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第二章

とんだお人よし

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「エイル・クレセントね。私は――」
 彼の名前を聞いて私の脳裏にある疑問が浮かんだ。

「…この世界って…名前が先で苗字が後?」
 私はアウルに尋ねた。ファンタジーなラノベならば西洋みたいに名前が先なはず。
「んーそうですね。人間も魔族もそんな感じです。ちなみに私のフルネームはアウル・フェザールといいます。好きなカレーはシーフードです」
 あ、やっぱりそんな感じか。コイツの好みのカレーは知らんけど。
「なら…私はシズハ・ミナガワ。シズハでいいわ」
 改めて私は名乗った。しかし、こうして見るとこの少年は冒険者には見えないほど弱弱しい雰囲気だ。少女と見紛う顔つきにか細い手足。どう見ても黒竜に一人で挑めるようなタマじゃない。武器を多数装備していたのはハッタリの一つだろうか?

「とりあえず、そこの椅子に座りなさい。別に罠とかないから大丈夫よ」
 私は近くにあった丸イスを指さし、着席を促した。エイルは恐る恐るイスに腰をかけた。

 ブゥッ!

「うわぁ!」

 イスの上に敷かれた座布団に腰を下ろした瞬間、おならのような音が響いた。それに驚いたエイルは悲鳴と共に小さく飛び上がった。私にも何が起きたかわからなかった。

「あら~、本当に引っかかったどすえ~」
「意外とばれないものですね。この放屁クッション」
「お前らが仕掛けたんかい!てか、何しょうもないことしてんのよ!」
 まったく、こんなネタグッズがこんな異世界にもあるとはね。 
 気を取り直して、私はエイルに尋ねた。

「それで…なんでまたあの黒竜を狙ったわけ?」
「……」
 エイルはだんまりを決め込んでいた。その視線は私の後ろにいる魔族二人に向けられていた。魔族には聞かれたくない話を持っているのだろうか。いや、単純に魔族に怯えているようだ。まぁ無理もない。はたから見れば捕えた人間を取り調べしている構図なのだから。

「大丈夫よ。こいつら二人はあんたの話なんかに興味はないわ。」
 私は後ろの二人を親指で指した。
「いや~ん。ひどいどすえ~」
 ウーナは身体をくねらせた。
「まぁ、期待はしていないですね」
 アウルは冷たく言い放った。
「とまぁ、そういうわけよ。安心して話しなさい」
「は…はぁ…」
 エイルは心境複雑な表情をしながらあきらめたかのように口を開いた。

「僕は…つい最近、冒険者になったばかりで…」
「まあ…そんな感じはするわね…」
 私は正直な感想を漏らした。
「でも、どうしてまた冒険者に?他の仕事の方が向いてそうだけど?」
「両親が事故で死んで…その両親が残した借金を返すために早くお金を稼ぎたかったんです…」
「なるほど…確かに冒険者ならば実力次第で金を稼ぐことが可能ですからね」
 アウルが頷いた。
「でも…まだランクも低くて大した依頼もないし、パーティーも組んでいないから…全然稼げなくて…」
 エイルは目を伏せながら話を続けた。ランクとかパーティーとか初めて聞く単語だが、ラノベをいくつか読んだことがある身としてはなんとなくわかる。この世界にもそういうベタなものがあるとはね。
「ギルドでパーティーに入れてくれる人を探していたんですけど…なかなか見つからなくて…」
 ふむふむ。
「で、あんたを入れてくれたのが、パンチパーマの弓使いとかが大勢いるパーティーだったわけ?」
「え?あ…はい…その人達が『黒竜討伐に行きたいから君も力を貸してほしい』って言うもので…強そうな人達がたくさんいるから大丈夫かなと思って…」
 ははぁ、なんとなく読めてきたぞ。
「…で、そいつらに変な作戦を吹き込まれたとか?」
「変というか…『先にお前が出て黒竜の目を引き付けろ』って言われて…『やばくなったら援護する』とも言われたからそのまま…」
 これでわかった。決定的だ。
「私の推測だけど…あんたは捨て駒にされたのよ…」
「え?」
 エイルは顔を上げ、表情を凍り付かせた。
「あんたを射線に入れて黒竜の目を欺き、あんた諸共黒竜に一撃を入れたスキに畳みかける。…それが彼らの作戦だったのよ」
 これはあくまで私とズワースの推測ではある。だが、あの矢の射線とその後の冒険者達の動きを見ればそうとしか思えなかった。
「でなければ一人ぐらいはあんたを救助に向かわせるはずよ」
「そ…そんなことはありません!」
「は?」
 まさかの否定発言。
「きっと、黒竜にほとんど殺されて、僕を助ける余裕がなかっただけなんです!」
 おいおい、あの連中をどんだけ信じているのよこいつ。
「じゃあ、あんたを貫いたあの矢はどう説明するのよ?」
「どうって…援護射撃の射線に僕が入ってしまったとか…」
 うわぁ、こいつはとんでもないお人よしだ。人を疑うことを知らない。そこを付け込まれたというわけか。
「ぶっちゃけ、バカですね」
 アウルが身も蓋もない言葉を投げかけた。ストレートすぎるだろ!私もそう思ったけど。
「まぁまぁ。そういうところ、わたくしはかわいいと思うどすえ~」
 尻尾を振りながらウーナは言った。私はそう思わないけど。
「一人生き残っていたけど、おそらくあんたのことなどすっかり忘れていると思うわ」
「そ、そんなはずは…」
 エイルが反論しようとしたその時だった。

 ぐぅぅ~…

 エイルの方から腹の音が聞こえた。彼は思わず腹を押さえ、顔を赤くした。

「…とりあえず、食事にでもしましょうか」
「え…?」
「そうですね。帰還したばかりですし、ここで少し休憩しましょう」
「いや…あの…」
「遠慮することないどすえ~。栄養取ると早く調子が良くなるどすえ~」
「で…でも…」
 
 がしっ。

 何かと煮え切らないこの少年の手を私は半ば強引に掴んだ。
「え?あ、あの…?」
「いいから来なさい」
 私はにべもなく言い切り、エイルを引っ張っていった。

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