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第一章
初任務完了
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「魔勇者様!ご無事ですか?」
隻腕の冒険者を見送った私は後ろから聞こえたアウルの声で我に返った。振り返ると、ヌコが手を振りながらこちらに近づき、アウルは両腕に冒険者達から奪ったとおぼしき荷物を抱えていた。ちなみにヌコは紫色の目玉みたいなガラス玉を持っていた。
「いやぁ、人間達をあっという間に斬り伏せたその腕前、感服したっスー!」
そう言われて足元を見ると、ツノワタを乱獲しようと下劣な笑みをさっきまで浮かべていた冒険者達が無残な骸と化して転がっており、辺りの地面は赤く染まっていた。
「…これを…私が…?」
武器を振るっていた時の記憶が曖昧だが、肉を斬った感覚がわずかに手に残っている。赤いマフラーは敵から奪ったと思われるこん棒を握りしめていた。
この二人は私の実力に驚いているようだが、一番驚いているのはおそらく私自身だ。感情的になったとはいえ、ここまで人間を惨たらしく殺せるとは思いもしなかった。そして何より、人を殺したはずなのに私の中には罪悪感と呼ぶべき重苦しい感覚がなかった。こんなホラー映画みたいなスプラッター現場にいるにもかかわらずひどく落ち着いている自分がいる。
「…ってうわ!」
自分の身体を見てみるともらったばかりの衣服が返り血によって赤く染まっていた。血液特有の鉄臭さが鼻を刺した。人間って斬られるとここまで血が出るのね。そしてくっさい。
洞窟に目を向けるとその入り口には地雷の犠牲者達が転がっている。その眉間にはアウルが撃ったと思われる鳥の羽が突き刺さっていた。
「ごめんね…勝手な真似をしちゃって…」
私は思わず謝罪した。本来ならば彼らは私が相手するべきだったはず。段取りを狂わせたことには素直に申し訳ないと思った。
「いえ、魔勇者様は想定外の事態に的確に対処してくださいました。結果的ながらも正しい判断でした」
「でも…」
反論しようとしたその時、足元の亡骸から赤い靄が昇り出していた。
「な、何?」
周りを見ると他の亡骸からも同様に赤い靄が現れ、それらはやがて一つの塊となり私の手に吸い寄せられていった。
靄が完全に私に吸い込まれた瞬間、私の中の何かが燃えあがった。先ほどまであった疲労感があっという間に失せ、むしろ身体がより軽くなったような感覚だ。
「こ…これは…?」
「おそらく、それは『魔王の力』の影響…。魔勇者様は殺した敵の命を吸収したのだと思います」
「吸収…?」
「かつて魔王様は敵の生命力を吸収する魔法を得意としていたと聞いたことがあります。それを元に魔勇者様の中で発現したものだと思われます」
命を喰らって成長…ということか。経験値とレベルアップと言えば聞こえはいいようだが、体感してみるとなんとも血生臭いレベルアップだ。金やアイテムはアウルがすでにいただいている。はたから見るとRPGの主人公ってえげつないものね。
「そういえば、一人逃がしちゃったけどいいのかしら」
「むしろ好都合です。生き証人がいればここで起きた惨劇が具体的に広まります。そいつの証言によってこの周辺はしばらく人は寄り付かないでしょう」
「そう…」
「むきゅー、むきゅー」
私は足元にいるツノワタの生き残りを見た。彼らは助けてもらったことを喜んでいるかのように跳ねている。この姿を見ることができただけでも戦った甲斐があったような気がする。
「おや~何をにやついているんスか~魔勇者様~?」
「どわっ!な、何でもないわよ!」
我に返ると横からヌコがとてもうざい顔をして私の顔を覗いていた。その隣ではアウルがクスクスと笑っている。
「魔勇者様も女の子らしい感性をお持ちのようですね」
「やかましいわ!」
私の気持ちを代弁するかのようにマフラーがこん棒を振るった。
「おぐっ!」
アウルの顔面を狙ったはずだが、彼女は賢しくもヌコの顔面を身代わりにしていた。
「もー、ひどいっスよアウルさーん!」
鼻血を流しながらヌコは文句を言った。案外平気そうだ。
「ともあれ、これにて任務完了です。魔王城に戻りましょう」
何事もなかったかのようにアウルは話を進めた。
「わ、わかったわ」
「了解っスー!」
私とヌコはアウルの元に集まった。アウルが移動魔法を唱えると周囲につむじ風が巻き起こり、私達を魔王城に運んだ。
これが私の魔勇者としての初任務であった。
隻腕の冒険者を見送った私は後ろから聞こえたアウルの声で我に返った。振り返ると、ヌコが手を振りながらこちらに近づき、アウルは両腕に冒険者達から奪ったとおぼしき荷物を抱えていた。ちなみにヌコは紫色の目玉みたいなガラス玉を持っていた。
「いやぁ、人間達をあっという間に斬り伏せたその腕前、感服したっスー!」
そう言われて足元を見ると、ツノワタを乱獲しようと下劣な笑みをさっきまで浮かべていた冒険者達が無残な骸と化して転がっており、辺りの地面は赤く染まっていた。
「…これを…私が…?」
武器を振るっていた時の記憶が曖昧だが、肉を斬った感覚がわずかに手に残っている。赤いマフラーは敵から奪ったと思われるこん棒を握りしめていた。
この二人は私の実力に驚いているようだが、一番驚いているのはおそらく私自身だ。感情的になったとはいえ、ここまで人間を惨たらしく殺せるとは思いもしなかった。そして何より、人を殺したはずなのに私の中には罪悪感と呼ぶべき重苦しい感覚がなかった。こんなホラー映画みたいなスプラッター現場にいるにもかかわらずひどく落ち着いている自分がいる。
「…ってうわ!」
自分の身体を見てみるともらったばかりの衣服が返り血によって赤く染まっていた。血液特有の鉄臭さが鼻を刺した。人間って斬られるとここまで血が出るのね。そしてくっさい。
洞窟に目を向けるとその入り口には地雷の犠牲者達が転がっている。その眉間にはアウルが撃ったと思われる鳥の羽が突き刺さっていた。
「ごめんね…勝手な真似をしちゃって…」
私は思わず謝罪した。本来ならば彼らは私が相手するべきだったはず。段取りを狂わせたことには素直に申し訳ないと思った。
「いえ、魔勇者様は想定外の事態に的確に対処してくださいました。結果的ながらも正しい判断でした」
「でも…」
反論しようとしたその時、足元の亡骸から赤い靄が昇り出していた。
「な、何?」
周りを見ると他の亡骸からも同様に赤い靄が現れ、それらはやがて一つの塊となり私の手に吸い寄せられていった。
靄が完全に私に吸い込まれた瞬間、私の中の何かが燃えあがった。先ほどまであった疲労感があっという間に失せ、むしろ身体がより軽くなったような感覚だ。
「こ…これは…?」
「おそらく、それは『魔王の力』の影響…。魔勇者様は殺した敵の命を吸収したのだと思います」
「吸収…?」
「かつて魔王様は敵の生命力を吸収する魔法を得意としていたと聞いたことがあります。それを元に魔勇者様の中で発現したものだと思われます」
命を喰らって成長…ということか。経験値とレベルアップと言えば聞こえはいいようだが、体感してみるとなんとも血生臭いレベルアップだ。金やアイテムはアウルがすでにいただいている。はたから見るとRPGの主人公ってえげつないものね。
「そういえば、一人逃がしちゃったけどいいのかしら」
「むしろ好都合です。生き証人がいればここで起きた惨劇が具体的に広まります。そいつの証言によってこの周辺はしばらく人は寄り付かないでしょう」
「そう…」
「むきゅー、むきゅー」
私は足元にいるツノワタの生き残りを見た。彼らは助けてもらったことを喜んでいるかのように跳ねている。この姿を見ることができただけでも戦った甲斐があったような気がする。
「おや~何をにやついているんスか~魔勇者様~?」
「どわっ!な、何でもないわよ!」
我に返ると横からヌコがとてもうざい顔をして私の顔を覗いていた。その隣ではアウルがクスクスと笑っている。
「魔勇者様も女の子らしい感性をお持ちのようですね」
「やかましいわ!」
私の気持ちを代弁するかのようにマフラーがこん棒を振るった。
「おぐっ!」
アウルの顔面を狙ったはずだが、彼女は賢しくもヌコの顔面を身代わりにしていた。
「もー、ひどいっスよアウルさーん!」
鼻血を流しながらヌコは文句を言った。案外平気そうだ。
「ともあれ、これにて任務完了です。魔王城に戻りましょう」
何事もなかったかのようにアウルは話を進めた。
「わ、わかったわ」
「了解っスー!」
私とヌコはアウルの元に集まった。アウルが移動魔法を唱えると周囲につむじ風が巻き起こり、私達を魔王城に運んだ。
これが私の魔勇者としての初任務であった。
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