510 / 528
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣
第8話 陸の孤城
しおりを挟む
【前回のあらすじ】
アンネマリー王妃の計らいで、国のはずれにある女神神殿で結婚式を行うことになったリーゼロッテ。家族と友人たちに祝福されながら、満ち足りた思いでジークヴァルトと誓いの口づけを交わします。
その様子を冷めた瞳で見つめるカイ。自身とルチアに降りた託宣の無慈悲さに思いを馳せつつ、リーゼロッテからあふれ出た力の後を追い、ティビシス神殿の奥へと進んでいって。
そこで出会った老齢の女神官おばばの案内で、星読みの王女の壁画にたどり着きます。かつてあったというラウエンシュタイン国の存在を知らされるも、おばばに不可解な言葉を投げかけられて。
結局、託宣の新たな情報は得られずに、カイは急ぎ式へと戻るのでした。
ぼたん雪が舞う曇天の下、長い跳ね橋がゆっくりと降ろされてくる。ふたりの斜め後ろで浮きながら、ジークハルトは黙ってその様子を見上げていた。
深い堀を隔てた向こうには、高い鉄門に守られたラウエンシュタイン城がそびえ立っている。来るものを拒むような物々しさは、さながら陸の孤城と言ったところだ。
(ここに来るのは二度目か……)
だが守護者であるこの身では、あの日と同様、中に入ることは許されない。堀に流れる碧の水から、清浄な気が立ち昇っている。城の結界を成すそれは、まるで風に揺らぐカーテンのようだ。
痛いくらいに青龍の神気を感じつつ、ジークハルトはリーゼロッテへと目を向けた。
鎖の軋む音が響き渡る中、大きな瞳が忙しなくあちこちを見回している。久しぶりに帰る生家に、心を躍らせているのだろう。
ジークヴァルトがあの城で、初めてリーゼロッテと会った日のことを思い出す。中に入れなくとも守護する者の意識が、あの瞬間、ジークハルトにはありありと伝わってきた。
心を失ってしまったジークヴァルトの、それはもう鮮烈な体験だった。何百年もの間、多くの託宣者に寄り添ってきたジークハルトですら、かつてない衝撃を受けたほどだ。
ジークハルトは思う。ひとが持ち得る情動の中で、悲しみとはもっとも深い感情だ。その淵を知った者が手にする愛は、世界の何よりも尊く映る。
地響きを立て跳ね橋が降りきると、水のせせらぎが耳に届いた。橋へと踏み出すふたりの背に、ジークハルトはいつものように笑顔を向ける。
『いってらっしゃい。オレはここで待ってるよ』
「ハルト様は来られないのですか?」
『うん、あそこは神殿以上に青龍に守られた場所だから』
リーゼロッテは一度城に目をやり、再びこちらを振り返った。
「そう言えばハルト様、ティビシス神殿には入っていらっしゃいましたわよね? あそこも清浄な神気に満ちておりましたのに」
『昔っから姉上はオレにはやさしいんだ』
「姉上?」
『うん』
ニコニコ顔で返事をすると、リーゼロッテは不思議そうに首を傾けた。
「行くぞ」
促されて、戸惑いつつもリーゼロッテは歩き出す。城へと向かっていくふたりを、ジークハルトはひらひらと手を振り見送った。
『ありがとう、リーゼロッテ』
届かない距離でそう告げる。きっと考えもよらないのだろう。その存在が、どれほどジークヴァルトを救っているのかを。そしてまたジークハルト自身をも。
肉体を失って久しいこの身だが、未だひとの心が保てているのは、間違いなくフーゲンベルクの託宣者たちと繋がってきたからだ。
ジークハルトはリーゼロッテが好きだ。ジークヴァルトと同じくらい、狂おしいほど愛しく大切にしたいと思っている。
守護する者たちから伝わってくる想いそのままに、対となった託宣の相手にジークハルトも等しく恋をしてきた。同じ熱量で番を求め、ひとつになるよろこびを噛みしめる。
それでもこの感情は錯覚だ。悠久の時の中で消えかけていた“自分”を、ジークハルトは思いがけずに取り戻した。
これまでずっと、リーゼロッテを彼女に重ねていた。だがそれは似て非なるものだとようやく気づく。ティビシス神殿は懐かしいにおいに満ちていて、ジークハルトの記憶はあの時にひとっ飛びで巻き戻った。
『ありがとう……』
もう一度つぶやいて、遥か過去に思いを寄せる。守護者となった日の誓いは、今も確かにこの胸に息づいていた。リーゼロッテがいなかったら、再びあの地に戻ることもなかっただろう。
雪舞う天を仰ぎ、瞼を閉じる。
『姉上……』
ずいぶんと前に溶けてしまった彼女の気配は、限りなくうすく、それでもまだこの世界を包みこんでいた。
◇
堀の水はとても透き通っていて、水底までくっきり見えた。光に揺らめく碧を覗き込んでいると、うっかり流れに吸い込まれてしまいそうだ。
渡る橋は歩くたびに小さく軋む。少し怖くなって、リーゼロッテはジークヴァルトに身を寄せた。そこを抱き上げられかけて、今度は慌てて距離を取る。
「離れるな。橋から落ちたらどうする」
「落ちたりなどいたしません。自分の足で歩かせてくださいませ」
