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第6話 彼、彼女らは新たな標へと導かれる
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七花さんは、一呼吸ついた後、指先を俺の方に向けた。
「まず、翔くん友達作ろう計画の最初のターゲットは、あそこにいる活発そうな男子生徒よ。」
「活発そうな男子生徒…?」
俺はその心当たりがなくて、疑問を示した。
「あそこの、前髪をあげている、いかにもスポーツマンって感じのあの人だよ。」
「あー!五日沢《いおさわ》 享《とおる》くんか!」
唯が合点がいったかのように、その人物の名前を言った。
「たしかに、去年もいたような気がするな、あいつ。」
「そりゃこのクラスは持ち上がりだからね。」
「とにかく、翔くんは、あそこにいる五日沢くん?と友達になることを目指そう。」
七花さんは脱線しかけた話を軌道修正し、本来の目的を話した。
「なんであいつが最初なんだ?」
「それは簡単。彼、見るからにクラスの男子生徒の中心人物でしょう。そんな人と友達になれたら、連鎖的に友達が増えるっていう寸法よ。」
言われてきちんと見てみると、五日沢という男子生徒は、他の犯人の男子生徒と和気藹々と話していた。ここからではちゃんと確認はできないが、言われてみれば会話の主導権を彼が握っているような、そんな雰囲気も見てとれた。
「確かに、なるほどな。」
「享…ね。」
ターゲットを発表してから何も喋っていなかった三栖さんが、暗い表情でそうつぶやいた。
「…?どうかしたの?奏ちゃん」
すかさずそれに気づいた唯が尋ねた。
「享は、私の幼馴染なんだよね。」
「おー!それなら、かなり都合がいいかもね。…でも、奏ちゃんと享くんが話してるところ、いままで見たことないから、意外!」
「…。」
三栖さんはさらに暗い表情となってしい待った。
もしかしたら、昔五日沢と何かあったのかもしれない。どうしようもない雰囲気を、俺たち三人は感じて、それ以上深入りして追求することはできなかった。
「…あ!ご、ごめんね。混ざりたいって言ったのは私の方なのに、この場の空気を重くしちゃったね。別に、享とは会話しようと思えばできるから、気にしないで!」
三栖さんは、空気を軽くするためか、更に言葉を続けた。
「享は誰にでも人見知りせず、分け隔てなく接する人だから、一ノ瀬くんにも、すぐに友達になれると思う。」
「そうか、本当にそうならいいんだけどな…。」
そう言われても、俺の膨大な経験(笑)がそんなものは当てにならないという予測を打ち立てていた。
これまでの人生で、もちろん友達を作ろうとしていなかったわけではない。
見てわかる通り、俺はそこまで人間とコミュニケーションができないわけでも、嫌いなわけでもなかった。
そして、過去に友達が全くいなかったわけではないのだ。
友達がいたことはある。…だがそれは小学三年生のころまでだ。
小学三年生なんて、多くの人は自我が芽生える前だ。
実質的に言えば、今まで俺の人生で唯以外の友達ができたことがないという言説は正しい。
当時、俺にはとある最低最悪な災厄が降りかかり、そこからは色々と荒んでしまった。
友達関係もいつのまにか消滅し、しばらく人間が怖くなった俺は、クラス全体から孤立するようになってしまった。
そこから勉強という逃げ道に邁進し、そこで派生的に運動も加わった。
この頃の自分の努力で今の俺がいることは分かっているし、後悔もしているが、同時に昔の自分に感謝もしている。
が、孤立する原因を作ったのは間違いなくこの頃だ。
正直、中学生になっても、高校生になっても周りの人に避けられていたという現象の原因はわからない。が、小学三年生の時のことが関係していないとは言い難い。
唯や七花さんは能力が高いからどうのこうのと言っているが、俺はそれは違うと思っている。
言いようのない違和感を感じるのだ。例えば、磁石のs極同士で接しあっているような、なにか不可思議な力が働いているのではないかという違和感を、他人とは感じてしまうのだ。
しかし、目の前の唯、三栖さん、七花さんにはそれを全く感じない。
これも不思議な話だ。
あの、五日沢という男子生徒も違和感がない人間だといいのだが…。
「それは都合がいいね!じゃあ、翔くんは、機を見計らって、五日沢くんに話しかけること。」
「機を見計らって…?」
「何か私たちに手伝えることがあれば、全然言ってもらって構わないけど、翔くん自身が行動することで今後に繋がっていくと思うの。」
七花さんは至極真っ当なことを言った。
確かに、未来云々の話を信じるとするならば、俺がここで行動するかしないかで大きく未来が変わることになる。
「…それなら、いい案がある。」
「奏ちゃん、言ってみて!」
「私からも、お願い。」
三栖さんは、唯と七花さんからそう懇願されると、静かにうなずいて話し始めた。
「実はね、享は部活には所属していない。でも、放課後にこの教室に必ず残るの。」
「必ず…?」
「…うん。私はそれを、何回も見たことがあるの。」
