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第4話 Aliez
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大いに気になることはまだいくつかあった。
「…だが、なら何故七花さんは俺に抱き着いたりしたんだ?
それに、未来の俺とは単に教授とその助手のような関係だったのか…?」
七花さんは開きかけた口を閉じて、儚げに笑った。
「…私たちは純粋な教授と助手の師弟関係だったの。男女の関係では無かったよ。ごめんね…でも、会うのは普通に久ぶりだから、何だか懐かしくて抱き着いちゃった…。」
「久しぶり、懐かしい…か、まるで未来の俺が既に死んでいるような言い草だな。」
七花さんは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに取り繕った。
「…いや、未来の翔くんは生きているよ。
もうこれ以上は未来についてのことは話せないかな。もしかしたら、タイムパラドックスで私の存在が消されてしまうかもしれないから。」
そう言ってまた七花さんは笑った。
「…わかった。」
唯は俺と七花さんの問答を、静かに見守っていたが、終ぞ口を開く。
「私のことを知っているって言っていたから、未来では多分友達かなんかなんだね。…よし、じゃあここで未来の話は辞めて、今後のことについて話合うのはどう?」
「…そうですね。」
「そうだな。」
七花さんは、唯のその言葉を聞いて一瞬表情が暗くなった、気がした。
「…やっぱり相変わらずの観察眼だよね、翔くん。」
「なんのことだ?」
「…いや、いいの。」
考えを読まれた?…なわけないか。
「…?そ、それじゃ七花さんの目的の、翔が天涯孤独?にならない方法について話し合おう。」
唯が少し俺たちを不思議に思いながらも議題を提案した。
「私は、翔くんには友達を増やして欲しいと思う。
もっと他人とコミュニケーションとらないと!」
七花さんはそう言った。
「コミュニケーション?取ってもなぁ…。どうしても壁を感じるんだよ。
壁を張られたら、俺はもうそれ以上近づくことはできない、勇気がない…。」
「翔はね…。」
「四谷さんは翔くんの対人関係について何か知っているのですか?」
「七花さん、同い年なんだから、敬語は辞めて欲しいな…。」
「わ、わかった。これでいい…?」
「うん、ありがとう!
それで翔くんの対人関係についてだけど、私の知る限りでは、翔くんは友達が私しかいないの…。」
「…恥ずかしながら、その通りなんだよ。」
それを聞いて、七花さんは逡巡しながらも思案しているようだ。
「なるほど…。
でも、四谷さんはなぜそれを知っていながら放置するの?
手助けしようとは思わなかったの?」
七花さんが少し口調強めで唯に言う。
未来では本当に友人なのか…?そう思ってしまった。
「し、したよ!何度かしたけど、ダメだった。
男の子が相手の時も女の子が相手の時も、全部相手が緊張しちゃってだめだった。
翔くんはなんでも出来るのに、なんでだろう…。」
「だから、なんでもは出来ないって言ってるだろ。そんなことができたら、今頃俺は人気者とはいかずとも、せめて友達の一人や二人はいるはずだ。わからないが、異性からも好かれるんじゃないか?だが、俺は生まれてこのかた、女子に告白されたことがない。実際取り柄も、ほとんどないだろ…。こんなの、自分で言うほど惨めなこともないけどな。」
「まぁ確かに翔くんは何故かモテないんだよね…。でも、何でもできるじゃんって…この問答、何回目だろう…。」
唯はそう言って笑った。
「…はぁ、そういうことか。
漸くわかった…。」
七花さんは心底拍子抜けしたような表情でそう告げた。
「…あのですね、二人は理解してないみたいだけど、人は自分とはレベルが違いすぎる存在、高嶺の花なんてものじゃない相手を忌避することがよくあるの。おそらく翔くんがモテないのもそのせいだよ。極めつけは、翔くん特有の記憶旅行だよね。」
七花さんの言う脳内旅行とは、俺の持つ先天性サヴァン症候群の一種、一度見た景色を記憶の中で呼び起こすことができるという固有の能力だ。運よく知的障害は持たず、能力的にはその恩恵だけを持っているが、唯が言うにはそれが影響で友達ができないらしい。それ故に俺は一時期七花さんの言う記憶旅行を辞めたが、結局変わらなかった。だから、辞めるのを辞めた。
俺が一体この能力で何をしているのかと言うと、復習だ。
といっても、高校生になってからは大学の物理、数学の勉強を家でやり、その復習を学校でしている。
しかし、そう恩恵ばかりではない。前述したように、この能力を使うと友達ができないと言われる理由は、使用中は外部からの情報を一切シャットアウトしてしまうというものだ。
周りの音が聞こえなくなり、更にこの能力を瞼を閉じて使うと記憶が際限なく蘇り、流石に脳内処理がパンクしてしまうという理由で目を開けて使わざるを得ないことで、他人が俺に話しかけても、まるで無視しているように見えるらしい。
そうわかってはいるが、実際辞めても効果がなかったのだから意味がない、と俺は思っている。
「…確かに、私は慣れたけどあれは中々酷いよね。」
「別に何もすることないんだからいいだろ。」
「…もういいです。とにかく、翔くんにはしばらく記憶旅行の禁止、及びまずは同性のお友達、いやせめて話すことのできる相手を作ってもらいます!」
七花さんは何故か敬語口調で先生風に勢いよく言い放った。
「…だが、なら何故七花さんは俺に抱き着いたりしたんだ?
