異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第三章

調査員

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「ようやく収まったわね…」

 激流が収まったのを見計らって私は床に着地した。穴を覗くとそこには流れ損ねた大量の水が残っていた。学校の教室ほどの広さの部屋だが底はけっこう深く、壁に設置された獅子の石像はいまだに水を吐き続けている。水面に目をやると、二人の魔族がザバっと顔を出していた。

「おお、なんか知らんけど助かった!」
「あぁ、ほんま空気がありがたいわぁ…」

 黒熊の獣人と虎の耳を生やした女性が安堵の表情を浮かべていた。

「二人とも、こっちよ」

 私が声をかけると二人はこちらに向かって泳ぎ出した。一人ずつ手を引き、彼らを死のプールから引き揚げた。

「いや~、どこの誰か知らないけどありがとう。マジでやばかった」
 黒熊は礼を述べた。
「同感やな。で、あんた誰?」
 関西弁っぽい話し方をする虎耳の女性は私の名を尋ねた。
「私は静葉。ペスタの支部長からの依頼であなた達を助けに来た魔勇者よ」
「魔勇者だって?あんたが噂の魔勇者様なのか?」
 黒熊は驚愕の表情を浮かべた。
「えぇ。人間だからびっくりした?」
「すげぇ強いって話を聞いてたからさ、てっきりビッグフットみたいな奴を想像していたぜ」
「おい!乙女的になんかイヤな想像するな!」
 確かにすごい力で冒険者達をぶっ飛ばしまくったけど。
「おっと、紹介が遅れたな。俺はベアード。ペスタ支部の戦闘員さ」
 ベアードと名乗った黒熊は親指で自分を指さした。
「あたしはティータ。同じく戦闘員やで」
 虎耳の女性はティータと名乗った。
「いやはや、魔勇者様に助けてもらえるたぁ、なんとまぁ光栄なことだねぇ」
「何呑気なこと言うとんねん。あと一歩で溺死するとこやったやないかい」
 ハハハと笑うベアードに対してティータがツッコミを入れた。
「その様子だと、調査は続けられそうね」
 私は溜息をついた。
「えぇ?まだ調査しろっての?俺もうクタクタで帰りたいんだけど…」
 ベアードは露骨な不満をこぼした。
「文句言うなや!まだ聖剣見つけてないやろ!」
 ティータはきつい叱責を入れた。やはり彼らの狙いは聖剣か。
「だいたい、俺はこそこそ侵入するような任務は苦手なんだよ。あの引きこもり支部長めぇ」
 ベアードは構わずに文句を続けた。なんかイヤな予感がする。
「こないだもさぁ、『筋力アップアーマー』とか言ってやたらバネのきつい鎧を装備させてさぁ。全然身体を動かせなかったぜ」
『ふむふむ』
 バネのきつい鎧って…。大リーグ養成ギブス的なヤツかしら?
「どうせ作ってくれるならさ、もうちょっとこう…砂漠の高熱に耐えられる鎧とかそういうのが欲しいよなぁ」
『なるほどね』
「この辺とか日中は外に出たくないくらいにクソ暑いからよ。たまんねぇぜ」
『それじゃあ、マグマの中でも耐えられる鎧とかどう?』
「お、いいねぇ。そういうのなら砂漠の暑さなんか余裕で…あれ?」
 さりげなく滑りこんできた声と会話をしていたことにベアードはようやく気付いた。その声の主はもちろん私ではない。

「い…今の声って…もしかして…」
 私とティータは空中で羽を動かしている紫色の水晶玉を指さした。

『こんにちは。引きこもり支部長だよ』

 不気味なくらいに穏やかな声色がフロートアイから聞こえた。
「あああ!ここここれは支部長殿!おおおお疲れ様ですハイ!」
 ベアードは露骨に狼狽していた。
『二人とも無事でよかったねぇ…水分は摂ってる?』
「ああああの、いい今のはでですねぇ、あの…そのぅ」
『大丈夫。そんなに心配しなくてもいいよ。帰ったらいい物プレゼントしてあげるからさ』
 絶対ロクなもんじゃないでしょ…。私はベアードに対して心の中で合掌した。

『それじゃ本題に入るよ。聖剣、もしくはそれに関する手がかりは見つかった?』
「あー、それなんスけどねぇ、一応それっぽいヒントは見つけましたよ」
 ティータはフロートアイに向かって話し始めた。
「ヒント?」
 私は首を傾げた。
「ええ。今の部屋の上の方になんか偉そうなおっさんの像が何体かと開かない扉がありましてね…その扉になんか文章らしいものが書いてあったんですよ」
 ふむふむ。
「で、それを調べようとしたらそこのアホが落とし穴を作動させちゃってこの有様ってわけですよはい」
「いやー面目ない…」
 ベアードが申し訳なさそうに頭を掻いた。
『よし、さっそくそこに行ってみよう。解析が必要ならば僕に任せてくれるといいから』
「了解。それじゃ案内をお願いするわ、二人とも」
「おう任せとけ。こっちだ」
「何偉そうに仕切っとんねん」
 そうツッコみながらティータはベアードの頭を小突いた。
 そんなやり取りをしながら私達は水浸しの通路を進んで行った。
 
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