言い終わる前に手を引かれ、逃げ場なく腰をホールドされる。ジークヴァルトの過保護ぶりには、どうやらつける薬はないようだ。夜会に出る如く隙のないエスコートに、リーゼロッテは諦めの境地で身を預けた。
目の前に建つ城はリーゼロッテの生家、ラウエンシュタイン公爵家だ。ティビシス神殿からの帰路、遠回りしてふたりだけで立ち寄ることになった。あそこで過ごした記憶はないが、ダーミッシュ家に養子に入る以前はこの城で暮らしていたらしい。
対岸まで渡り切ると、見計らったかのように再び跳ね橋が上がり始めた。同時にそびえ立つ鉄門が、無人のままゆっくりと開かれていく。
(歯車が回るような音がするから、どこかで操作してるのかしら……)
跳ね橋の鎖が軋む音と門が開く音が重なって、会話をしても聞き取れなさそうだ。門が開ききるまでその様子を、ジークヴァルトとしばらく黙って見上げていた。
鉄の扉が先に動きを止め、ジークヴァルトに促されて歩き出す。振り返ると、だいぶ切り立った跳ね橋の向こうから、あぐらをかいたジークハルトが小さく手を振っていた。
門をくぐり城の敷地内へと入る。美しく整えられた庭には、やはり誰もいる様子はなかった。石畳に導かれてさらに進むと、背にした鉄門がひとりでに閉まり始める。やがて扉は完全に閉じ、辺りに静寂が訪れた。
(跳ね橋も上がり切ったのかしら)
歯車の回る音はもうしない。水のせせらぎも耳には届かず、城壁の厚さが伺えた。かわりに小鳥たちのさえずりが、植えられた木々のあちこちから聞こえてくる。
薄く雪化粧を施したこの庭は、本当にひとっ子ひとり見当たらない。手入れのいき届いた庭園を見回して、リーゼロッテはぽつりと呟いた。
「フーゲンベルクのお屋敷と違って、ここは随分と静かですのね……」
「ラウエンシュタイン城は許された人間しか入れないと聞いている。使用人も厳選されているんだろう」
少数精鋭と言ったところだろうか。これだけ広い敷地を少人数で管理するのは、なかなかに大変そうに思えた。
「こっちだ」
分かれ道があるにも関わらず、案内もなしにジークヴァルトは迷いなく進んでいく。
「ヴァルト様はここをよく知っていらっしゃるのですね」
「子どものころ、一度お前に会いに来ただろう?」
「あ……あれはここでの出来事だったのですね……」
初めて会った日に、黒いモヤを纏うジークヴァルトが恐ろしすぎて、とにかく泣きまくったことを覚えている。そんなリーゼロッテを抱き上げて、慰めるように守り石をくれたのは、ジークヴァルトの父親ジークフリートだ。
(なんとなくダーミッシュ家にいたときだと思ってたわ)
初恋の人にもらった守り石を、伯爵家の部屋で毎日のように陽にかざして眺めていた。月日とともに綺麗な青はくすんでしまったが、あの守り石は異形たちから幼いリーゼロッテを守ってくれていたのだろう。
(わたしがダーミッシュの屋敷で転びまくっていたのは、きっと守り石の力が無くなってしまったからね)
ずっとジークフリートに貰ったと思っていたが、あのペンダントはジークヴァルトからの贈り物だった。自分のしていた勘違いに、なんだか笑いがこみ上げてくる。
「どうした?」
「いえ、わたくし初めてお会いしたとき、ヴァルト様が黒いモヤを纏っているように見えてしまって……それ以来ヴァルト様のこと、ずっと恐ろしい魔王のように思っておりました」
でもあれは取り憑いた異形たちの恐怖に、リーゼロッテがシンクロしてしまっていたからだ。理不尽にジークヴァルトを毛嫌いしたりして、今さらながら申し訳ない気分になった。
「ヴァルト様は何も悪くないのに、わたくしったらなんてひどいことを……」
「いい。あの頃お前は異形が視えなかったんだ。それにオレの不手際もあった」
「不手際だなんて……。そう言えばヴァルト様はどうして、子どものころはわたくしに会おうとなさらなかったのですか?」
あの日、王妃の茶会で再会するまでは、ずっと手紙のやり取りだけが続いていた。初対面でリーゼロッテに恋をしたと言う割には、顔が見たいと思うこともなかったのだろうか。
(言っても、あの頃のわたしなら会いに来られても困ったでしょうけど)
黒モヤ魔王との文通に、苦労していた日々が懐かしい。届く贈り物すら恐ろしすぎて、手にも取れない有様だった。
「お前が成人を迎えるまで、会いに行くのは止められていた」
「止められて? いったい誰に?」
「……ラウエンシュタイン家にだ」
眉間のしわを深め、ジークヴァルトが歯切れ悪く答える。近づく城を見上げながら、リーゼロッテはこてんと首を傾けた。
「ラウエンシュタイン家に……? もしかして、ヴァルト様を見たわたくしがあまりにも大泣きしたせいで?」
はっとしてジークヴァルトを見やる。あの日のギャン泣きぶりは、自分で思い返しても相当なものだった。それを見た両親が、何かいらぬ誤解をしたのかもしれない。
理不尽に嫌われて遠ざけられたのだとしたら、幼いジークヴァルトはひどく傷ついたのではないだろうか。
「それはない。いや、理由はそれかもしれないが、恐らく原因はそれではない」
やはり歯切れ悪く答えると、ジークヴァルトはふいと顔をそらした。言いたくないことを隠すそのサインに、リーゼロッテはますます困惑顔となる。
