11 / 17
第一章
それは驚きのお茶請けだった
しおりを挟む
着替えを終えたステラは茶の間に案内された。
茶の間は夕菜の部屋よりやや広く、中央には大きめのちゃぶ台があり、周りには座布団が三枚置かれていた。
「適当な所に座っていいわよ」
「あ、はい…」
椅子のないところに座ることに慣れていないのかステラはしどろもどろしながら座布団に腰を下ろした。ほどなくして廊下側の障子戸が開き、遠夜が大きめのお盆を持ってきた。そのお盆の上には急須と湯飲みとお茶請けが乗っていた。
「お待たせ。粗茶だけどいいかな?ええと…」
ステラは自分がまだ名乗っていなかったことを思い出した。
「あ、ステラです。ステラ・レスタティオです…」
ステラは物怖じしながら名乗った。お茶を運ぶその巫女の表情は柔らかく、先程自分の首をはねようとした巫女と同じ人物とはとても思えなかった。
「あぁ、ステラさんね。その…さっきはごめんね」
ステラの顔を見て遠夜は何かを察して謝罪した。
「あ、いえ…その――」
――ぐぅぅぅぅ…
話を遮るように腹の音が鳴った。ステラは赤面しながら自分の腹を押さえた。
「あぁ、ごめんごめん!お腹空いてるんだね。今渡すから!」
遠夜はちゃぶ台に人数分の湯飲みを置き、急須で丁寧にお茶をそそいだ。一方ステラは二度も腹の音を聴かれて穴があったら入りたいほど恥ずかしい気分だった。元の世界で夕食の時間の前にこの世界に飛ばされたのだ。ここに来るまで水しか口にしていない。
「どうぞ」
気を取り直して湯飲みを眺めると緑色のお茶が注がれていた。これまた馴染みのないお茶であった。いつも飲んでいる紅茶とはまた違う香りでちょっと新鮮だった。息を吹きかけ熱を冷ましながらステラは一口含んだ。ほんのりとした苦みがのどを通った。甘党であるステラにとっては砂糖を足したい気分だった。そう思った矢先にお茶請けが手元に運ばれてきた。
「…?…これは?」
「あぁ、ついさっき焼いたヤツだよ。丁度いいと思ってさ」
小皿の上に置かれているのは輪切りにされたイモ類だった。紫色の皮に黄金色の中身、程よく火が通っているのか香ばしい匂いが立ち込めていた。外で嗅いだものと同じ匂いだ。食べやすいように一切れごとに爪楊枝が刺さっていた。
「近くで採れた『サイゴウ芋』だよ。さっき落ち葉焚きするついでに焼いたんだ」
「芋…?」
お茶請けに芋一つ。種類こそ異なるが元の世界ではどちらかというと主食の一種というイメージがあった。手頃な価格で入手できるため、大量に購入する庶民を見たことがある。立場上高級なお菓子ばかり口にしていたステラにとってぱっとしないお茶請けだった。
「この時期、焼き芋は女性に人気のお茶請けなんだ」
「女性に?これが?」
ステラは半信半疑で焼き芋を凝視した。
「食べたことないの?大丈夫、皮ごと食べられるから」
ステラは爪楊枝を手に取り、おそるおそる口に運んだ。咀嚼するとただのイモ類とは思えない芳醇な香りが口内に広がった。
「…美味しい…」
ただ火を通しただけなのにまるでお菓子のような甘さにステラは驚いた。
「うん。この前町で食べたヤツに近いわね」
同調するように夕菜がうなづいた。
「よかった~!初めて作ったからちょっと緊張してたんだよ~」
遠夜は両手を合わせて歓喜の声をあげた。好評をもらって嬉しかったのか満面の笑みを浮かべた。
「町でこの焼き芋を売ってる屋台があってね、うまそうだったから自分で作ってみたんだよ」
「あんまり食べ過ぎちゃダメよ。でないと屁が止まらなくなるわよ」
お茶を飲みながら夕菜が口をはさんだ。
「ちょ…屁って…」
女性の口から出すには下品な言葉にステラは眉をひそめた。
「そうそう。姉さんなんかこないだ一気に三つも食べてラッパみたいな屁が出ていたたたた!」
遠夜が言い終わるまえに夕菜はその耳を思い切り引っ張り出した。
「お茶のおかわりもらえるかしら、遠夜くん?」
乾いた笑みを浮かべながら夕菜は手荒くおかわりを要求した。
「え?『くん』?」
違和感のある言葉を耳にしたステラは思わず聞き返した。
「あぁ、言ってなかったっけ?」
ぶつくさ言いながら急須にお湯を足そうと立ち上がった遠夜の袴を掴み、夕菜は思いきり引き下げた。勢い余って中の下着ごと青い袴はずり落ち、その下半身が丸出しになった。突然の奇行に目を奪われたステラだが、彼女の視線は『女性の下半身には絶対存在しないもの』を捉えていた。
「あ…え…?」
遠夜は一瞬何が起こったか理解できず、呆気にとられていた。ちゃぶ台の向かいにいるステラの顔がみるみるうちに赤くなっていた。
「ぴ……ぴぎゃぁぁぁぁぁー!!」
「改めて紹介するわ。この子は暁遠夜。私の『弟』よ」
夕菜は意地悪な笑みを浮かべながら焼き芋を口に運んだ。
