異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第一章

武器とその知識

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「とりあえず、武器の方から見てみましょう」
 私達は武器類が並べられている場所に移動した。
「武器…各種…用意した…」
 シートには剣、槍、斧といったポピュラーな武器からハンマーや鎌、鞭などちょっと癖のある武器まで多種多様に揃っていた。
「うーん…どれがいいかしらねぇ…」
 部活は文芸部(しかも幽霊部員)だったし、箒チャンバラさえも経験がない。そんな自分がアニメやゲームみたいに武器を振るって戦う姿がイメージできなかった。
「一度手にとって使ってみるといいですよ。そのためにこの訓練場にお連れしたのですから」
「でも、使い方とかあまりわかんないのよ」
 剣一つ使うにしろ、構えだのなんだのあるじゃん。ニュータイプじゃあるまいし、まともに使う自信が正直ない。
「あぁ、それに関しては問題ありません」
 アウルは懐から手のひらに収まるほどの大きさの四角い石を取り出し、自分の耳元にあてた。
「魔王様。『武器の使い方』をお願いしたいのですが…」
『うむ、承知した』
「ちょちょちょ!え?何?」
 その石から魔王の声が聞こえたんだけど?それに似た道具を私はよく知っているんだけど?
「これですか?同じ物を持っている人と会話ができる『通信石つうしんせきです』」
 電話やんけ!さんざんテレビとか自販機とか出てきた後に急にファンタジー臭の強い道具出てきたよ!
「ちなみにこの石は魔王様との会話のみ可能です」
 どうやら電話というよりトランシーバーに近い物のようね。これでスマホみたいに多機能だったら漫画みたいにずっこけていたところだわ。
「そ、それより今なんか言っていたわよね?使い方がどうのって…」
「あぁ、そうでしたね。…では魔王様、お願いします」
「え?お願いって……おぐっ!?」
 頭上にタライが降ってきたかのような衝撃が頭に走った。その衝撃が収まると、頭の中に様々な情報が流れ込んできた。武器の種類、性能、持ち方、構え方、振るい方などまるで最初から知っていたかのように理解できた。
「ちょ…何をしたのよ?」
「魔王様が持つ武器の知識を魔勇者様の中にある『力』に流しこみました。これで魔勇者様は魔王様と同等の技術を扱うことができます」
「同等…?あいつ色んな武器を使えるの?」
「はい。あぁ見えて魔王様は腕一つで魔王の座を勝ち取った実力の持ち主です」
 腕一つって…かなりの武闘派だったのね…。しかし…
「『魔王の力』にこんな使い道があったとはね…。何とも都合のいい展開だわ」
 私は右手をニギニギしながらつぶやいた。
「魔王様は魔勇者様と『魔王の力』によって繋がっているのです。いわば見えない赤い糸です」
 気持ち悪い言い方するな!
「そのため、今のように魔王様の知識や記憶を魔勇者様に送り込むことができるのです」
「ずいぶん器用な真似するわね…」
「えぇ、初めてだけど上手くいってよかったと魔王様も仰ってます」
 すかさずアウルの手から通信石を奪った私は石に向かって怒鳴りつけた。
「おい魔王!これも初めてかよ!」
『言うたであろう。おぬしが初めての魔勇者であると』
 悪びれることなく魔王は返答した。そういえば言っていたわね。
「でもそんな真似できるなら最初から私に力とかを注いで最強にできるんじゃないの?」
『理論上は可能だ。しかし、リスクが高すぎる』
 魔王から返ってきたのは意外な答えだった。
『初めてゆえにおぬしにどんな影響を与えるかわからぬ以上、いきなり強すぎる力を注ぐわけにはいかぬ』
 一理ある。それにしても意外と慎重ねこの魔王。
『ゆえに今おぬしに与えた武器の知識はあくまで基本的なものだ。それ以上のものはおぬし自身で身に着けるのだ』
「…わかったわ。ご忠告どうも」
 そう言って私は通信石をアウルに返した。

(…まぁ、実戦に出す前に道具が壊れちゃ話にならないからね…)

 気を取り直して私は武器を物色した。
「とはいえ、どれにしようかしら?」
「これなんかいかがでしょうか?」
 アウルが手に取り、私に持たせた物は変わった武器であった。厚手の白い紙製で、蛇腹状に折られた一方はテープで巻いた握りになっており、反対側は扇子状に開かれている。
「…ってこれハリセンやないかい!」
 勢いでこのメイドの頭をひっぱたくとスパーンときれいな音が訓練場に響いた。

「とても…似合う…ジャストフィット…」

 クロムがそうつぶやくのが聞こえたので私はその顔もひっぱたいた。
 
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