「だったら何が理由で……」
「お前は覚えていないんだろう? だったら今さら知る必要はない」
なんだかどこかでしたことのあるやり取りだ。記憶を探り、思い当たることをジークヴァルトに問うてみる。
「もしかして……“ヴァルト様がずっとわたくしの名前を呼べなかった理由”と何か関係しているのですか?」
ぐっと口をへの字に曲げて、ジークヴァルトはさらに顔をそらした。いつかジークハルトにそんなことを聞かされたが、結局その件は有耶無耶に誤魔化されたままになっている。
(言いたくないのに無理に聞き出すのもアレよね……こうなったら自力で思い出すしかないわ)
元はと言えば自分の勘違いから起こったことだ。これ以上ジークヴァルトを問い詰めても仕方がない。いい機会だから、昔のことはすべて懺悔してしまおう。そんな思いもあって、リーゼロッテは話題を変えた。
「わたくしたち、子どものころから文のやりとりをしておりましたでしょう? 実はあれもジークフリート様宛に書いていると、わたくしずっと勘違いしてしまっていて……」
「いや、あれは確かに父上宛だった。お前は何も間違っていない」
「ですがお返事をくださっていたのはヴァルト様でしたわ」
初恋の人との思い出にと大切にしまっておいた手紙の筆跡は、どれもジークヴァルトのものだった。初めてそれに気づいた時の衝撃は、今でも忘れられないでいる。
「あの頃、オレはフーゲンベルク公爵の代理として返事を書いていた」
「代理として……?」
「ああ。だからあれは確かに父上宛の手紙だった」
むすっとした様子のジークヴァルトをぽかんと見上げる。
「もしかして、ヴァルト様宛で書かなかったこと、怒ってらっしゃるのですか?」
「怒ってなどいない。オレが爵位を継いだ後は、すべてオレ宛になった。だから返事ももう代理でなくなった」
言い訳を並べたような言葉が、ジークヴァルトにしては珍しく感じた。やはりジークフリートとの文通を、快く思っていなかったのかもしれない。
ジークヴァルトが爵位を継いだ後は、恐ろしくて手紙すら開けなくなったリーゼロッテだ。自分の思い込みのなせる業だったが、当時はエラに代わりに読んでもらっていたなどと言い出せない雰囲気だ。
目を泳がせて、何かほかに話題を探す。手紙繋がりで不自然にならない、いい流れを思いついた。
「わたくしたち、これまでたくさん文のやり取りをしてきましたものね」
ダーミッシュ領に戻った時などは、それこそ交換日記のごとく毎日手紙を書いていた。ずっと一緒にいる今は、文をしたためることもない。ひと言ふた言だけ書かれたそっけない返事が懐かしく思えて、リーゼロッテの口元が知らず綻んだ。
「お前の手紙は今までの分、すべて保管してある」
「そういえば、ヴァルト様のお部屋の棚にしまってありましたわね……」
過去書いた手紙のみならず、リーゼロッテが子どものころに贈ったガラクタまでも、いまだ居間の棚に宝物のごとく飾られている。
「もう片付けてもよろしいのでは?」
「いや、駄目だ」
「ですが、取っておいても場所ばかりとって、なんの役にも立ちませんでしょう?」
「そんなことはない。オレは今でも定期的にすべて読み返している」
「読み返し……手紙をですか?」
「ああ」
「なんのために?」
「子どものころからの習慣だ」
「習慣……? 子どものころからの?」
「ああ」
唖然となって、オウム返ししかできなくなる。どうしてそんなことをするのかとも思ったが、理由と言ったらひとつしかないのだろう。
(ヴァルト様ってどんだけわたしのことが好きなのよ……!)
エントランスの大きな扉の手前まで来て、思わず足が止まってしまった。赤くなったまま黙ったリーゼロッテに、ふっと魔王の笑みが向けられる。制止する暇もなく、素早く唇を奪われた。
「も、もうっ、時と場所をお考えくださいませ!」
「そんな顔をするお前が悪い」
しれっと返ってきた言葉に頬を膨らませると、前触れなく中から扉が開かれた。驚きに慌てて居住まいを正す。
「お帰りなさいませ、リーゼロッテ様」
広いエントランスには老齢の女性だけが立っていた。隙のない動作で腰を折り、リーゼロッテへと首を垂れる。
「あなたは……?」
「わたしはルル・ドルン。ラウエンシュタイン家の家令を務めさせていただいております」
「名乗らせてごめんなさい。わたくし、ここでのことは何も覚えていなくて……」
「無理もございません。リーゼロッテ様はまだお小さくあらせられました。わたしへの気遣いは不要にございます」
表情を変えずに答えた家令に、それでもリーゼロッテはすまなく思う気持ちを消せなかった。自分が覚えている相手に忘れ去られてしまうのは、とても悲しく寂しいことだ。
「ありがとう、ルル。でももう忘れたりしないわ」
「ありがたきお言葉、いたみいります」
無表情のまま、ルルは再び静かに首を垂れた。そっけないが冷たい感じはしない。そんなルルが今度はジークヴァルトへ視線を向けた。
