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第二章
弟弟子
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あれから三日が経過し、私はズワースの洞窟を訪れていた。
あの後私はエイルを魔王城に連れ、彼を正式に魔王軍の一員にすべく色々と書類手続きをする羽目になった。大抵の書類はエイル自身に書かせたが、保証人として私もサインをしなければならなかった。また、保護者の枠にはなんか同伴して来たズワースがサインを入れた。まさか書類手続きをするとは…ファンタジーっぽくない。まぁ、仮にも魔族の敵である人間が魔王軍に加入するのだ。このくらい用心する必要はあるよね。
ちなみにズワースが人型に変身してまで魔王城に来たのは自分の洞窟の修繕を依頼するためらしい。あの竜戦車の攻撃によって彼の住処である空洞は少なからぬ被害を受けた。さすがにあのままでは寝心地が悪いらしく、ここの建築担当に相談しに来たというわけだ。
しかし、この黒竜が魔王の父の友人というのは本当だったらしい。すれ違う魔族がみな頭を下げ、中にはサインを懇願する者もいた。魔族の中ではかなり偉大な人物だったようだ。
で、あの空洞に来たわけだが――
「リフォームしすぎでしょ…」
なんということでしょう。荘厳な扉を開いてみれば、あのがらんとした空洞がちょっとした体育館のような空間に生まれ変わってるじゃありませんか。床はピカピカの大理石のタイルが敷き詰められ、天井にはいくつかの照明が規則的に並んでいる。黒竜の姿のズワースが横たわる定位置にはでかいクッションが置いてある。しかも一画にはスポーツジム顔負けのトレーニング器具が並んでいた。完全に私の修行用だよねこれ?
「いやぁ~、まさかここまでしてくれるとはのう。あの魔王も親父に似たようじゃな、はっはっは」
セクシーな昇り竜が描かれた抱き枕を抱えながらまんざらでもない表情でズワースは言った。というか、魔王の父もこんな至れり尽くせりしてたのか…。
「いえいえ、こんなに喜んでいただけるとは…建築冥利に尽きますだよ」
サイ頭の大工がペコペコと頭を下げていた。彼は私に気づくと頭のヘルメットを外し、お辞儀をした。
「どうも魔勇者様。建築担当のスティーブだよ。よろしくお願いするだよ」
「あ、これはどうも」
私はお辞儀を返した。魔王軍の連中はホント律儀に挨拶するわね。
「しかしねぇ、ここまでやる必要あったの?」
頭を上げながら私は質問した。
「いやー、壁とか床とかかなり傷んでいたもんでね。思い切ってリフォームさせてもらっただよ」
スティーブの話によると、この造りはズワースのニーズに応えた結果らしい。
「そう言えば外の入り口に変な像があったんだけど…」
「ああ、それは新しく建てた防衛システムですだよ。敵と認識した人物を自動で攻撃してくれる便利な石像ですだよ」
あーそれで入り口に黒焦げの死体がいくつか転がっていたのね。よくもまあ三日でここまで作ったものね。
「まぁ、それはいいんだけど…」
私が横に目をやると、黒竜の右側の壁にある扉の前に立ち、困惑した表情を浮かべるエイルの姿が映った。その扉の上には『エイルの部屋』と書かれていた。
「あれ何?」
扉を指さしながら私はズワースに質問した。
「あぁ、ご注文にあったそこのお兄さんの居室ですだよ」
スティーブが代わりに回答した。
「「はぁ!?」」
私とエイルのリアクションがシンクロした。
「なんでんなもんあんのよ?」
「決まっているであろう。この小僧はここでわしが預かることにしたのじゃ」
ズワースは自分を親指で指しながら答えた。
「ど…どうしてそんな…」
エイルもどうやら初耳のようだ。
「いやぁ、こやつもお前さんみたいに危なっかしいからのう。住み込みで鍛えてやることにしたのじゃ。磨けば光るような気がするしのう」
「また勝手に話を進めて…」
ホントこういうのが好きなのね。
「それに、こやつはわしの血を浴びたからのう。言うなれば血を分けた親子みたいなものじゃ」
「全然うまくないわよ…」
あぁ、それで手続きの時、保護者に名乗り出たわけね。
「で…でも、そんな急に…」
エイルがおずおずと口を出してきた。
「愚問じゃのう。お前さんは魔王軍の仲間になったのじゃろう。今更拒否権などあると思うか?」
ズワースは剃刀のように鋭い視線をエイルに向けた。その視線にエイルは思わず身じろぎした。
「それに――」
急に穏やかな口調になり、ズワースはエイルに顔を近づけて何かを耳打ちした。
「そ…そそそそんな!ぼぼぼぼ僕は…!」
エイルは顔を真っ赤にして急にわたわたと手を振った。何を言われたのかしら?下ネタ?
「そんなわけで、こんな感じの弟弟子ができたわけじゃ。よろしく頼むぞ!姉弟子よ!」
どんなわけよ。てか誰が姉弟子よ!また勝手に決めよってこの黒トカゲが!
