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第二章
捨て駒
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「な……!」
何が起きたか一瞬理解できなかった。私が少年に斬りかかる直前、どこからか放たれた矢が少年の身体を貫いたのだ。バランスを崩した少年は手斧を落とし、うつ伏せに倒れた。
「ぐぅっ!」
ズワースの短い悲鳴が聞こえた。振り返ると彼の左肩あたりに先ほどの矢が刺さっている。さすがのズワースも予想もつかない攻撃に対応できなかったようだ。
「よし!当たったぞ!」
「今だ撃ちまくれー!」
部屋の出入り口から声が響き、矢が次々と飛んできた。その矢の軌道を見るに、狙いは黒竜のようだ。私は大剣を盾のように構え、いくつかの流れ弾を防いだ。様子を窺っていると、矢に紛れて一人出入り口から飛び出してくるのが見えた。
「くたばれオラァー!」
罵声をあげながら冒険者が剣を掲げてズワースに突っ込んでいった。いくらか矢が刺さったズワースだったが、気にすることなく炎を吐いて飛んでくる矢を全て焼き払った。当然のことながら、剣使いの冒険者もその中に含まれていた。
ズワースの炎が収まるのを見計らってもう一人の冒険者が槍を持って飛び出した。その後ろから援護射撃の矢がいくつか放たれている。今回の冒険者パーティーは曲がりなりにも策を練って来たようだ。さしずめ、ここに倒れている少年は最初の一撃のための捨て駒ということか。あの狙撃はあきらかに少年諸共ズワースを射貫く射線だった。その少年はいまだに傷口から血を流し続けている。
「…こいつら……!」
身体の内側が焼けるように熱くなった。私は大剣を構え直し、槍使いのどてっぱらを狙って振りかぶった。そいつは私の存在に気づく前に上半身と下半身を分けられ、その槍を振るうことはなかった。
「な、人間だと…?」
出入り口に隠れていた弓使いの一人が驚愕した。彼らは突っ込んでくる私を迎撃すべく次の矢をつがえ、一斉に放った。私はそれを最小限の動きでかわし、出入り口に迫った。当たりそうな矢は全てマフラーが弾いてくれた。
「お、おのれ!」
弓使い達の前に斧使いが立ち塞がり、私が振り上げた大剣を防がんと大斧を上段に構えた。私はそれを意に介することなく真上から一直線に振り下ろした。大剣を防ぐはずの大斧はガラスのように砕け散り、そのまま斧使いの身体は竹のように真っ二つに割れた。失禁しながらその様子を見ていた弓使い達の顔を私は睨み付けた。彼らは恐怖と困惑で顔を歪めていた。
「殺す…!」
その意思に応えるかのように身体が熱くなり、黒い炎が私の両手を通して大剣を包み込んだ。それを勢いよく振ると、炎を纏った衝撃破が弓使い達に襲い掛かった。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
黒い炎に飲み込まれた一人はもがく間もなく消し炭と化した。辛うじて直撃を避けた者もいたが、服の袖に燃え映った黒い炎は瞬く間に燃え広がり、やがて全身を包んだ。
「う、うわぁぁぁ!」
矢と策が尽きたのか最後の一人は弓を放り出して一目散に逃げていった。
「…逃がさない…!」
その背中とパンチパーマを捉えた私は後を追うべく右足を前に出し―――踏みとどまった。
今はやるべきことがある。
体内から燃え上がる衝動を抑えながら私は後ろを振り返り、走り出した。
何が起きたか一瞬理解できなかった。私が少年に斬りかかる直前、どこからか放たれた矢が少年の身体を貫いたのだ。バランスを崩した少年は手斧を落とし、うつ伏せに倒れた。
「ぐぅっ!」
ズワースの短い悲鳴が聞こえた。振り返ると彼の左肩あたりに先ほどの矢が刺さっている。さすがのズワースも予想もつかない攻撃に対応できなかったようだ。
「よし!当たったぞ!」
「今だ撃ちまくれー!」
部屋の出入り口から声が響き、矢が次々と飛んできた。その矢の軌道を見るに、狙いは黒竜のようだ。私は大剣を盾のように構え、いくつかの流れ弾を防いだ。様子を窺っていると、矢に紛れて一人出入り口から飛び出してくるのが見えた。
「くたばれオラァー!」
罵声をあげながら冒険者が剣を掲げてズワースに突っ込んでいった。いくらか矢が刺さったズワースだったが、気にすることなく炎を吐いて飛んでくる矢を全て焼き払った。当然のことながら、剣使いの冒険者もその中に含まれていた。
ズワースの炎が収まるのを見計らってもう一人の冒険者が槍を持って飛び出した。その後ろから援護射撃の矢がいくつか放たれている。今回の冒険者パーティーは曲がりなりにも策を練って来たようだ。さしずめ、ここに倒れている少年は最初の一撃のための捨て駒ということか。あの狙撃はあきらかに少年諸共ズワースを射貫く射線だった。その少年はいまだに傷口から血を流し続けている。
「…こいつら……!」
身体の内側が焼けるように熱くなった。私は大剣を構え直し、槍使いのどてっぱらを狙って振りかぶった。そいつは私の存在に気づく前に上半身と下半身を分けられ、その槍を振るうことはなかった。
「な、人間だと…?」
出入り口に隠れていた弓使いの一人が驚愕した。彼らは突っ込んでくる私を迎撃すべく次の矢をつがえ、一斉に放った。私はそれを最小限の動きでかわし、出入り口に迫った。当たりそうな矢は全てマフラーが弾いてくれた。
「お、おのれ!」
弓使い達の前に斧使いが立ち塞がり、私が振り上げた大剣を防がんと大斧を上段に構えた。私はそれを意に介することなく真上から一直線に振り下ろした。大剣を防ぐはずの大斧はガラスのように砕け散り、そのまま斧使いの身体は竹のように真っ二つに割れた。失禁しながらその様子を見ていた弓使い達の顔を私は睨み付けた。彼らは恐怖と困惑で顔を歪めていた。
「殺す…!」
その意思に応えるかのように身体が熱くなり、黒い炎が私の両手を通して大剣を包み込んだ。それを勢いよく振ると、炎を纏った衝撃破が弓使い達に襲い掛かった。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
黒い炎に飲み込まれた一人はもがく間もなく消し炭と化した。辛うじて直撃を避けた者もいたが、服の袖に燃え映った黒い炎は瞬く間に燃え広がり、やがて全身を包んだ。
「う、うわぁぁぁ!」
矢と策が尽きたのか最後の一人は弓を放り出して一目散に逃げていった。
「…逃がさない…!」
その背中とパンチパーマを捉えた私は後を追うべく右足を前に出し―――踏みとどまった。
今はやるべきことがある。
体内から燃え上がる衝動を抑えながら私は後ろを振り返り、走り出した。
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