「不在の主に変わり、フーゲンベルク公爵様に御礼申し上げます。リーゼロッテ様が昔と変わることなくおやさしい心根でおられるのも、公爵様の手厚き庇護があってのことでしょう。どうぞこれからも、リーゼロッテ様のことをよろしくお願い申し上げます」
「ああ」
短く返したジークヴァルトも負けず劣らずそっけない。ルルに親近感を感じるのも、ジークヴァルトを見慣れているせいかもしれなかった。
「それでルル……イグナーツ父様はいらっしゃらないの?」
「イグナーツ様は春にお出かけになって以来、まだお戻りになられておりません。例年ですと、白の夜会が行われる前後でご帰還なさいます」
「そう……」
また会えるかと思っていた実父の不在に、リーゼロッテはしょんぼりと肩を落とした。
「ねぇ、ルル。父様がお戻りになったら、連絡いただけるようお願いしてもらえないかしら。そうしたらわたくし、すぐにでも父様に会いに来るわ」
「承知いたしました」
快い返事に笑顔になるも、リーゼロッテは伺うようにジークヴァルトを見た。勝手に決めてしまったが、果たして許してもらえるだろうか。
「ジークヴァルト様、構いませんわよね……?」
「ああ、問題ない。そのときはオレが連れていく」
うれしくてリーゼロッテは瞳を輝かせた。ひとりで里帰りすらできない自分が情けなくもなるが、異形を騒がせる体質を思うと、ジークヴァルトに同伴をお願いするよりほかはない。
「わたくし、ヴァルト様のご負担にならないように、力の扱いがうまくなるようもっともっと励みますわ」
「そんなことは必要ないと言っただろう」
「ですが……」
見上げるとやさしく頬を撫でられる。青の瞳が細められ、親指が下唇をゆっくりなぞってきた。いつもキスの前にされるその仕草に、リーゼロッテの頬が一瞬で桜色に色づいた。
自然に口づけられそうな流れの中、視線を感じてはっと我に返る。すぐそこで、定規のようにぴしりと背筋を伸ばしたルルが、無表情のまま立っていた。動揺して、思わずジークヴァルトの胸を押しのける。
「ご、ごめんなさい、こんなところで」
「わたしのことはお気になさらず。どうぞお続けになってください」
生まれた家と言えど、記憶も残っていない今や他人のお宅様だ。そんな玄関先でさぁどうぞと言われても、これ以上ふたりでイチャコラできるはずもない。
「ラウエンシュタイン家はリーゼロッテ様のお戻りを待ち侘びておりました。遠慮することなどございません。どうぞ思うままにお過ごしください」
「それなら城の中を見て回ってもいいかしら……?」
「もちろんでございます。リーゼロッテ様のお部屋も以前のまま整えてあります。順にご案内いたしましょう」
ルルの先導のもと、城の中をあちこち回る。生家と言っても、初めてに思える場所ばかりだった。やはり他人様のお宅のように感じて、リーゼロッテはルルの説明を物珍しく聞いていた。
(やっぱりここは静かだわ……)
以前訪問したグレーデン侯爵家もそうだったが、自分たち以外、人の気配がまるでしない。だが息が詰まりそうな雰囲気だったグレーデン家とは違って、この城は空気の流れが感じられた。どこもかしこも清浄な気で満ちている。
「では最後にリーゼロッテ様のお部屋にご案内いたします」
終わりが近づくのを知り落胆するも、滞在時間は限られている。案内が手短なのも仕方がないことだろう。
(あれ……?)
渡る廊下でリーゼロッテはふと足を止めた。
(わたし、ここ知ってる)
来た後ろを振り返り、再びルルが行く奥に目を向ける。
「どうした?」
「いえ、わたくし、なんだかここを……」
ルルが進む先には、きっと子ども部屋がある。振り返った廊下の角を真っすぐ行くと、一年中花が咲く美しい庭に出るはずだ。
衝動にかられて、リーゼロッテは駆けだした。ジークヴァルトの静止も耳に届かず、スカートをつまみ上げ、誰もいない廊下を息を切らしてひた走る。
庭に出て、きょろきょろと辺りを見回した。茂みの向こうに見つけた小道を進み、幅広の石の階段を駆け下りる。
「やっぱり、ここ知ってる……」
そうだ。そこに見える生垣の奥に、いつも小鬼と遊んでいた花畑がある。大事なお客様が来るからと、あの日は妖精たちにお願いをして、いつもより多めに花を摘ませてもらった。
両手いっぱいの花束を抱え、城へ戻ろうとうきうきで小道を進む。スカートにまとわりつく小鬼たちとじゃれ合いながら。
『ロッテ、お待ちかねのひとを連れてきたよ』
父親の声が聞こえたような気がして、降りてきた石の階段をリーゼロッテははっと見上げた。
(そうよ、ここでジークヴァルト様と初めて会ったんだわ)
ちょうどあの辺り、幅広の階段の上から、真っ黒いモヤを纏ったジークヴァルトが黙ってこちらを見下ろしていた。
とそのとき、リーゼロッテを囲む庭が眩暈のように揺らめいた。雪景色から一変、庭木の緑が視界に映る。急に目線が低くなり、世界がひとまわり大きく膨らんだ。
抱える花々の、むせかえるあまい匂い。髪の毛をさらう秋の風。はためくスカートにしがみつく小鬼たち。
いちばん上の段の縁に、黒髪の少年が立っている。前髪がさらりと風になびき、自分を見下ろす宝石のような青の瞳が目に飛び込んだ。
(あれ? わたし、ヴァルト様の顔、見えてる……?)
