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第二章
竜の血の影響
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「よくやった。合格じゃ!」
サムズアップしながらズワースは誇らしげに私に声をかけた。
「まさかわしを利用するとはの…少しばかり驚かされたわい」
「『森羅万象を武器とせよ』…そう言ったのはあなたでしょ?」
私は鼻を鳴らしながら答えた。目的のために利用できるものは人も物も地形も全て利用せよ。私はそう解釈した。ズワースの顔を見るにどうやら当たりのようだ。
「飲み込みが良いのう。わしの孫とは大違いじゃわい」
「孫?」
「いや…なんでもない…」
一瞬だがズワースの顔が曇ったように見えた。一体誰のことだろうか?というか、こいつに孫がいるのだろうか。
「まあ、なんにせよ片付いたわけじゃが――」
「おのれえぇぇぇー!」
ズワースが話を戻そうとした時、怨嗟のこもった叫びが後ろから響いてきた。振り向くと落石で潰れた戦車の方からパンチパーマの男が短刀を構えて走って来ていた。見覚えがある。以前取り逃がした弓使いだ。あの落石の中でまだ生きていたのか。頭から血を大量に流し、片手で腹の出血を押さえているにも関わらず、やぶれかぶれで突っ込んでくる。
「だめだー!」
迎え撃とうと身構えた途端、エイルが私の前に立ち塞がり、弓使いの短刀をどてっぱらで受け止めた。
「うおあぁぁぁぁぁ!」
腹に刺された短刀の痛みを吹き飛ばすように叫びながらエイルは手斧を下から斜めに振り上げた。切り裂かれた相手の胸から血がほとばしり出た。
「ぎゃああぁぁぁぁぁ!」
弓使いは恨めしそうな顔を浮かべながら仰向けに倒れ、息絶えた。
「ぐうぅ…」
「だ…大丈夫?」
腹に刺さった短刀をどうにか抜き取り、片膝をついてうずくまるエイルの元に私は駆け寄った。けっこう深く刺さっていたようだ。
「ぐうう…う?」
何かに気づくと同時に彼は立ち上がり、腹の傷口を見た。するとそこにはすでに傷はなく、痛みも消えたようだ。
「な…治ってる…?」
あの刺し傷があっという間に塞がったのだ。私も驚いたが、その現象に本人が一番驚いているようだ。
「どうやら竜の血の効果が出たようじゃのう」
ズワースが頷いた。
「竜の血の…?」
「うむ、わしの推測じゃが、竜の血を浴びたり飲んだりした者はわしら竜族のような凄まじい再生力を身に着けるようじゃ」
竜の血肉を喰らうとすごい力を得る。そういう展開はファンタジーではよくある話だ。実際目にするとこんなに驚かされるものとは思わなかったが。
つまり彼は竜の血によって再生力のバフを永続的に得たということか。
「ったく…心配して損したわ。結局殺されるのかと思ったわよ」
左手で髪をかきながら私は溜息をついた。気まぐれとはいえ、せっかく助けた人間が死ぬなんて気分が悪いことこの上ないからね。
「ご…ごめんなさ…え?」
謝ろうと口を開いた途端、エイルは何かに気づいた。彼は自分が持つ血で汚れた手斧と目前に転がっている弓使いの亡骸を交互に見た。三秒ほど固まった後、彼はぽろっと手斧を落とした。まるで恋人の浮気現場を目撃した女子のような表情をしていた。
「あああああ!」
状況を理解したエイルは両手で頭を抱え、うずくまった。
「…色々と忙しい奴ね…」
フォローの言葉を考えながら私は毒づいた。
サムズアップしながらズワースは誇らしげに私に声をかけた。
「まさかわしを利用するとはの…少しばかり驚かされたわい」
「『森羅万象を武器とせよ』…そう言ったのはあなたでしょ?」
私は鼻を鳴らしながら答えた。目的のために利用できるものは人も物も地形も全て利用せよ。私はそう解釈した。ズワースの顔を見るにどうやら当たりのようだ。
「飲み込みが良いのう。わしの孫とは大違いじゃわい」
「孫?」
「いや…なんでもない…」
一瞬だがズワースの顔が曇ったように見えた。一体誰のことだろうか?というか、こいつに孫がいるのだろうか。
「まあ、なんにせよ片付いたわけじゃが――」
「おのれえぇぇぇー!」
ズワースが話を戻そうとした時、怨嗟のこもった叫びが後ろから響いてきた。振り向くと落石で潰れた戦車の方からパンチパーマの男が短刀を構えて走って来ていた。見覚えがある。以前取り逃がした弓使いだ。あの落石の中でまだ生きていたのか。頭から血を大量に流し、片手で腹の出血を押さえているにも関わらず、やぶれかぶれで突っ込んでくる。
「だめだー!」
迎え撃とうと身構えた途端、エイルが私の前に立ち塞がり、弓使いの短刀をどてっぱらで受け止めた。
「うおあぁぁぁぁぁ!」
腹に刺された短刀の痛みを吹き飛ばすように叫びながらエイルは手斧を下から斜めに振り上げた。切り裂かれた相手の胸から血がほとばしり出た。
「ぎゃああぁぁぁぁぁ!」
弓使いは恨めしそうな顔を浮かべながら仰向けに倒れ、息絶えた。
「ぐうぅ…」
「だ…大丈夫?」
腹に刺さった短刀をどうにか抜き取り、片膝をついてうずくまるエイルの元に私は駆け寄った。けっこう深く刺さっていたようだ。
「ぐうう…う?」
何かに気づくと同時に彼は立ち上がり、腹の傷口を見た。するとそこにはすでに傷はなく、痛みも消えたようだ。
「な…治ってる…?」
あの刺し傷があっという間に塞がったのだ。私も驚いたが、その現象に本人が一番驚いているようだ。
「どうやら竜の血の効果が出たようじゃのう」
ズワースが頷いた。
「竜の血の…?」
「うむ、わしの推測じゃが、竜の血を浴びたり飲んだりした者はわしら竜族のような凄まじい再生力を身に着けるようじゃ」
竜の血肉を喰らうとすごい力を得る。そういう展開はファンタジーではよくある話だ。実際目にするとこんなに驚かされるものとは思わなかったが。
つまり彼は竜の血によって再生力のバフを永続的に得たということか。
「ったく…心配して損したわ。結局殺されるのかと思ったわよ」
左手で髪をかきながら私は溜息をついた。気まぐれとはいえ、せっかく助けた人間が死ぬなんて気分が悪いことこの上ないからね。
「ご…ごめんなさ…え?」
謝ろうと口を開いた途端、エイルは何かに気づいた。彼は自分が持つ血で汚れた手斧と目前に転がっている弓使いの亡骸を交互に見た。三秒ほど固まった後、彼はぽろっと手斧を落とした。まるで恋人の浮気現場を目撃した女子のような表情をしていた。
「あああああ!」
状況を理解したエイルは両手で頭を抱え、うずくまった。
「…色々と忙しい奴ね…」
フォローの言葉を考えながら私は毒づいた。
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