ、へぇ。そうなんだ…」
その様子にビオラは苦笑していた。
「プギャアアア!」
「な、何?」
どこからか奇妙な悲鳴が聞こえた。三人は互いの背を合わせながら警戒した。周りを見渡していると近くの茂みから巨大な影が飛び出してきた。
「…大蛇!」
その影の正体は大蛇の魔物であった。大木と見紛うほどの大きさの胴体を持ち、成人男性を容易く丸呑みできそうな巨躯だ。閉じた口から細長い舌を出し、チロチロと震わせている。黒っぽい緑の鱗も相まってその全容は見る者に嫌悪感をもたらす。
「…この蛇、確か『ラトルヴァイパー』だったっけ…?」
「ええ。最近、この辺りで目撃情報が多発しているらしいわね…」
武器を構えながらビオラとリエルはギルドで得た情報を確認していた。
「でも、あんな鳴き声するかな?」
「そうよね――ってうわっ!」
ふとした疑問が頭をよぎったが、それを阻むかのように大蛇が飛びかかってきた。すかさず散開し、三人はその攻撃から逃れた。
「こいつっ!『フリーズ』!」
お返しと言わんばかりにビオラは氷魔法を唱えた。彼女が持つ杖からラグビーボールほどの大きさの氷塊が放たれ、大蛇の腹部に命中した。砕けた氷塊は地面に落下し、すぐさま蒸発した。攻撃を受けたはずの大蛇は何事もなかったかのように平然としていた。
「ちっ…思ったより硬いわね…」
ビオラは舌打ちした。
「プギャアア!脂肪が溶けるぅぅ!」
悲鳴と共に人の言葉が聞こえた。その声はこの大蛇から聞こえたが、大蛇自身の声ではないようだ。
「今の声…まさか、大蛇の中から?」
「…ということは…」
このままでは声の主はどうなるか。それは火を見るより明らかであった。
「急がなきゃ!」
「でもどうするの?あいつ防御力高いみたいよ?」
二人が思案しているとアズキが一歩前に出た。
「ぼ、僕に任せてください」
「任せろって…あんた、どうやって戦うのよ?」
見たところ武器らしい武器は持っていない。ただでさえ戦闘向きではない薬師に戦う術はあるのか。ビオラは訝しんだ。
「大丈夫です!」
アズキは身につけている白いコートの裏から黄色い液体の入った一本の細長い瓶を取り出し、大蛇の首元に投げつけた。命中した瓶は粉々に砕け散り、中身の液体が大蛇の身体に付着した。
「ギャアアアア!」
液体が付着した首元は焼けただれ、その苦痛に大蛇は悶絶した。
「今の…何?」
「金属をも溶かす強酸性の液体です。こういう時のためにこういうのをいくつか用意しているんですよ」
そう説明しながらアズキはもう一本の瓶を投げつけた。今度の瓶には赤い液体が入っていた。大蛇の鼻先に命中した瓶は砕け散り、空気に触れた赤い液体はその量からは想像つかないほどの大きさの爆発を発生させた。液体の火薬だ。
「グギャアアア!」
「今だ!」
ひるんだ大蛇の首元目掛けてリエルは距離を詰め、光の刃を纏った聖剣を横に振りかぶった。大蛇の首は瞬く間に胴体から文字通り切り離され、地面に落下した。胴体の断面から噴き出した大蛇の体液は周囲を赤く汚し、頭部を失った胴体は木こりによって切り倒された大木のように大きな音をたてて崩れ落ちた。
「…ふう…」
一息ついたリエルは光の刃を収めた。額の汗をぬぐおうと右腕で額をこすり、その右腕の袖を見た彼女はそれが赤く汚れていることに気づいた。今の大蛇の体液をもろに浴びていたのだ。
「…この辺に銭湯あったかしら…?」
ほとんどダメもとの質問をリエルはビオラに投げかけた。
「…ない」
友人はいい笑顔で返事した。
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