目をそらすことなく、少年が階段を下りてくる。ゆっくりとゆっくりと時間をかけて。
子どものジークヴァルトはそれでも自分よりも背が高くて、目の前まで来て立ち止まった青い瞳を、リーゼロッテは何もできずにじっと見上げていた。
足元の小鬼たちから不安げな気配が伝わってくる。それが分かっても、瞳の青に魅入られて、瞬きすらできずにただ息をつめた。
延ばされた手が髪の中に差し入れられる。引き寄せられるまま、ふたりの距離が近づいた。まるでそうすることが当然のように、ジークヴァルトの唇は躊躇いなくリーゼロッテのそれに重ねられた。
何が起きたのかすら分からなくて、リーゼロッテは胸の花束をぎゅっと抱きしめた。長く何度も啄まれて、舌先がこの唇をなぞってくる。目を見開いたその瞬間、すべてが漆黒に塗りつぶされた。
小鬼たちの叫びに引きずられ、リーゼロッテもあっという間に恐怖に飲まれていく。襲い来る黒い穢れは、肌の上を這い回る虫の群れのようだ。抱えた花を手落として、リーゼロッテは力の限りジークヴァルトを押しやった。
「リーゼロッテ!」
肩をゆすぶられて、はっと意識が戻る。見下ろす青の瞳が目に飛び込んで、リーゼロッテは大きく息を吸った。
「ジーク、ヴァルトさま……」
呆然と見やると、視界の高さも元に戻っている。今見ていた景色は、子どものころの記憶なのだと、リーゼロッテはそう気がついた。
「わたくし、ここでヴァルト様と初めてお会いして……」
あの直後広がった黒モヤに驚いて、火がついたように泣き出した。それを見て慌てたジークフリートが、抱き上げて庭中を歩いてあやしてくれたのだ。
どうして忘れていたのだろうと思うくらい、急速にあの日の出来事が蘇る。ペンダントを手渡され、守り石を陽にかざしながらご機嫌で部屋に戻った。ジークヴァルトのことなど、すっかり忘れたままで。
無意識に指で唇をなぞる。初対面でした口づけの感触が、ここにまだ残っているような気がした。
「なんだ、思い出したのか?」
ふっと笑って、ジークヴァルトはちゅっとキスをひとつ落としてきた。
不意打ちに、フリーズしていた頭が動き始める。
「わ、わたくしのファーストキスぅう……っ!!」
絶叫が木霊する。
「……ふぁあすときす?」
思わず口をついた叫び声に、ジークヴァルトが軽く眉根を寄せた。
◇
最後に通された子ども部屋も、なんとなく見覚えがあった。暖炉のある居間に寝室が別になっていて、乳母用と思われる小部屋も備えられている。
「お時間までここでおくつろぎください」
芳しい紅茶と焼き菓子を置いて、ルルはひとり下がっていった。
「疲れたか?」
「いえ、なんだか気持ちが高揚してしまって……」
早朝に公爵家を出発し、午前中にはティビシス神殿で結婚式を終えた。大急ぎで着替えたあと、ジークヴァルトとふたりでこのラウエンシュタイン城に赴いたという強行軍ぶりだ。しかもこれから日が沈みかける中、フーゲンベルク領へと戻ることになっていた。
「わたくしは帰ってからゆっくりできますし、むしろヴァルト様の方が心配ですわ」
「いや、オレは何も問題ない」
忙しい執務の合間を縫って、リーゼロッテのためにスケジュールを空けてくれた。そんなジークヴァルトは休む間もなく、明日から激務の日々が待っている。
(やっぱりわたしがもっと自立しないと……)
力の制御は上手にはなったが、異形に対して無防備なのは変わらない。
「何を考えている?」
「いえ、わたくしも明日からなまけず頑張りますわ」
神殿に攫われて以来、ジークヴァルトは片時もリーゼロッテを離そうとしなくなった。王城出仕で屋敷を空けるときなどは、必要以上に何度も様子をうかがってくる。リーゼロッテもその不安を酌んで、留守番の日は極力部屋から出ないようにしていた。
「お前が頑張る必要など何もない」
「ですからそうやって甘やかさないでくださいませ」
膝に乗せられあーんをされる。幼い自分が過ごしていた部屋で、ジークヴァルトとこうしていることが、何だか不思議な気分になった。
「ヴァルト様、すこし寝室を覗いてきてもよろしいですか?」
「ああ、ゆっくり見てくるといい。その間、オレは先ほどの家令と少し話をしてくる」
膝を降り、ジークヴァルトを置いて寝室の扉を開ける。ずっと使われていなかったはずの部屋は、やはり清浄な空気に包まれていた。
「ベッドは子ども仕様ね……」
小さめの寝台の縁に腰かけると、スプリングが心地よく跳ねた。ダーミッシュ家に養子に入るまで、ここで毎日眠っていたのだろう。
しんとした部屋を見回して、リーゼロッテは座った姿勢から行儀悪く体を横に倒した。頭をふかふかの枕に沈め、ふぅと密やかに息をつく。
「やっぱりちょっと疲れたかも……」
瞼を閉じると心地よいまどろみが訪れる。このままでは本当に眠ってしまいそうで、リーゼロッテは無理やりに目を開けた。横たわったまま降ろした足をプラプラさせながら、横向きの部屋をぼんやり見やる。
(あ、この景色も知ってる……)
肩までもぐりこんだ上かけの毛布が心地よすぎて、起きていたくてもいつの間にか瞼が閉じてしまう。頑張って目を見開いた先にいるのは、やさしく微笑む母親だ。その後ろから父イグナーツが、包み込むように母を抱きしめている。
「マルグリット母様……」
唯一残る母の思い出は、ここで見た風景なのだ。急に郷愁に駆られて、リーゼロッテはなんだか寂しくなってしまった。
身を起こして寝室から出る。
「ジークヴァルト様……?」
戻った居間を見回すも、その姿は見つからない。先ほどルルに話があると言っていたので、まだ戻ってきていないようだ。
耳の守り石に触れると、不思議と不安が和らいだ。ジークヴァルトはすぐ近くにいる。そんな気配が伝わってくる。
感じる青の波動を頼りに、リーゼロッテは子ども部屋を出た。進むにつれて、ジークヴァルトに近づいているのがよく分かった。もうすぐそこにいる。その確信の下、リーゼロッテの足はおのずと速くなっていく。
ぴりっと背筋に悪寒が走った気がして、驚きで立ち止まった。その嫌な気配は自分を追うように、ゆっくりと、だが確実にここへと迫っている。そんなはずはないと言い聞かせながら、リーゼロッテは恐る恐る振り返った。
「おや、これは奇遇ですね、リーゼロッテ・ラウエンシュタイン」
その声に、あの夜の悪夢が蘇る。
背後に佇んでいたのは、かつてリーゼロッテを攫った張本人――盲目の神官レミュリオだった。
【次回予告】
はーい、わたしリーゼロッテ。思いがけない場所で神官レミュリオとエンカウントしてしまったわたし。見え隠れする青龍の思惑に、戸惑いと不安が募ります! 一方、託宣の調査を続けるカイ様は、何も得られないまま王都へと戻ってきて……?