それに、未来の俺とは単に教授とその助手のような関係だったのか…?」
七花さんは開きかけた口を閉じて、儚げに笑った。
「…私たちは純粋な教授と助手の師弟関係だったの。男女の関係では無かったよ。ごめんね…でも、会うのは普通に久ぶりだから、何だか懐かしくて抱き着いちゃった…。」
「久しぶり、懐かしい…か、まるで未来の俺が既に死んでいるような言い草だな。」
七花さんは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに取り繕った。
「…いや、未来の翔くんは生きているよ。
もうこれ以上は未来についてのことは話せないかな。もしかしたら、タイムパラドックスで私の存在が消されてしまうかもしれないから。」
そう言ってまた七花さんは笑った。
「…わかった。」
唯は俺と七花さんの問答を、静かに見守っていたが、終ぞ口を開く。
「私のことを知っているって言っていたから、未来では多分友達かなんかなんだね。…よし、じゃあここで未来の話は辞めて、今後のことについて話合うのはどう?」
「…そうですね。」
「そうだな。」
七花さんは、唯のその言葉を聞いて一瞬表情が暗くなった、気がした。
「…やっぱり相変わらずの観察眼だよね、翔くん。」
「なんのことだ?」
「…いや、いいの。」
考えを読まれた?…なわけないか。
「…?そ、それじゃ七花さんの目的の、翔が天涯孤独?にならない方法について話し合おう。」
唯が少し俺たちを不思議に思いながらも議題を提案した。
「私は、翔くんには友達を増やして欲しいと思う。
もっと他人とコミュニケーションとらないと!」
七花さんはそう言った。
「コミュニケーション?取ってもなぁ…。どうしても壁を感じるんだよ。
壁を張られたら、俺はもうそれ以上近づくことはできない、勇気がない…。」
「翔はね…。」
「四谷さんは翔くんの対人関係について何か知っているのですか?」
「七花さん、同い年なんだから、敬語は辞めて欲しいな…。」
「わ、わかった。これでいい…?」
「うん、ありがとう!
それで翔くんの対人関係についてだけど、私の知る限りでは、翔くんは友達が私しかいないの…。」
「…恥ずかしながら、その通りなんだよ。」
それを聞いて、七花さんは逡巡しながらも思案しているようだ。
「なるほど…。
でも、四谷さんはなぜそれを知っていながら放置するの?
手助けしようとは思わなかったの?」
七花さんが少し口調強めで唯に言う。
未来では本当に友人なのか…?そう思ってしまった。
「し、したよ!何度かしたけど、ダメだった。
男の子が相手の時も女の子が相手の時も、全部相手が緊張しちゃってだめだった。
翔くんはなんでも出来るのに、なんでだろう…。」
「だから、なんでもは出来ないって言ってるだろ。そんなことができたら、今頃俺は人気者とはいかずとも、せめて友達の一人や二人はいるはずだ。わからないが、異性からも好かれるんじゃないか?だが、俺は生まれてこのかた、女子に告白されたことがない。実際取り柄も、ほとんどないだろ…。こんなの、自分で言うほど惨めなこともないけどな。」
「まぁ確かに翔くんは何故かモテないんだよね…。でも、何でもできるじゃんって…この問答、何回目だろう…。」
唯はそう言って笑った。
「…はぁ、そういうことか。
漸くわかった…。」
七花さんは心底拍子抜けしたような表情でそう告げた。
「…あのですね、二人は理解してないみたいだけど、人は自分とはレベルが違いすぎる存在、高嶺の花なんてものじゃない相手を忌避することがよくあるの。おそらく翔くんがモテないのもそのせいだよ。極めつけは、翔くん特有の記憶旅行だよね。」
七花さんの言う脳内旅行とは、俺の持つ先天性サヴァン症候群の一種、一度見た景色を記憶の中で呼び起こすことができるという固有の能力だ。運よく知的障害は持たず、能力的にはその恩恵だけを持っているが、唯が言うにはそれが影響で友達ができないらしい。それ故に俺は一時期七花さんの言う記憶旅行を辞めたが、結局変わらなかった。だから、辞めるのを辞めた。
俺が一体この能力で何をしているのかと言うと、復習だ。
といっても、高校生になってからは大学の物理、数学の勉強を家でやり、その復習を学校でしている。
しかし、そう恩恵ばかりではない。前述したように、この能力を使うと友達ができないと言われる理由は、使用中は外部からの情報を一切シャットアウトしてしまうというものだ。
周りの音が聞こえなくなり、更にこの能力を瞼を閉じて使うと記憶が際限なく蘇り、流石に脳内処理がパンクしてしまうという理由で目を開けて使わざるを得ないことで、他人が俺に話しかけても、まるで無視しているように見えるらしい。
そうわかってはいるが、実際辞めても効果がなかったのだから意味がない、と俺は思っている。
「…確かに、私は慣れたけどあれは中々酷いよね。」
「別に何もすることないんだからいいだろ。」
「…もういいです。とにかく、翔くんにはしばらく記憶旅行の禁止、及びまずは同性のお友達、いやせめて話すことのできる相手を作ってもらいます!」
七花さんは何故か敬語口調で先生風に勢いよく言い放った。
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