「まぁ…仕方ないわね…」
溜息をつきながら私は肩をすくめた。あんなこと言った手前、責任もって私もこの少年の面倒を見なければならない。学校では後輩などもったことなどないのでどう扱えばいいかわからないが、そこはまぁ、出たとこ勝負でなんとかするほかあるまい。いずれにせよこの洞窟には通わなければならないしね。これも魔勇者様の仕事だと思ってなんとかしましょ。
「ぬ!いかん!」
「ど、どうしたのよ急に?」
突然声を上げたズワースに私は驚いた。
「お前さんの部屋を作ってもらうのを忘れとったわ!」
「いらんわ!魔王城にあるから!」
あの後私はエイルを魔王城に連れ、彼を正式に魔王軍の一員にすべく色々と書類手続きをする羽目になった。大抵の書類はエイル自身に書かせたが、保証人として私もサインをしなければならなかった。また、保護者の枠にはなんか同伴して来たズワースがサインを入れた。まさか書類手続きをするとは…ファンタジーっぽくない。まぁ、仮にも魔族の敵である人間が魔王軍に加入するのだ。このくらい用心する必要はあるよね。
ちなみにズワースが人型に変身してまで魔王城に来たのは自分の洞窟の修繕を依頼するためらしい。あの竜戦車の攻撃によって彼の住処である空洞は少なからぬ被害を受けた。さすがにあのままでは寝心地が悪いらしく、ここの建築担当に相談しに来たというわけだ。
しかし、この黒竜が魔王の父の友人というのは本当だったらしい。すれ違う魔族がみな頭を下げ、中にはサインを懇願する者もいた。魔族の中ではかなり偉大な人物だったようだ。
で、あの空洞に来たわけだが――
「リフォームしすぎでしょ…」
なんということでしょう。荘厳な扉を開いてみれば、あのがらんとした空洞がちょっとした体育館のような空間に生まれ変わってるじゃありませんか。床はピカピカの大理石のタイルが敷き詰められ、天井にはいくつかの照明が規則的に並んでいる。黒竜の姿のズワースが横たわる定位置にはでかいクッションが置いてある。しかも一画にはスポーツジム顔負けのトレーニング器具が並んでいた。完全に私の修行用だよねこれ?
「いやぁ~、まさかここまでしてくれるとはのう。あの魔王も親父に似たようじゃな、はっはっは」
セクシーな昇り竜が描かれた抱き枕を抱えながらまんざらでもない表情でズワースは言った。というか、魔王の父もこんな至れり尽くせりしてたのか…。
「いえいえ、こんなに喜んでいただけるとは…建築冥利に尽きますだよ」
サイ頭の大工がペコペコと頭を下げていた。彼は私に気づくと頭のヘルメットを外し、お辞儀をした。
「どうも魔勇者様。建築担当のスティーブだよ。よろしくお願いするだよ」
「あ、これはどうも」
私はお辞儀を返した。魔王軍の連中はホント律儀に挨拶するわね。
「しかしねぇ、ここまでやる必要あったの?」
頭を上げながら私は質問した。
「いやー、壁とか床とかかなり傷んでいたもんでね。思い切ってリフォームさせてもらっただよ」
スティーブの話によると、この造りはズワースのニーズに応えた結果らしい。
「そう言えば外の入り口に変な像があったんだけど…」
「ああ、それは新しく建てた防衛システムですだよ。敵と認識した人物を自動で攻撃してくれる便利な石像ですだよ」
あーそれで入り口に黒焦げの死体がいくつか転がっていたのね。よくもまあ三日でここまで作ったものね。
「まぁ、それはいいんだけど…」
私が横に目をやると、黒竜の右側の壁にある扉の前に立ち、困惑した表情を浮かべるエイルの姿が映った。その扉の上には『エイルの部屋』と書かれていた。
「あれ何?」
扉を指さしながら私はズワースに質問した。
「あぁ、ご注文にあったそこのお兄さんの居室ですだよ」
スティーブが代わりに回答した。
「「はぁ!?」」
私とエイルのリアクションがシンクロした。
「なんでんなもんあんのよ?」
「決まっているであろう。この小僧はここでわしが預かることにしたのじゃ」
ズワースは自分を親指で指しながら答えた。
「ど…どうしてそんな…」
エイルもどうやら初耳のようだ。
「いやぁ、こやつもお前さんみたいに危なっかしいからのう。住み込みで鍛えてやることにしたのじゃ。磨けば光るような気がするしのう」
「また勝手に話を進めて…」
ホントこういうのが好きなのね。
「それに、こやつはわしの血を浴びたからのう。言うなれば血を分けた親子みたいなものじゃ」
「全然うまくないわよ…」
あぁ、それで手続きの時、保護者に名乗り出たわけね。
「で…でも、そんな急に…」
エイルがおずおずと口を出してきた。
「愚問じゃのう。お前さんは魔王軍の仲間になったのじゃろう。今更拒否権などあると思うか?」
ズワースは剃刀のように鋭い視線をエイルに向けた。その視線にエイルは思わず身じろぎした。
「それに――」
急に穏やかな口調になり、ズワースはエイルに顔を近づけて何かを耳打ちした。
「そ…そそそそんな!ぼぼぼぼ僕は…!」
エイルは顔を真っ赤にして急にわたわたと手を振った。何を言われたのかしら?下ネタ?
「そんなわけで、こんな感じの弟弟子ができたわけじゃ。よろしく頼むぞ!姉弟子よ!」
どんなわけよ。てか誰が姉弟子よ!また勝手に決めよってこの黒トカゲが!
「まぁ…仕方ないわね…」
溜息をつきながら私は肩をすくめた。あんなこと言った手前、責任もって私もこの少年の面倒を見なければならない。学校では後輩などもったことなどないのでどう扱えばいいかわからないが、そこはまぁ、出たとこ勝負でなんとかするほかあるまい。いずれにせよこの洞窟には通わなければならないしね。これも魔勇者様の仕事だと思ってなんとかしましょ。
「ぬ!いかん!」
「ど、どうしたのよ急に?」
突然声を上げたズワースに私は驚いた。
「お前さんの部屋を作ってもらうのを忘れとったわ!」
「いらんわ!魔王城にあるから!」
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