次回、6章第9話「星に堕ちる者 - 前編 -」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!
アンネマリー王妃の計らいで、国のはずれにある女神神殿で結婚式を行うことになったリーゼロッテ。家族と友人たちに祝福されながら、満ち足りた思いでジークヴァルトと誓いの口づけを交わします。
その様子を冷めた瞳で見つめるカイ。自身とルチアに降りた託宣の無慈悲さに思いを馳せつつ、リーゼロッテからあふれ出た力の後を追い、ティビシス神殿の奥へと進んでいって。
そこで出会った老齢の女神官おばばの案内で、星読みの王女の壁画にたどり着きます。かつてあったというラウエンシュタイン国の存在を知らされるも、おばばに不可解な言葉を投げかけられて。
結局、託宣の新たな情報は得られずに、カイは急ぎ式へと戻るのでした。
ぼたん雪が舞う曇天の下、長い跳ね橋がゆっくりと降ろされてくる。ふたりの斜め後ろで浮きながら、ジークハルトは黙ってその様子を見上げていた。
深い堀を隔てた向こうには、高い鉄門に守られたラウエンシュタイン城がそびえ立っている。来るものを拒むような物々しさは、さながら陸の孤城と言ったところだ。
(ここに来るのは二度目か……)
だが守護者であるこの身では、あの日と同様、中に入ることは許されない。堀に流れる碧の水から、清浄な気が立ち昇っている。城の結界を成すそれは、まるで風に揺らぐカーテンのようだ。
痛いくらいに青龍の神気を感じつつ、ジークハルトはリーゼロッテへと目を向けた。
鎖の軋む音が響き渡る中、大きな瞳が忙しなくあちこちを見回している。久しぶりに帰る生家に、心を躍らせているのだろう。
ジークヴァルトがあの城で、初めてリーゼロッテと会った日のことを思い出す。中に入れなくとも守護する者の意識が、あの瞬間、ジークハルトにはありありと伝わってきた。
心を失ってしまったジークヴァルトの、それはもう鮮烈な体験だった。何百年もの間、多くの託宣者に寄り添ってきたジークハルトですら、かつてない衝撃を受けたほどだ。
ジークハルトは思う。ひとが持ち得る情動の中で、悲しみとはもっとも深い感情だ。その淵を知った者が手にする愛は、世界の何よりも尊く映る。
地響きを立て跳ね橋が降りきると、水のせせらぎが耳に届いた。橋へと踏み出すふたりの背に、ジークハルトはいつものように笑顔を向ける。
『いってらっしゃい。オレはここで待ってるよ』
「ハルト様は来られないのですか?」
『うん、あそこは神殿以上に青龍に守られた場所だから』
リーゼロッテは一度城に目をやり、再びこちらを振り返った。
「そう言えばハルト様、ティビシス神殿には入っていらっしゃいましたわよね? あそこも清浄な神気に満ちておりましたのに」
『昔っから姉上はオレにはやさしいんだ』
「姉上?」
『うん』
ニコニコ顔で返事をすると、リーゼロッテは不思議そうに首を傾けた。
「行くぞ」
促されて、戸惑いつつもリーゼロッテは歩き出す。城へと向かっていくふたりを、ジークハルトはひらひらと手を振り見送った。
『ありがとう、リーゼロッテ』
届かない距離でそう告げる。きっと考えもよらないのだろう。その存在が、どれほどジークヴァルトを救っているのかを。そしてまたジークハルト自身をも。
肉体を失って久しいこの身だが、未だひとの心が保てているのは、間違いなくフーゲンベルクの託宣者たちと繋がってきたからだ。
ジークハルトはリーゼロッテが好きだ。ジークヴァルトと同じくらい、狂おしいほど愛しく大切にしたいと思っている。
守護する者たちから伝わってくる想いそのままに、対となった託宣の相手にジークハルトも等しく恋をしてきた。同じ熱量で番を求め、ひとつになるよろこびを噛みしめる。
それでもこの感情は錯覚だ。悠久の時の中で消えかけていた“自分”を、ジークハルトは思いがけずに取り戻した。
これまでずっと、リーゼロッテを彼女に重ねていた。だがそれは似て非なるものだとようやく気づく。ティビシス神殿は懐かしいにおいに満ちていて、ジークハルトの記憶はあの時にひとっ飛びで巻き戻った。
『ありがとう……』
もう一度つぶやいて、遥か過去に思いを寄せる。守護者となった日の誓いは、今も確かにこの胸に息づいていた。リーゼロッテがいなかったら、再びあの地に戻ることもなかっただろう。
雪舞う天を仰ぎ、瞼を閉じる。
『姉上……』
ずいぶんと前に溶けてしまった彼女の気配は、限りなくうすく、それでもまだこの世界を包みこんでいた。
◇
堀の水はとても透き通っていて、水底までくっきり見えた。光に揺らめく碧を覗き込んでいると、うっかり流れに吸い込まれてしまいそうだ。
渡る橋は歩くたびに小さく軋む。少し怖くなって、リーゼロッテはジークヴァルトに身を寄せた。そこを抱き上げられかけて、今度は慌てて距離を取る。
「離れるな。橋から落ちたらどうする」
「落ちたりなどいたしません。自分の足で歩かせてくださいませ」
言い終わる前に手を引かれ、逃げ場なく腰をホールドされる。ジークヴァルトの過保護ぶりには、どうやらつける薬はないようだ。夜会に出る如く隙のないエスコートに、リーゼロッテは諦めの境地で身を預けた。
目の前に建つ城はリーゼロッテの生家、ラウエンシュタイン公爵家だ。ティビシス神殿からの帰路、遠回りしてふたりだけで立ち寄ることになった。あそこで過ごした記憶はないが、ダーミッシュ家に養子に入る以前はこの城で暮らしていたらしい。
対岸まで渡り切ると、見計らったかのように再び跳ね橋が上がり始めた。同時にそびえ立つ鉄門が、無人のままゆっくりと開かれていく。
(歯車が回るような音がするから、どこかで操作してるのかしら……)
跳ね橋の鎖が軋む音と門が開く音が重なって、会話をしても聞き取れなさそうだ。門が開ききるまでその様子を、ジークヴァルトとしばらく黙って見上げていた。
鉄の扉が先に動きを止め、ジークヴァルトに促されて歩き出す。振り返ると、だいぶ切り立った跳ね橋の向こうから、あぐらをかいたジークハルトが小さく手を振っていた。
門をくぐり城の敷地内へと入る。美しく整えられた庭には、やはり誰もいる様子はなかった。石畳に導かれてさらに進むと、背にした鉄門がひとりでに閉まり始める。やがて扉は完全に閉じ、辺りに静寂が訪れた。
(跳ね橋も上がり切ったのかしら)
歯車の回る音はもうしない。水のせせらぎも耳には届かず、城壁の厚さが伺えた。かわりに小鳥たちのさえずりが、植えられた木々のあちこちから聞こえてくる。
薄く雪化粧を施したこの庭は、本当にひとっ子ひとり見当たらない。手入れのいき届いた庭園を見回して、リーゼロッテはぽつりと呟いた。
「フーゲンベルクのお屋敷と違って、ここは随分と静かですのね……」
「ラウエンシュタイン城は許された人間しか入れないと聞いている。使用人も厳選されているんだろう」
少数精鋭と言ったところだろうか。これだけ広い敷地を少人数で管理するのは、なかなかに大変そうに思えた。
「こっちだ」
分かれ道があるにも関わらず、案内もなしにジークヴァルトは迷いなく進んでいく。
「ヴァルト様はここをよく知っていらっしゃるのですね」
「子どものころ、一度お前に会いに来ただろう?」
「あ……あれはここでの出来事だったのですね……」
初めて会った日に、黒いモヤを纏うジークヴァルトが恐ろしすぎて、とにかく泣きまくったことを覚えている。そんなリーゼロッテを抱き上げて、慰めるように守り石をくれたのは、ジークヴァルトの父親ジークフリートだ。
(なんとなくダーミッシュ家にいたときだと思ってたわ)
初恋の人にもらった守り石を、伯爵家の部屋で毎日のように陽にかざして眺めていた。月日とともに綺麗な青はくすんでしまったが、あの守り石は異形たちから幼いリーゼロッテを守ってくれていたのだろう。
(わたしがダーミッシュの屋敷で転びまくっていたのは、きっと守り石の力が無くなってしまったからね)
ずっとジークフリートに貰ったと思っていたが、あのペンダントはジークヴァルトからの贈り物だった。自分のしていた勘違いに、なんだか笑いがこみ上げてくる。
「どうした?」
「いえ、わたくし初めてお会いしたとき、ヴァルト様が黒いモヤを纏っているように見えてしまって……それ以来ヴァルト様のこと、ずっと恐ろしい魔王のように思っておりました」
でもあれは取り憑いた異形たちの恐怖に、リーゼロッテがシンクロしてしまっていたからだ。理不尽にジークヴァルトを毛嫌いしたりして、今さらながら申し訳ない気分になった。
「ヴァルト様は何も悪くないのに、わたくしったらなんてひどいことを……」
「いい。あの頃お前は異形が視えなかったんだ。それにオレの不手際もあった」
「不手際だなんて……。そう言えばヴァルト様はどうして、子どものころはわたくしに会おうとなさらなかったのですか?」
あの日、王妃の茶会で再会するまでは、ずっと手紙のやり取りだけが続いていた。初対面でリーゼロッテに恋をしたと言う割には、顔が見たいと思うこともなかったのだろうか。
(言っても、あの頃のわたしなら会いに来られても困ったでしょうけど)
黒モヤ魔王との文通に、苦労していた日々が懐かしい。届く贈り物すら恐ろしすぎて、手にも取れない有様だった。
「お前が成人を迎えるまで、会いに行くのは止められていた」
「止められて? いったい誰に?」
「……ラウエンシュタイン家にだ」
眉間のしわを深め、ジークヴァルトが歯切れ悪く答える。近づく城を見上げながら、リーゼロッテはこてんと首を傾けた。
「ラウエンシュタイン家に……? もしかして、ヴァルト様を見たわたくしがあまりにも大泣きしたせいで?」
はっとしてジークヴァルトを見やる。あの日のギャン泣きぶりは、自分で思い返しても相当なものだった。それを見た両親が、何かいらぬ誤解をしたのかもしれない。
理不尽に嫌われて遠ざけられたのだとしたら、幼いジークヴァルトはひどく傷ついたのではないだろうか。
「それはない。いや、理由はそれかもしれないが、恐らく原因はそれではない」
やはり歯切れ悪く答えると、ジークヴァルトはふいと顔をそらした。言いたくないことを隠すそのサインに、リーゼロッテはますます困惑顔となる。
「だったら何が理由で……」
「お前は覚えていないんだろう? だったら今さら知る必要はない」
なんだかどこかでしたことのあるやり取りだ。記憶を探り、思い当たることをジークヴァルトに問うてみる。
「もしかして……“ヴァルト様がずっとわたくしの名前を呼べなかった理由”と何か関係しているのですか?」
ぐっと口をへの字に曲げて、ジークヴァルトはさらに顔をそらした。いつかジークハルトにそんなことを聞かされたが、結局その件は有耶無耶に誤魔化されたままになっている。
(言いたくないのに無理に聞き出すのもアレよね……こうなったら自力で思い出すしかないわ)
