異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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番外編

魔王城の名所

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「あれは何?」

 私は妙な物を見つけた。昼下がりに魔王城の中にある中庭を散歩していると、その一角の壁に妙なオブジェがあったのだ。そのオブジェは巨大な鬼の顔を模しており、大きく口を開いていた。オブジェの近くにはゴブリンが二人何か話している。

「あぁ、あれはこの城の名所の一つ、『悪魔の口』でございます」
 隣にいたアウルが解説した。なんか似たようなものが元の世界にもあったような気がする。
「あれにはちょっとした仕掛けがあるんですよ」
「仕掛け?」
「まず、あの口の中に手を突っ込みます」
 アウルの説明に合わせるかのようにゴブリンの一人がオブジェの口に右手を突っ込んだ。

「俺さぁ、これまでに三十人の女と付き合ったんだぜ!」
 手を突っ込んだゴブリンが自慢げに語った。明らかに嘘くさい。その直後、手を口に突っ込まれた悪魔の目が怪しく輝いた。

「うぎゃあぁぁぁ!」
 右手に何かの衝撃が走ったのかゴブリンが悲鳴をあげた。
「あああぁ…」
 衝撃が収まったのか、ゴブリンは気の抜けた声と共に右手を引っこ抜いた。その手を見てみると、何かの漫画に出てきそうなゴブリンには不似合いの禍々しい右手に変化していた。
「とまぁ、あんな感じに手を突っ込んで嘘をつくと手が悪魔の手に変化します」
「なんでだよオイ!というかどういうコンセプトで作ったのよあれ?」
「もともとは取り調べ時の嘘発見装置として昔作られたそうですが、読心魔法の発展によりすっかり使われなくなりましてね。勿体ないからあそこに置いてあるそうです」
「嘘発見するたびに手がああなるのかい!」
 というか、こんな中庭になんちゅうもの置いてんのよ。
「んで、そのままだと味気ないのでとある改造が施されたそうです」
「改造?」
「あぁ、それはですね…」
 もう一人のゴブリンが悪魔の口に右手を突っ込んだ。

「巷で話題になっている『獄炎の魔剣士』って実は俺のことなんだぜ!」
 もう一人も同様に明らかな嘘をついた。彼もまた右手に衝撃をもらい、静かに引っこ抜いた。その右手は先ほどとは異なり、黄金に輝くゴブリンの右手と化していた。

「よっしゃー!黄金キタコレ!」
「くっそー、いいなー」
 黄金の右手を手に入れたゴブリンはその手を振り上げて歓喜していた。一方、悪魔の右手のゴブリンは羨ましそうに見ていた。

「ごくまれに黄金の手に変化するようになりました。いわゆる運試し機能ですね」
「しょうもねぇガチャだなオイ!」
「ちなみに、どちらも見た目だけの変化ですので、特殊能力が付加されるということはございません」
「ないのかよ!」
「まぁ、三日で元に戻りますのでさほど害がありません」
「三日もあのままかよ!」
 私が三連続ツッコミをかましている間に別の魔物のグループが悪魔の口に手を突っ込んでいた。どうやら人気のスポットになっているらしい。

「魔勇者様も一度突っ込んでみますか?」
「…遠慮しとくわ」
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