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第二章
さてどうする?
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「ひとまず、これで大丈夫どすえ~」
魔王城の一画に設けられた医務室。私は拾った少年をそこに運び込み、ウーナに治療を頼んだ。当の少年はベッドに横になり、適切な処置を受けた後、輸血によって血液を補充されている。
「しかし、よくもまぁ都合よく人間の血液があったわね…」
医務室の中を見渡しながら私は言った。内装は学校の保健室を少し大きくした感じだ。
「人間の血はあらゆる目的で必要になりますからね。一通り揃えてあります」
アウルが説明した。あらゆる目的というのが何なのか気になるが、今は聞きたい気分ではなかった。ちなみに、少年の血液型はウーナの解析魔法で判断できた。
「しかし、びっくりしたどすえ~。魔勇者様が人間を連れてくるなんて思わなかったどすえ~」
「…やっぱりそう思う?」
正直自分でも驚いていた。こんな奴助ける義理など全くないはず。なんで助けたのか理由がわからない。
「迷惑…だよね…?」
私はおそるおそる尋ねてみた。昔、捨て猫を拾って親に怒られたことを思い出した。
「いえいえ~。竜の血を浴びた人間などめったに診れないどすえ~。むしろ魔勇者様には感謝したいぐらいどすえ~」
完全に個人的な関心で動いているわねこりゃ。
「確かに魔王城に人間を連れ込んだことには何かしらのリスクが考えられます。ですが、魔勇者様のお話にあった冒険者の一行の行為…私としても気に入らないものです。私が魔勇者様の立場でも同じことをしたでしょう」
アウルは冷静に意見を述べた。私もやはりこの少年を捨て駒にする彼らのやり方が気に入らなかったのだろう。
「それに、この程度の人間一人ならばリスクへの対応も容易いものだと思われます」
対応って…。まぁ、何をするかは聞くまでもないわよね。
「魔王様にはすでに報告済みです。魔王様からは『好きにせよ』との言葉をいただいております」
いつのまに報告したのよこのメイドは…。まぁ、助かったけど。
「とはいえ、いまは彼をどうにかしなくてはなりませんね」
「…そうね…」
本当にどうしたものか。とにかく、この少年が目を覚ましたら話を聞いてみるか。当の少年はぐっすり寝ている。
「輸血終わりましたどすえ~。針を外しますどすえ~」
そう言いながらウーナは丁寧に輸血の針を外した。
「うっ…うぅ…」
針を外した際の刺激で少年の目が覚めたようだ。
「あ…あれ…?」
少年はゆっくりと目を開いた。
「ここは…ギルド…?」
どうやらまだ寝ぼけているようだ。少年は自分の右腕に包帯を巻くウーナを見た。
「あら、おはようどすえ~」
ウーナは微笑みながら手と尻尾を振った。
「う、うわぁぁぁ!ま、魔族!」
少年は驚きのあまり、ベッドから転げ落ちた。
「あ、ちょっと待つどすえ~」
ウーナがなだめようと声をかけるが、少年は聞く耳などなく、異形の存在から逃れようと腰を抜かしながら後ずさりした。
「く、来るなぁぁぁ!」
少年は武器を手に取ろうと身体をまさぐるが、すでに彼の持ち物は治療の邪魔になるので取り外してあった。
「落ち着きなさい。あなたに危害を加えるつもりはないわ」
私が前に出て声をかけた。
「あ…え…あ、あなたは…人間…?」
先ほど会った私の顔を見て少年は手を止めた。私は両手を上げて攻撃の意思はないことを表明した。
「そうよ。と言ってもまあ、故あって魔族の世話になってる人間なんだけどね」
そう聞いて少年は目を丸くしていた。
「魔族の…?な、なぜ…?」
「色々あってね…今はそんなことどうでもいいわ。質問するのはこちらよ」
私は有無をいわさぬ視線を少年に向けた。その視線に刺された少年は観念したかのようにおとなしくなった。
「とりあえず…名前を教えてもらおうかしら…」
少年はうつむき、わずかな沈黙の後に静かに口を開いた。
