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第一章

メイドと料理長の会話

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「それでは魔勇者様。夕食の時間となりましたらお呼びいたしますので」
「わ、わかったわ。じゃ、それまで休ませてちょうだい…」
 静葉はベッドの上の枕に顔をうずめながら手を振った。
「はい。どうぞごゆっくり」
 アウルは一礼し、魔勇者の部屋から退室した。

 廊下をしばらく歩くと、横に設置されたベンチに腰掛け、缶コーヒーを飲んで休憩する青年がいた。燃えるような赤毛と雄牛のような二本の角を生やし、コック帽をかぶったエプロン姿の青年はメイドに気づくや否や気さくに声をかけた。

「よう、アウル!魔勇者様にご挨拶は済んだのかい?」
「あら、カルボ。こんなところで休憩とはいいご身分ね」
 カルボと呼ばれた青年は持っていた缶コーヒーをベンチの上に置いた。
「いいんだよ。下ごしらえはほとんど終わったからさ。それより、どうなんだ?魔勇者様の印象は?」
「そうね…なかなか興味深いお方よ」
「興味深い?普通の人間じゃないのかい?」
「見た目はね。でも、魔王様にあれだけ啖呵を切ることができる根性の持ち主よ。並の人間なら魔王様の正面に立つだけで卒倒してしまうのにね」
「へぇ~、見たかったなそりゃ」
「ふっ、すぐに見られるわよきっと」
 アウルは意地悪な笑みを浮かべた。どうやら彼女は静葉のことが気に入ったようだ。アウルはベンチの隣に置かれている自動販売機に小銭を入れ、オレンジジュースを購入した。

「それにしても驚いたよな…まさか召喚した人間を魔勇者にするとはね…」
「同感ね。魔王様の話によると此度の戦争の切り札になるお方だそうよ。決して危害を加えるなという命も出ているわ」
「なるほど。それでここまで丁重にもてなしているってわけか。どおりで最高級のオーダーが入ったわけだよ」
 カルボは筋肉質の腕を組み、頷いた。
「魔勇者様本人はこの待遇に戸惑っているみたいだけどね」
「戸惑う?そりゃまたどうして?」
「さあね。魔王様のいかつい見た目に反して好待遇だったからじゃない?」
 アウルは肩を竦め、ジュースを一口飲んだ。

「とにかく、食事は任せたわよ。くれぐれもマズいもの食わせないでよ、料理長殿」
「そっちこそ。魔勇者様の面倒をしっかりみてくれよ。メイド長殿」
 ジュースを飲みながら手を振り、アウルは廊下を歩いていった。それを見送ったカルボはコーヒーを飲み干し、空き缶をゴミ箱に放り込んだ。

「さて…そろそろ仕事に戻りますか…っと」
 立ち上がり、屈伸をしたカルボはまだ見ぬ魔勇者に期待をはせながら厨房へ戻っていった。
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