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第二章

訪問者

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 夜も更けた頃。新しい部屋にて安眠をむさぼるズワースの目前に何かが輝いた。その光の刺激を受けたズワースが目を開くと、ドッジボール程の大きさの紫色の水晶が浮かんでいた。その水晶は生物の瞳の形を模しており、コウモリの翼を生やしていた。

「これはこれは、夜分遅くにご苦労じゃのう……魔王様」

『これは失礼…今の余はとても多忙でな…ようやく時間がとれたというわけだ…』
 水晶の瞳から魔王の声が響いた。この瞳は城にいる魔王と連絡するための自立型通信石である。通信石を持たぬズワースと会話するために魔王の指示を受けてこの洞窟にたどり着いたのである。

「それで…何用じゃ?」
『我らの魔勇者があなたの世話になったと聞いてな。礼を言おうと思うたのだ』
「なぁに、孫に出て行かれて退屈じゃったからのう…年寄りのわがままに付き合ってもらったわけじゃ」
『ドランツか…奴の居所はいまだわからぬようだが…』
「そうか…まぁ、そう簡単に死ぬようなタマでもあるまいて」
 遠い目をしながらズワースは呟いた。

「それはそうと魔王様よ。あの魔勇者にあの『力』を分け与えたそうじゃな?」
『…それがどうした?』
 ほんの少し間を置いて魔王は尋ねた。
「確かにアレを持ったあやつの力はすさまじい…じゃが、いつもアレを発揮できるとはわしは思えぬ」
『……』
「アレを存分に発揮するにはよほどの暗い心が必要じゃ。それこそ世界の全てを憎悪するほどの暗い心が…」
 ズワースは静かに語った。
「…もしくはそれと対をなす心に反応する何かを…いや、それはないか」
 思いついた仮説をズワースは途中で口にするのをやめた。魔王はいまだに口を開かない。
「ま、至らぬところはわしが教える技術でカバーしてもらうがの」
 ズワースは得意げに語った。

『…あの力がなければ奴は真の魔勇者になれぬ。それに、奴の中にあるモノは必ずアレを育んでくれる…』
「…そう確信しているというわけじゃな?」
『……』
 魔王は沈黙した。
「どちらかというと、わしはもう一つの方に興味があるがの…」
『もう一つ?』
 魔王は訝しんだ。
「お前さんも気づいているじゃろう。それがなければあの小僧を助けたりはするまい」
 ズワースは目前の瞳を指さした。
「しかしまぁ、よくあの小僧を仲間に迎えることを許してくれたのう。一応魔族われらの敵じゃぞ?」
『あ奴は我々の希望なのだ。多少のことは好きにさせてもかまうまい…』
「甘々じゃのう…ま、わしも人のことは言えぬがな」
ズワースは溜息をついた。
『確かに…あなたが預かってくれたのは幸いだが、大事ないか?』
「任せておけ。わしの手にかかれば鋼のような肉体を作り変えることなどわけないわい。それに…」
『それに…なんだ?』

「若い奴らの色恋沙汰を眺めるのは楽しいものよ」
 頬を緩めながらズワースは語った。
『…そうか』

 瞳ごしの魔王は表情を変えずに生返事を返した。
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