「…エイル……エイル・クレセント…」
エイルと名乗った少年は怯えた表情を私に向けた。
魔王城の一画に設けられた医務室。私は拾った少年をそこに運び込み、ウーナに治療を頼んだ。当の少年はベッドに横になり、適切な処置を受けた後、輸血によって血液を補充されている。
「しかし、よくもまぁ都合よく人間の血液があったわね…」
医務室の中を見渡しながら私は言った。内装は学校の保健室を少し大きくした感じだ。
「人間の血はあらゆる目的で必要になりますからね。一通り揃えてあります」
アウルが説明した。あらゆる目的というのが何なのか気になるが、今は聞きたい気分ではなかった。ちなみに、少年の血液型はウーナの解析魔法で判断できた。
「しかし、びっくりしたどすえ~。魔勇者様が人間を連れてくるなんて思わなかったどすえ~」
「…やっぱりそう思う?」
正直自分でも驚いていた。こんな奴助ける義理など全くないはず。なんで助けたのか理由がわからない。
「迷惑…だよね…?」
私はおそるおそる尋ねてみた。昔、捨て猫を拾って親に怒られたことを思い出した。
「いえいえ~。竜の血を浴びた人間などめったに診れないどすえ~。むしろ魔勇者様には感謝したいぐらいどすえ~」
完全に個人的な関心で動いているわねこりゃ。
「確かに魔王城に人間を連れ込んだことには何かしらのリスクが考えられます。ですが、魔勇者様のお話にあった冒険者の一行の行為…私としても気に入らないものです。私が魔勇者様の立場でも同じことをしたでしょう」
アウルは冷静に意見を述べた。私もやはりこの少年を捨て駒にする彼らのやり方が気に入らなかったのだろう。
「それに、この程度の人間一人ならばリスクへの対応も容易いものだと思われます」
対応って…。まぁ、何をするかは聞くまでもないわよね。
「魔王様にはすでに報告済みです。魔王様からは『好きにせよ』との言葉をいただいております」
いつのまに報告したのよこのメイドは…。まぁ、助かったけど。
「とはいえ、いまは彼をどうにかしなくてはなりませんね」
「…そうね…」
本当にどうしたものか。とにかく、この少年が目を覚ましたら話を聞いてみるか。当の少年はぐっすり寝ている。
「輸血終わりましたどすえ~。針を外しますどすえ~」
そう言いながらウーナは丁寧に輸血の針を外した。
「うっ…うぅ…」
針を外した際の刺激で少年の目が覚めたようだ。
「あ…あれ…?」
少年はゆっくりと目を開いた。
「ここは…ギルド…?」
どうやらまだ寝ぼけているようだ。少年は自分の右腕に包帯を巻くウーナを見た。
「あら、おはようどすえ~」
ウーナは微笑みながら手と尻尾を振った。
「う、うわぁぁぁ!ま、魔族!」
少年は驚きのあまり、ベッドから転げ落ちた。
「あ、ちょっと待つどすえ~」
ウーナがなだめようと声をかけるが、少年は聞く耳などなく、異形の存在から逃れようと腰を抜かしながら後ずさりした。
「く、来るなぁぁぁ!」
少年は武器を手に取ろうと身体をまさぐるが、すでに彼の持ち物は治療の邪魔になるので取り外してあった。
「落ち着きなさい。あなたに危害を加えるつもりはないわ」
私が前に出て声をかけた。
「あ…え…あ、あなたは…人間…?」
先ほど会った私の顔を見て少年は手を止めた。私は両手を上げて攻撃の意思はないことを表明した。
「そうよ。と言ってもまあ、故あって魔族の世話になってる人間なんだけどね」
そう聞いて少年は目を丸くしていた。
「魔族の…?な、なぜ…?」
「色々あってね…今はそんなことどうでもいいわ。質問するのはこちらよ」
私は有無をいわさぬ視線を少年に向けた。その視線に刺された少年は観念したかのようにおとなしくなった。
「とりあえず…名前を教えてもらおうかしら…」
少年はうつむき、わずかな沈黙の後に静かに口を開いた。
「…エイル……エイル・クレセント…」
エイルと名乗った少年は怯えた表情を私に向けた。
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