茶の間は夕菜の部屋よりやや広く、中央には大きめのちゃぶ台があり、周りには座布団が三枚置かれていた。
「適当な所に座っていいわよ」
「あ、はい…」
椅子のないところに座ることに慣れていないのかステラはしどろもどろしながら座布団に腰を下ろした。ほどなくして廊下側の障子戸が開き、遠夜が大きめのお盆を持ってきた。そのお盆の上には急須と湯飲みとお茶請けが乗っていた。
「お待たせ。粗茶だけどいいかな?ええと…」
ステラは自分がまだ名乗っていなかったことを思い出した。
「あ、ステラです。ステラ・レスタティオです…」
ステラは物怖じしながら名乗った。お茶を運ぶその巫女の表情は柔らかく、先程自分の首をはねようとした巫女と同じ人物とはとても思えなかった。
「あぁ、ステラさんね。その…さっきはごめんね」
ステラの顔を見て遠夜は何かを察して謝罪した。
「あ、いえ…その――」
――ぐぅぅぅぅ…
話を遮るように腹の音が鳴った。ステラは赤面しながら自分の腹を押さえた。
「あぁ、ごめんごめん!お腹空いてるんだね。今渡すから!」
遠夜はちゃぶ台に人数分の湯飲みを置き、急須で丁寧にお茶をそそいだ。一方ステラは二度も腹の音を聴かれて穴があったら入りたいほど恥ずかしい気分だった。元の世界で夕食の時間の前にこの世界に飛ばされたのだ。ここに来るまで水しか口にしていない。
「どうぞ」
気を取り直して湯飲みを眺めると緑色のお茶が注がれていた。これまた馴染みのないお茶であった。いつも飲んでいる紅茶とはまた違う香りでちょっと新鮮だった。息を吹きかけ熱を冷ましながらステラは一口含んだ。ほんのりとした苦みがのどを通った。甘党であるステラにとっては砂糖を足したい気分だった。そう思った矢先にお茶請けが手元に運ばれてきた。
「…?…これは?」
「あぁ、ついさっき焼いたヤツだよ。丁度いいと思ってさ」
小皿の上に置かれているのは輪切りにされたイモ類だった。紫色の皮に黄金色の中身、程よく火が通っているのか香ばしい匂いが立ち込めていた。外で嗅いだものと同じ匂いだ。食べやすいように一切れごとに爪楊枝が刺さっていた。
「近くで採れた『サイゴウ芋』だよ。さっき落ち葉焚きするついでに焼いたんだ」
「芋…?」
お茶請けに芋一つ。種類こそ異なるが元の世界ではどちらかというと主食の一種というイメージがあった。手頃な価格で入手できるため、大量に購入する庶民を見たことがある。立場上高級なお菓子ばかり口にしていたステラにとってぱっとしないお茶請けだった。
「この時期、焼き芋は女性に人気のお茶請けなんだ」
「女性に?これが?」
ステラは半信半疑で焼き芋を凝視した。
「食べたことないの?大丈夫、皮ごと食べられるから」
ステラは爪楊枝を手に取り、おそるおそる口に運んだ。咀嚼するとただのイモ類とは思えない芳醇な香りが口内に広がった。
「…美味しい…」
ただ火を通しただけなのにまるでお菓子のような甘さにステラは驚いた。
「うん。この前町で食べたヤツに近いわね」
同調するように夕菜がうなづいた。
「よかった~!初めて作ったからちょっと緊張してたんだよ~」
遠夜は両手を合わせて歓喜の声をあげた。好評をもらって嬉しかったのか満面の笑みを浮かべた。
「町でこの焼き芋を売ってる屋台があってね、うまそうだったから自分で作ってみたんだよ」
「あんまり食べ過ぎちゃダメよ。でないと屁が止まらなくなるわよ」
お茶を飲みながら夕菜が口をはさんだ。
「ちょ…屁って…」
女性の口から出すには下品な言葉にステラは眉をひそめた。
「そうそう。姉さんなんかこないだ一気に三つも食べてラッパみたいな屁が出ていたたたた!」
遠夜が言い終わるまえに夕菜はその耳を思い切り引っ張り出した。
「お茶のおかわりもらえるかしら、遠夜くん?」
乾いた笑みを浮かべながら夕菜は手荒くおかわりを要求した。
「え?『くん』?」
違和感のある言葉を耳にしたステラは思わず聞き返した。
「あぁ、言ってなかったっけ?」
ぶつくさ言いながら急須にお湯を足そうと立ち上がった遠夜の袴を掴み、夕菜は思いきり引き下げた。勢い余って中の下着ごと青い袴はずり落ち、その下半身が丸出しになった。突然の奇行に目を奪われたステラだが、彼女の視線は『女性の下半身には絶対存在しないもの』を捉えていた。
「あ…え…?」
遠夜は一瞬何が起こったか理解できず、呆気にとられていた。ちゃぶ台の向かいにいるステラの顔がみるみるうちに赤くなっていた。
「ぴ……ぴぎゃぁぁぁぁぁー!!」
「改めて紹介するわ。この子は暁遠夜。私の『弟』よ」
夕菜は意地悪な笑みを浮かべながら焼き芋を口に運んだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる