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樹覚醒編・・・七芒星式神討伐

第一話.転校

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  「いってきます。」

  玄関を出ると春の穏やかな風が体を包み、どこまでも続く青い空が、まぶしく照りつける太陽が、新しい門出を歓迎する。

  蛇園じゃえん いつきこと俺は、今日から新しい高校生活を営むことになる。
  高一なのだが、受かった高校に一ヶ月行ったは良いものの、ばあちゃんとあの……男、がこちらの本家に呼び戻して来たので、友達を作ることすらなく。
  しょうがなく転校する事になったのだ。

  うちの事情は少し特殊?で、どうやら昔から金持ちらしいのだ。何故かとか詳しいことは聞いてないけど、引っ越してきて今俺が住んでるのは、この武家屋敷のようなだだっ広い家だ。もちろんばあちゃんと、クソジジイも一緒にな。

  一ヶ月前までは、九州の方にある親戚の家に住んでたんだけどな。
  話によればあのクソジジイが本家のある東京に呼び出したらしいな。
  俺はあのままで良かったのにな。
 
  本家だの分家だのと親戚も言っていたが、クソジジイとばあちゃんから何も知らされていない俺からすればどうでも良い事だ。
  何かわからんが勝手にやってろよと思えるほどに。

  親戚との中は良好であり、親戚であるオッサンは樹を子供のように可愛がっており、ジジイからの知らせが来た時は鼻水だらっだらで、目を腫らして泣きついて来たほどだ。
 
  こちらに到着したのは3日前だが結局、クソジジイとは一切話すことなく荷物の整理を済ませ、こうして転校先の学校へ向かっている。
  歩いて20分くらいの距離にある私立築沢つきざわ高校。
  昔は本家のあるここ築沢に住んでいたのだが、ちょっとした事件が起こって、小学一年生の時に九州に預けられたんだよなぁ。

  ばあちゃんは時々遊びに来ては、帰る日名残惜しそうに俺を見てたんだよな。
  正直ばあちゃんのことは心配だったから、一緒に暮らせるのは安心なのだが。

  樹は昔両親と住んでいたこの街に思いをふける、やはり時間が経てば色々な建物が変わっている。
  昔あったコンビニは別の場所に移動し、昔あった公園は取り壊されてビルになって。

  様々な思い出がもう本当に過去の事なんだな。と頭の中で独り言をつぶやく。

  「はぁ……。少し早く出すぎたかな。」

  出来るだけジジイと顔を合わせたくねぇ!その気持ちが先行しすぎて、樹は朝6時に家を出ていた。
  今学校に行っても6時20分。HRまでまだ時間が約2時間ある。
  樹は時間を潰すため、コンビニに入る。

  「いらっしゃいませー!」

  大声で元気に挨拶される樹は一瞬驚きに身を固めたが、
 ドリンクコーナーまで歩いていく。

  「はぁービックリした。都会のコンビニはこんなに接客態度いいのか。えーっと。何にしよっかな。炭酸はやめると誓ったんだけどな。いや今日は。今日だけは。新しい門出に祝福を。という訳で、コーラで良いな。」

  基本的に樹は一人でいることが多いので、独り言がつい多くなってしまう。たまに樹を見る周囲の視線に憐れむような視線があるのだが、本人はそれを知る由はない

  樹は、コーラを手に取りレジ前へ向かう。

  「いらっしゃいませ!!」

  すごく元気のある女性。ポニテロリと言っても良い可愛らしい女性だ。

  コーラをレジに置きポニテロリがスキャナーでバーコードを読み込むと同時に、ホットスナックに目を向けた樹。

  「あ、すみません。肉まんもお願いします。」

  「かしこまりました!!」

  このポニテロリの元気の良さがこちらにも移りそう。
 てか何このポニテロリ。キュートアグレッション起こりそう。
 
  「お会計 267円になりまーーす!!」

  樹は、千円を渡しお釣りを貰う。

  「ありがとうございました!!」

  自動ドアを抜けるとともに元気の良い声が外まで聞こえる。

  「はーすごいな。元気いいな。あのポニテロリ可愛かったなおい。」

  樹はボソボソとそんな事を言いながら、近くにあったベンチに腰をかける。

  「よっこいせ。」

  ジジくさい掛け声と共に、腰を下ろすと手に持っていたレジ袋から肉まんとコーラを取り出す。

  「この世の食材に感謝を込めて。いただきます。」

  どこぞの食材求めて冒険するバトル漫画のような言葉を発し、肉まんを口に運ぶ。

  「はふはふ。あくいな。」

  中がアッツアツだが絶品な肉まん。
  最近のコンビニの食べ物というのも案外バカには出来ないのだ。

  樹は肉まんをあっという間に平らげて、コーラをぐびぐびと飲む。口の中に染み渡る爽快感と、喉を走る刺激がなんとも言えない癖になる。これだから炭酸はやめられない。

  「美味かったぁ。ご馳走様でした。」

  手を合わせ樹はポケットからマイフォン──スマホをとりだす。
  樹は現代っ子なので暇な時間は大抵スマホを扱っている。

  「えーっとなになに。『原因不明の爆発事故により死者20名』?またかよ。最近こんな事件が本当に多いな。この前は原因不明の地割れにより、バスが横転して死傷者38名……だったか。」

  樹は顔を顰めて、ニュースアプリを閉じる。
  この原因不明の事故の発生が樹が東京に呼び出される原因となった事はまだ知る由はなかった。


  「あっ、そろそろ行かねぇと間に合わなくね?」

  スマホを取りだし気がつけばもう一時間半程度たっていて、既に時間は8時10分。
  もう間に合わないのだ。

  樹はベンチから立ち上がり、走って学校へ向かった。





 ───キーンコーンカーンコーン




  学校のチャイムが鳴り響いたのは、樹が正門に着いた頃。

  「あっちゃー。間に合わなかった。」

  なんとも乱暴にがしがしと頭を掻きながら、自分のクラスへ向かう。

  築沢高校は都内でも有数の進学校であり、その広さは近辺の高校と比べてもかなりの大きさである。

  「確かここだよな?一年E組。」

  樹はドアに手をかけ開く。

  「我、ただいま参った。」

  堂々と馳せ参じた樹を生徒たちは一斉に見やる。
  観察する視線がむず痒くなってきたころ、担任から声がかかる。

  「おいお前。転校初日から遅刻とはいい度胸してんな。
 まぁいい。とりあえずこっちに来い。」

  何と口の悪い担任か。と思い視線を向けた樹。
  そこには、グラマラスなお姉さんが。

  「わぁお。」

  「何がわぁおだ気持ちわりい。早く来い。」

  どうやら担任はこのグラ姉らしい。
 服の上からでもわかる体のラインは驚く程にエロスを感じるぞ。
  思春期真っ盛りの男子たちの前にこんな危険人物がいてもよろしいのか……?

  「うっす。」

  樹は顔には出さず、担任の近くへ足を運ぶ。

  「おいお前ら。こいつが転入してきた生徒だ。
 おいお前。自己紹介しろ。」

  なんだこいつは。なんで命令口調なんだよおい。
  いくら綺麗なお姉さんだからってゆるせね……

  「あいでっ。」
 
  樹の頭がポコっと殴られる。
  早く自己紹介をしろって事だろう。転入そうそう体罰とは……。
  いやこの人にならご褒美なのか?
 
  「えー、転入してきた蛇園樹。苗字に入ってる蛇みたいに目つきの悪い男ですがよろしくお願いしまーす。」

  気の抜けた挨拶をした樹に多分二人。別の感情を込めた視線が樹に向けられる。
  樹は気がついていたが、どうすることもなく指定された席に座った。窓際一番後ろの席。
  寝るのにはうってつけの場所だろう。

  「とゆー事だ。まぁ仲良くしてやれ。」

  そんなこんなで、楽しいウキウキ私立築沢高校での初日が始まる。と思ったが、

  「授業のレベルが低い……。」

  そう呟いたのはもちろん樹。
  元々頭の良い樹は九州の方では、既に大学並の授業を受けていた。

  この学校もそれなりに有名な進学校ではあるが、既にその授業段階を終えている樹からすればレベルが低い……。という事になるのだろう。

  そこで、樹は一つの解決法を導いた。

  「よし。寝よう。」

  その日お昼時以外に、樹の起きてる姿を見たものは誰も居なかった。






 ───キーンコーンカーンコーン。




  「お前ら、最近危ねぇから寄り道して帰んじゃねーぞー。」

  担任のグラマラスなお姉さんことグラ姉が下校する生徒たちに声をかける。
  樹は既に目覚めており、バッグを右肩にかけ教室を出る。

  「ふぁーあ。」

  気の抜けた欠伸をし、階段をゆらゆらと降りる。
  あれから授業をまともに受けなかった樹の内申点は酷いものだろう。

  そして目つきの悪さ、授業態度の悪さからか結局誰からも話しかけられることなく終わった。

  「……おいごらぁ。お前転入早々いきがってんじゃねーぞ?」

  誰からも話しかけられなかった。が今話しかけてきた。
  こいつは同じクラスで先程言った2人のうちの1人だな。
  どうやら俺のことが気に食わないらしい。

  目つきの悪さは俺の勝ちか。体格の良さはこのゴリラの方が上。金髪オールバックは最高に決まってるな。

  「えーっと。金髪オールバックゴリラさんで良かったかな?」

  「・・・あ?」

  額に青筋を浮かべこちらに歩みよる金髪オールバックゴリラ。周りには下校中の生徒たちがおり、何やらコソコソと言っている。余程このゴリラにビビっているようだ。
  それよりも俺何か悪いこと言っただろうか?

  「殺すっ!!」

  いきなり殴りかかってくる金髪。
 樹は取り乱さずに、ほいっと避け背後に周り、背中を蹴る。

  「うぉっ!!」

  いちいち反応がうるさいヤツだ。

  金髪は背中を蹴られた勢い余り、ズッコケる。
  なんとも滑稽な姿を見た樹は満足したのか、金髪を無視して、帰ることにした。

  「さー。帰りはゲーセン寄っていきますかー。」

  築沢は、田舎か都会かで言えば都会の部類に入る場所だ。
 歩いて10分の場所にゲーセンがあるので、樹は歩みを進める。




  
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