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第三章

月夜に誓う

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「あ、危なかった…」

 満月が高く昇る夜。リエルは息を切らしながら呟いた。
「メイリスが穴を開けててくれてホント助かったわね」
 ビオラは後ろを振り返りながら言った。さっきまで自分達が探索していた遺跡はすでになく、最初から何もなかったかのように砂漠が広がっていた。
「…まさか遺跡そのものを破壊するなんて…」
「ホント魔族ってイカレているわね」
 ビオラは舌打ちした。周囲には遺跡を警護していたはずの聖バーニィ騎士団の姿はどこにもない。遺跡の崩落に巻き込まれたか、あるいは無事に逃げおおせたか、星月の光しかないこの夜空では確かめることは困難であった。

「結局、手に入れたのはこれだけ…」
 リエルは手にしていた聖剣の柄をじっと見た。『聖剣の捜索』というクエストは一応達成できた。しかし、その犠牲はあまりにも大きすぎた。
「シズハ…だっけ?あいつの名前…」
「ええ…確か、『まゆうしゃ』とか言ってたけど…」
 今振り返ると恐ろしい相手であった。同じ人間であるにも関わらず魔王に与し、得体のしれない力で仲間メイリスを惨たらしく殺した。この聖剣がなければ自分達も死んでいたであろう。そう思ったリエルはゴクリと生唾を飲み下した。

「魔王に従っているとか言ってたわよね…てことは魔王の手下?人間のくせに?」

 ビオラは表情に不快感をあらわにした。そんな奴にメイリスを殺され、聖剣をへし折られたのだ。当然の反応だ。

「魔王の手下…勇者…魔の…勇者……魔勇…者…!」

 ビオラの言葉からリエルはある事実にたどり着いた。遺跡の中であの少女が名乗っていた肩書の意味をようやく理解できた。その瞬間、彼女の中から何かが煮えたぎるような感覚が湧いてきた。

「ふざけた奴ね!次会った時はぶちのめしてやるんだから!ねぇ、リエル!」
「…そうね」
 リエルは静かに頷いたが、内心不安であった。これまでにも狂暴な魔物とは何度か戦ってきたが、死を覚悟するほどに追い詰められたのはこれが初めてであった。あの魔勇者とまた相対するかと思うと手の震えが止まらない。

(…ううん。恐れてはダメ)

 拳を握り、リエルは心の中で自分を奮い立たせた。幼い頃から勇者に憧れて日々努力を積み、冒険者としてギルドに登録し、経験を重ね続けてきた。Aランク以上の冒険者達に比べればまだまだ未熟なのはわかっている。これから先、あの魔勇者よりも恐ろしい敵が立ちはだかるであろう。ましてや、魔王と呼ばれる存在は魔勇者とは比べ物にならない力を持っているはず。勇者を目指す身ならばここで立ち止まるわけにはいかない。ここにメイリスがいたらそう言っただろう。

「…とにかく、王国に戻って報告しよう。この聖剣を届けないと」
「そうね。でも今日は疲れたし、この近くのオアシスで一休みしてからでいい?」
「うん」
 
 あの恐ろしい魔勇者から人々を守るために。メイリスのような犠牲者を出さないようにするために。もっと強くなり、必ず勇者になってみせる。そう月夜に誓ったリエルはオアシス目指して歩きだした。
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