何故見たことがあるのか?という疑問を呈するには、彼女の表情があまりにも儚げすぎた。
「まず、翔くん友達作ろう計画の最初のターゲットは、あそこにいる活発そうな男子生徒よ。」
「活発そうな男子生徒…?」
俺はその心当たりがなくて、疑問を示した。
「あそこの、前髪をあげている、いかにもスポーツマンって感じのあの人だよ。」
「あー!五日沢《いおさわ》 享《とおる》くんか!」
唯が合点がいったかのように、その人物の名前を言った。
「たしかに、去年もいたような気がするな、あいつ。」
「そりゃこのクラスは持ち上がりだからね。」
「とにかく、翔くんは、あそこにいる五日沢くん?と友達になることを目指そう。」
七花さんは脱線しかけた話を軌道修正し、本来の目的を話した。
「なんであいつが最初なんだ?」
「それは簡単。彼、見るからにクラスの男子生徒の中心人物でしょう。そんな人と友達になれたら、連鎖的に友達が増えるっていう寸法よ。」
言われてきちんと見てみると、五日沢という男子生徒は、他の犯人の男子生徒と和気藹々と話していた。ここからではちゃんと確認はできないが、言われてみれば会話の主導権を彼が握っているような、そんな雰囲気も見てとれた。
「確かに、なるほどな。」
「享…ね。」
ターゲットを発表してから何も喋っていなかった三栖さんが、暗い表情でそうつぶやいた。
「…?どうかしたの?奏ちゃん」
すかさずそれに気づいた唯が尋ねた。
「享は、私の幼馴染なんだよね。」
「おー!それなら、かなり都合がいいかもね。…でも、奏ちゃんと享くんが話してるところ、いままで見たことないから、意外!」
「…。」
三栖さんはさらに暗い表情となってしい待った。
もしかしたら、昔五日沢と何かあったのかもしれない。どうしようもない雰囲気を、俺たち三人は感じて、それ以上深入りして追求することはできなかった。
「…あ!ご、ごめんね。混ざりたいって言ったのは私の方なのに、この場の空気を重くしちゃったね。別に、享とは会話しようと思えばできるから、気にしないで!」
三栖さんは、空気を軽くするためか、更に言葉を続けた。
「享は誰にでも人見知りせず、分け隔てなく接する人だから、一ノ瀬くんにも、すぐに友達になれると思う。」
「そうか、本当にそうならいいんだけどな…。」
そう言われても、俺の膨大な経験(笑)がそんなものは当てにならないという予測を打ち立てていた。
これまでの人生で、もちろん友達を作ろうとしていなかったわけではない。
見てわかる通り、俺はそこまで人間とコミュニケーションができないわけでも、嫌いなわけでもなかった。
そして、過去に友達が全くいなかったわけではないのだ。
友達がいたことはある。…だがそれは小学三年生のころまでだ。
小学三年生なんて、多くの人は自我が芽生える前だ。
実質的に言えば、今まで俺の人生で唯以外の友達ができたことがないという言説は正しい。
当時、俺にはとある最低最悪な災厄が降りかかり、そこからは色々と荒んでしまった。
友達関係もいつのまにか消滅し、しばらく人間が怖くなった俺は、クラス全体から孤立するようになってしまった。
そこから勉強という逃げ道に邁進し、そこで派生的に運動も加わった。
この頃の自分の努力で今の俺がいることは分かっているし、後悔もしているが、同時に昔の自分に感謝もしている。
が、孤立する原因を作ったのは間違いなくこの頃だ。
正直、中学生になっても、高校生になっても周りの人に避けられていたという現象の原因はわからない。が、小学三年生の時のことが関係していないとは言い難い。
唯や七花さんは能力が高いからどうのこうのと言っているが、俺はそれは違うと思っている。
言いようのない違和感を感じるのだ。例えば、磁石のs極同士で接しあっているような、なにか不可思議な力が働いているのではないかという違和感を、他人とは感じてしまうのだ。
しかし、目の前の唯、三栖さん、七花さんにはそれを全く感じない。
これも不思議な話だ。
あの、五日沢という男子生徒も違和感がない人間だといいのだが…。
「それは都合がいいね!じゃあ、翔くんは、機を見計らって、五日沢くんに話しかけること。」
「機を見計らって…?」
「何か私たちに手伝えることがあれば、全然言ってもらって構わないけど、翔くん自身が行動することで今後に繋がっていくと思うの。」
七花さんは至極真っ当なことを言った。
確かに、未来云々の話を信じるとするならば、俺がここで行動するかしないかで大きく未来が変わることになる。
「…それなら、いい案がある。」
「奏ちゃん、言ってみて!」
「私からも、お願い。」
三栖さんは、唯と七花さんからそう懇願されると、静かにうなずいて話し始めた。
「実はね、享は部活には所属していない。でも、放課後にこの教室に必ず残るの。」
「必ず…?」
「…うん。私はそれを、何回も見たことがあるの。」
何故見たことがあるのか?という疑問を呈するには、彼女の表情があまりにも儚げすぎた。
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