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第三章

聖剣とは

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「あったぞ。あの階段だ」

 バシャバシャと水の音を立てながら進むこと数分。左手に見える階段をベアードは指さした。

「この階段の上?」
「せや。この先に色んなおっさんの石像があってな。たぶん落とし穴以外にも罠があると思うから油断したらアカンで」
 ティータが私に忠告した。

『…どうやら先客がいるみたい。注意して進んで』
 フロートアイから警戒を促す言葉が聞こえた。
「わかったわ……おや?」
 耳を澄ますと通路の奥の方からガシャガシャと金属の音が聞こえる。もしかしたらさっきの騎士達かもしれない。

「まずいな…競争相手がこっちに向かっているってわけか」
 迎え撃つべくベアードが武器を構えた。彼の武器はトンファーだ。
「待って。ここは私に任せて」
 私は懐から短刀を出しながら二人を階段の上に誘導した。ちょっと試してみたいことがある。
「お、おい。そんなんでどうするんだ?」
「こうするのよ…ふん!」
 そう言いながら私は階段から水浸しの床に短刀を突き刺し、黒い炎を出す要領で短刀に魔力をこめた。その瞬間、短刀から電流が発生し、通路中の水面をまんべんなく駆け抜けていった。

「ぎゃあああぁぁぁ……!」

 通路の奥から何人かの絶叫が響いてきた。短刀を水面から引き抜く頃には遠くの方から大きめの水しぶきの音がいくつか響き、やがて静かになった。

「なるほど。雷属性の短刀か。いい物を持っているじゃないか」
 ベアードは感心した声を漏らした。
暑い場所こういうとこの冒険者は水属性の防具を装備しているのが多いらしくてね。その対抗策として持ってけってアウルに言われたのよ」
 魔力をこめると電撃を発するクロム特製の短刀である。まさかこんな形で戦果をあげるとは思ってもみなかった。そういう意味では水責めの罠にかかったこの二人には感謝しなくてはね。ちなみに私が感電しなかったのは短刀の柄の部分に絶縁性のある素材を使用しているからである。
『面白い使い方をするね。今後の参考にさせてもらうよ』
 フロートアイを通じてコノハが楽しそうな声を上げた。また何かアイテム作成のアイディアを思いつきそうね。
「ともあれ、これで後方の憂いを断つことができたな。よし、行こうぜ!」
 ベアードは勇んで階段を昇ろうとした。
『あ、ちょっと待って』
「ぐえ!」
 フロートアイから伸びた手みたいなものが彼の服の後ろを引っ張った。そんな機能もあるんかい。
「ベアード。君はこの階層に残って」
「えぇ?俺?」
「あんたが来るとまた罠にかかりそうでたまらんからじゃね?」
「返す言葉もねぇな…」
 ティータに痛いところを突かれたベアードは頭を掻いた。
『まぁ、それもあるけど…ベアードには別の任務を遂行してほしいんだ』
「別の任務?」
 コノハはベアードに与える任務について説明した。

「別に構わないが…いいのか?」
『いいのいいの。僕達の目的はあくまで聖剣の確保だからね。ここにはそれ以外にめぼしい物はなさそうだしね』
「ホントえげつないわねアンタ…」
 きっと彼は拠点でいい笑顔をしているのだろう。
『それじゃ、改めて進もうか』
 コノハからの言葉を受けて私とティータは階段を昇った。

「…そういえばさぁ…」
 階段を昇りながら私は口を開いた。一つ気になることがある。
「この遺跡にある聖剣ってどんなものなの?」
「あぁ、あたしも気になりますわ」
『そうだね。そろそろ教えてもいいかな』
 私達の疑問に答えるべくコノハが説明を始めた。
『聖剣エクセリオン…初代ペスタ国王タタリアが魔族との戦いで用いた白銀の剣。初代国王はその剣と聖なる魔法で多くの魔族を葬り、王国に平和をもたらしたという伝説があるんだ』
 はぁー。これまたベタな伝説ね。
「てことは、その聖剣が人間の手に渡ると魔王軍にとって厄介な存在になるから先に私達が押さえようってわけね」
『うん。正解だね』
「え?半分?」
 なんか引っかかる言い方ね。
『実はこの伝説には一般には知られていない裏があるらしいんだ』
「裏?」
『その聖剣にはがいたらしい』
 本当の持ち主?
『それを確かめるのが僕にとっての大本命なのさ。聖剣の確保はそのついでってとこだね』
 なかなかいい性格してるわね。この支部長は…。
「どうやってそれを確かめるの?」
『そこなんだよね。とりあえず、聖剣を解析すれば何かわかるとは思うんだけどね…』
 そんなもんかね?そういう分野には詳しくないからわかんないけど。
「でも、どうしてアイテム担当のあなたがそんな裏の伝説を知りたいの?」
『ふふっ、個人的な興味ってヤツさ。こう見えて僕はゴシップ話とか好きでね』
 思ったより個人的な理由だった。そんなことで私を呼んだのかよ。
『あ、でも聖剣にも興味あるよ。材質とか切れ味とかにね』
「しかしねぇ――へぶっ!」
 足を滑らせて鼻をぶった。ホバーブーツを履いたまま階段を上がった結果がこれだよ。ある冬の日、凍結した階段を昇って足を滑らせた経験を思い出した。そんな感じだ。
「いったぁー……。このブーツ、階段昇りにくいわ…」
『あー…そういう欠点もあったんだね。いいデータが採れたよ』
 こいつは…。
「あたしの予備の靴貸したるよ」
 ティータは背負っているリュックから靴を取り出し、私に貸してくれた。
「あ…ありがとう…」
 丁度サイズがぴったりで助かった。
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