異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第三章

潜入

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「どうだ?異常はないか?」

 遺跡入り口の裏側、入り口側から来た兵士は裏側を警護している兵士に声をかけた。
「あぁ、大丈夫だ。そっちは?」
「こっちは来客が二組いた。女の冒険者三人組とサンユー王国の勇者様御一行だ」
「勇者様?マジかよ!」
 勇者と聞いた兵士はテンションを上げた。
「マジですよ。で、今御一行のラクダの番をしなきゃならないんだけど、けっこう数が多くてさぁ。ちょっと手貸してくんない?」
「いいけど…ここの見張りどうする?」
「大丈夫だろ。最近野盗もいないし、休憩上がりの奴に任せりゃいいべ」
「それもそうだな。それらしい気配もないしな…」
 そう言いながら彼らは入り口側に移動した。

 裏側に誰もいなくなった頃、遺跡の近くの柱の一部が不自然に揺らめいた。

「…なんか知らないけど、チャンスね」
 
 揺らめきの影から現れたのは、ステルスコートによって身を隠していた静葉であった。遺跡の裏側が無人になったところを見計らった彼女は速やかに遺跡に近づいた。

「にしても、すごく滑らかねこれ」
 ホバーブーツの効果は絶大であった。スケートのような足取りで素早く砂の上を移動することができた。
「なんかこういう感じで海上を移動するキャラ、ゲーセンだかどこかで見たことあるんだけど…」
 そんな些末なことを考えているうちに静葉は遺跡にたどり着いた。壁沿いに少し移動すると、壁の一部が不自然に揺らめく箇所を見つけた。静葉がその角をつまみ、めくるとそこには人為的に開けられた穴が隠されていた。先に潜入した調査員達がステルスコートを用いて隠していたのだ。

「…あったあった。ガバガバ警備には感謝しなくちゃね」

 周囲を窺い、素早く穴にもぐりこんだ静葉は再びコートを穴にかぶせた。自らの黒い炎を用いて内部の松明に明かりをともし、視界を確保した彼女はポーチから水筒を取り出して一服した。

『どうやら無事潜入できたみたいだね。魔勇者様』
「うおっ!」

 ポーチから独りでにフロートアイが飛び出し、コノハの声が聞こえた。

「まぁね。それで、これからどうすればいい?」
 周囲を見渡しながら静葉は尋ねた。
『調査員二人の痕跡があるはずだからまずはそれをたどって』
「痕跡?パンくずでも落としてあるの?」
『いや、このフロートアイで彼らの足跡や匂いをトレースするのさ』
「そ、そんなことができるの?」
『もちろん。なんてったってマーク2カスタムだからね』
 フロートアイから得意げな声が聞こえた。
『じゃさっそく出発しよう。まずそのまままっすぐ進んで』
「でも大丈夫?罠とかあるんでしょ?」
『大丈夫。彼らがすでに作動させているだろうから、しばらくは罠の心配はいらないよ』
 静葉が目を凝らして前を見ると、壁にはいくつかの矢が刺さっており、床には落石や毒蛇の死骸が転がっていた。どうやら本当に罠が作動していたようだ。
「…そうみたいね」
 静葉は安心する反面、先に罠にかかった二人の身を案じた。雰囲気からしてこの程度の罠は序の口なのだろう。改めて気を引き締めた静葉はフロートアイを連れて前に進み出した。
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