上 下
43 / 261
第二章

弟弟子

しおりを挟む
 あれから三日が経過し、私はズワースの洞窟を訪れていた。

 あの後私はエイルを魔王城に連れ、彼を正式に魔王軍の一員にすべく色々と書類手続きをする羽目になった。大抵の書類はエイル自身に書かせたが、保証人として私もサインをしなければならなかった。また、保護者の枠にはなんか同伴して来たズワースがサインを入れた。まさか書類手続きをするとは…ファンタジーっぽくない。まぁ、仮にも魔族の敵である人間が魔王軍に加入するのだ。このくらい用心する必要はあるよね。
 ちなみにズワースが人型に変身してまで魔王城に来たのは自分の洞窟の修繕を依頼するためらしい。あの竜戦車の攻撃によって彼の住処である空洞は少なからぬ被害を受けた。さすがにあのままでは寝心地が悪いらしく、ここの建築担当に相談しに来たというわけだ。
 しかし、この黒竜が魔王の父の友人というのは本当だったらしい。すれ違う魔族がみな頭を下げ、中にはサインを懇願する者もいた。魔族の中ではかなり偉大な人物だったようだ。

 で、あの空洞に来たわけだが――

「リフォームしすぎでしょ…」

 なんということでしょう。荘厳な扉を開いてみれば、あのがらんとした空洞がちょっとした体育館のような空間に生まれ変わってるじゃありませんか。床はピカピカの大理石のタイルが敷き詰められ、天井にはいくつかの照明が規則的に並んでいる。黒竜の姿のズワースが横たわる定位置にはでかいクッションが置いてある。しかも一画にはスポーツジム顔負けのトレーニング器具が並んでいた。完全に私の修行用だよねこれ?

「いやぁ~、まさかここまでしてくれるとはのう。あの魔王も親父に似たようじゃな、はっはっは」
 セクシーな昇り竜が描かれた抱き枕を抱えながらまんざらでもない表情でズワースは言った。というか、魔王の父もこんな至れり尽くせりしてたのか…。
「いえいえ、こんなに喜んでいただけるとは…建築冥利に尽きますだよ」
 サイ頭の大工がペコペコと頭を下げていた。彼は私に気づくと頭のヘルメットを外し、お辞儀をした。
「どうも魔勇者様。建築担当のスティーブだよ。よろしくお願いするだよ」
「あ、これはどうも」
 私はお辞儀を返した。魔王軍の連中はホント律儀に挨拶するわね。
「しかしねぇ、ここまでやる必要あったの?」
 頭を上げながら私は質問した。
「いやー、壁とか床とかかなり傷んでいたもんでね。思い切ってリフォームさせてもらっただよ」
 スティーブの話によると、この造りはズワースのニーズに応えた結果らしい。
「そう言えば外の入り口に変な像があったんだけど…」
「ああ、それは新しく建てた防衛システムですだよ。敵と認識した人物を自動で攻撃してくれる便利な石像ですだよ」
 あーそれで入り口に黒焦げの死体がいくつか転がっていたのね。よくもまあ三日でここまで作ったものね。
 
「まぁ、それはいいんだけど…」
 私が横に目をやると、黒竜の右側の壁にある扉の前に立ち、困惑した表情を浮かべるエイルの姿が映った。その扉の上には『エイルの部屋』と書かれていた。

「あれ何?」
 扉を指さしながら私はズワースに質問した。
「あぁ、ご注文にあったそこのお兄さんの居室ですだよ」
 スティーブが代わりに回答した。

「「はぁ!?」」

 私とエイルのリアクションがシンクロした。

「なんでんなもんあんのよ?」
「決まっているであろう。この小僧はここでわしが預かることにしたのじゃ」
 ズワースは自分を親指で指しながら答えた。
「ど…どうしてそんな…」
 エイルもどうやら初耳のようだ。
「いやぁ、こやつもお前さんみたいに危なっかしいからのう。住み込みで鍛えてやることにしたのじゃ。磨けば光るような気がするしのう」
「また勝手に話を進めて…」
 ホントこういうのが好きなのね。
「それに、こやつはわしの血を浴びたからのう。言うなれば血を分けた親子みたいなものじゃ」
「全然うまくないわよ…」
 あぁ、それで手続きの時、保護者に名乗り出たわけね。
「で…でも、そんな急に…」
 エイルがおずおずと口を出してきた。
「愚問じゃのう。お前さんは魔王軍われら仲間ものになったのじゃろう。今更拒否権などあると思うか?」
 ズワースは剃刀のように鋭い視線をエイルに向けた。その視線にエイルは思わず身じろぎした。
「それに――」
 急に穏やかな口調になり、ズワースはエイルに顔を近づけて何かを耳打ちした。

「そ…そそそそんな!ぼぼぼぼ僕は…!」
 エイルは顔を真っ赤にして急にわたわたと手を振った。何を言われたのかしら?下ネタ?

「そんなわけで、こんな感じの弟弟子ができたわけじゃ。よろしく頼むぞ!姉弟子よ!」
 どんなわけよ。てか誰が姉弟子よ!また勝手に決めよってこの黒トカゲが!

「まぁ…仕方ないわね…」
 溜息をつきながら私は肩をすくめた。あんなこと言った手前、責任もって私もこの少年の面倒を見なければならない。学校では後輩などもったことなどないのでどう扱えばいいかわからないが、そこはまぁ、出たとこ勝負でなんとかするほかあるまい。いずれにせよこの洞窟ここには通わなければならないしね。これも魔勇者様の仕事だと思ってなんとかしましょ。

「ぬ!いかん!」
「ど、どうしたのよ急に?」
 突然声を上げたズワースに私は驚いた。
「お前さんの部屋を作ってもらうのを忘れとったわ!」
「いらんわ!魔王城むこうにあるから!」

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...