魔導士と巫女の罪と罰

羽りんご

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第一章

それは驚きのお茶請けだった

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 着替えを終えたステラは茶の間に案内された。

 茶の間は夕菜の部屋よりやや広く、中央には大きめのちゃぶ台があり、周りには座布団が三枚置かれていた。
「適当な所に座っていいわよ」
「あ、はい…」
 椅子のないところに座ることに慣れていないのかステラはしどろもどろしながら座布団に腰を下ろした。ほどなくして廊下側の障子戸が開き、遠夜が大きめのお盆を持ってきた。そのお盆の上には急須と湯飲みとお茶請けが乗っていた。 

「お待たせ。粗茶だけどいいかな?ええと…」
 ステラは自分がまだ名乗っていなかったことを思い出した。
「あ、ステラです。ステラ・レスタティオです…」
 ステラは物怖じしながら名乗った。お茶を運ぶその巫女の表情は柔らかく、先程自分の首をはねようとした巫女と同じ人物とはとても思えなかった。
「あぁ、ステラさんね。その…さっきはごめんね」
 ステラの顔を見て遠夜は何かを察して謝罪した。
「あ、いえ…その――」

――ぐぅぅぅぅ…

 話を遮るように腹の音が鳴った。ステラは赤面しながら自分の腹を押さえた。
「あぁ、ごめんごめん!お腹空いてるんだね。今渡すから!」
 遠夜はちゃぶ台に人数分の湯飲みを置き、急須で丁寧にお茶をそそいだ。一方ステラは二度も腹の音を聴かれて穴があったら入りたいほど恥ずかしい気分だった。元の世界で夕食の時間の前にこの世界に飛ばされたのだ。ここに来るまで水しか口にしていない。
「どうぞ」
 気を取り直して湯飲みを眺めると緑色のお茶が注がれていた。これまた馴染みのないお茶であった。いつも飲んでいる紅茶とはまた違う香りでちょっと新鮮だった。息を吹きかけ熱を冷ましながらステラは一口含んだ。ほんのりとした苦みがのどを通った。甘党であるステラにとっては砂糖を足したい気分だった。そう思った矢先にお茶請けが手元に運ばれてきた。
「…?…これは?」
「あぁ、ついさっき焼いたヤツだよ。丁度いいと思ってさ」
 小皿の上に置かれているのは輪切りにされたイモ類だった。紫色の皮に黄金色の中身、程よく火が通っているのか香ばしい匂いが立ち込めていた。外で嗅いだものと同じ匂いだ。食べやすいように一切れごとに爪楊枝が刺さっていた。
「近くで採れた『サイゴウ芋』だよ。さっき落ち葉焚きするついでに焼いたんだ」
「芋…?」
 お茶請けに芋一つ。種類こそ異なるが元の世界ではどちらかというと主食の一種というイメージがあった。手頃な価格で入手できるため、大量に購入する庶民を見たことがある。立場上高級なお菓子ばかり口にしていたステラにとってぱっとしないお茶請けだった。
「この時期、焼き芋は女性に人気のお茶請けなんだ」
「女性に?これが?」
 ステラは半信半疑で焼き芋を凝視した。
「食べたことないの?大丈夫、皮ごと食べられるから」
 ステラは爪楊枝を手に取り、おそるおそる口に運んだ。咀嚼するとただのイモ類とは思えない芳醇な香りが口内に広がった。

「…美味しい…」
 ただ火を通しただけなのにまるでお菓子のような甘さにステラは驚いた。
「うん。この前町で食べたヤツに近いわね」
 同調するように夕菜がうなづいた。
「よかった~!初めて作ったからちょっと緊張してたんだよ~」
 遠夜は両手を合わせて歓喜の声をあげた。好評をもらって嬉しかったのか満面の笑みを浮かべた。
「町でこの焼き芋を売ってる屋台があってね、うまそうだったから自分で作ってみたんだよ」 
「あんまり食べ過ぎちゃダメよ。でないと屁が止まらなくなるわよ」
 お茶を飲みながら夕菜が口をはさんだ。
「ちょ…屁って…」
 女性の口から出すには下品な言葉にステラは眉をひそめた。
「そうそう。姉さんなんかこないだ一気に三つも食べてラッパみたいな屁が出ていたたたた!」
 遠夜が言い終わるまえに夕菜はその耳を思い切り引っ張り出した。
「お茶のおかわりもらえるかしら、?」
 乾いた笑みを浮かべながら夕菜は手荒くおかわりを要求した。
「え?『くん』?」
 違和感のある言葉を耳にしたステラは思わず聞き返した。
「あぁ、言ってなかったっけ?」
 ぶつくさ言いながら急須にお湯を足そうと立ち上がった遠夜の袴を掴み、夕菜は思いきり引き下げた。勢い余って中の下着ごと青い袴はずり落ち、その下半身が丸出しになった。突然の奇行に目を奪われたステラだが、彼女の視線は『女性の下半身には絶対存在しないもの』を捉えていた。

「あ…え…?」
 遠夜は一瞬何が起こったか理解できず、呆気にとられていた。ちゃぶ台の向かいにいるステラの顔がみるみるうちに赤くなっていた。

「ぴ……ぴぎゃぁぁぁぁぁー!!」

「改めて紹介するわ。この子は暁遠夜。私の『弟』よ」

 夕菜は意地悪な笑みを浮かべながら焼き芋を口に運んだ。
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