元はと言えば自分の勘違いから起こったことだ。これ以上ジークヴァルトを問い詰めても仕方がない。いい機会だから、昔のことはすべて懺悔してしまおう。そんな思いもあって、リーゼロッテは話題を変えた。
「わたくしたち、子どものころから文のやりとりをしておりましたでしょう? 実はあれもジークフリート様宛に書いていると、わたくしずっと勘違いしてしまっていて……」
「いや、あれは確かに父上宛だった。お前は何も間違っていない」
「ですがお返事をくださっていたのはヴァルト様でしたわ」
初恋の人との思い出にと大切にしまっておいた手紙の筆跡は、どれもジークヴァルトのものだった。初めてそれに気づいた時の衝撃は、今でも忘れられないでいる。
「あの頃、オレはフーゲンベルク公爵の代理として返事を書いていた」
「代理として……?」
「ああ。だからあれは確かに父上宛の手紙だった」
むすっとした様子のジークヴァルトをぽかんと見上げる。
「もしかして、ヴァルト様宛で書かなかったこと、怒ってらっしゃるのですか?」
「怒ってなどいない。オレが爵位を継いだ後は、すべてオレ宛になった。だから返事ももう代理でなくなった」
言い訳を並べたような言葉が、ジークヴァルトにしては珍しく感じた。やはりジークフリートとの文通を、快く思っていなかったのかもしれない。
ジークヴァルトが爵位を継いだ後は、恐ろしくて手紙すら開けなくなったリーゼロッテだ。自分の思い込みのなせる業だったが、当時はエラに代わりに読んでもらっていたなどと言い出せない雰囲気だ。
目を泳がせて、何かほかに話題を探す。手紙繋がりで不自然にならない、いい流れを思いついた。
「わたくしたち、これまでたくさん文のやり取りをしてきましたものね」
ダーミッシュ領に戻った時などは、それこそ交換日記のごとく毎日手紙を書いていた。ずっと一緒にいる今は、文をしたためることもない。ひと言ふた言だけ書かれたそっけない返事が懐かしく思えて、リーゼロッテの口元が知らず綻んだ。
「お前の手紙は今までの分、すべて保管してある」
「そういえば、ヴァルト様のお部屋の棚にしまってありましたわね……」
過去書いた手紙のみならず、リーゼロッテが子どものころに贈ったガラクタまでも、いまだ居間の棚に宝物のごとく飾られている。
「もう片付けてもよろしいのでは?」
「いや、駄目だ」
「ですが、取っておいても場所ばかりとって、なんの役にも立ちませんでしょう?」
「そんなことはない。オレは今でも定期的にすべて読み返している」
「読み返し……手紙をですか?」
「ああ」
「なんのために?」
「子どものころからの習慣だ」
「習慣……? 子どものころからの?」
「ああ」
唖然となって、オウム返ししかできなくなる。どうしてそんなことをするのかとも思ったが、理由と言ったらひとつしかないのだろう。
(ヴァルト様ってどんだけわたしのことが好きなのよ……!)
エントランスの大きな扉の手前まで来て、思わず足が止まってしまった。赤くなったまま黙ったリーゼロッテに、ふっと魔王の笑みが向けられる。制止する暇もなく、素早く唇を奪われた。
「も、もうっ、時と場所をお考えくださいませ!」
「そんな顔をするお前が悪い」
しれっと返ってきた言葉に頬を膨らませると、前触れなく中から扉が開かれた。驚きに慌てて居住まいを正す。
「お帰りなさいませ、リーゼロッテ様」
広いエントランスには老齢の女性だけが立っていた。隙のない動作で腰を折り、リーゼロッテへと首を垂れる。
「あなたは……?」
「わたしはルル・ドルン。ラウエンシュタイン家の家令を務めさせていただいております」
「名乗らせてごめんなさい。わたくし、ここでのことは何も覚えていなくて……」
「無理もございません。リーゼロッテ様はまだお小さくあらせられました。わたしへの気遣いは不要にございます」
表情を変えずに答えた家令に、それでもリーゼロッテはすまなく思う気持ちを消せなかった。自分が覚えている相手に忘れ去られてしまうのは、とても悲しく寂しいことだ。
「ありがとう、ルル。でももう忘れたりしないわ」
「ありがたきお言葉、いたみいります」
無表情のまま、ルルは再び静かに首を垂れた。そっけないが冷たい感じはしない。そんなルルが今度はジークヴァルトへ視線を向けた。
「不在の主に変わり、フーゲンベルク公爵様に御礼申し上げます。リーゼロッテ様が昔と変わることなくおやさしい心根でおられるのも、公爵様の手厚き庇護があってのことでしょう。どうぞこれからも、リーゼロッテ様のことをよろしくお願い申し上げます」
「ああ」
短く返したジークヴァルトも負けず劣らずそっけない。ルルに親近感を感じるのも、ジークヴァルトを見慣れているせいかもしれなかった。
「それでルル……イグナーツ父様はいらっしゃらないの?」
「イグナーツ様は春にお出かけになって以来、まだお戻りになられておりません。例年ですと、白の夜会が行われる前後でご帰還なさいます」
「そう……」
また会えるかと思っていた実父の不在に、リーゼロッテはしょんぼりと肩を落とした。
「ねぇ、ルル。父様がお戻りになったら、連絡いただけるようお願いしてもらえないかしら。そうしたらわたくし、すぐにでも父様に会いに来るわ」
「承知いたしました」
快い返事に笑顔になるも、リーゼロッテは伺うようにジークヴァルトを見た。勝手に決めてしまったが、果たして許してもらえるだろうか。
「ジークヴァルト様、構いませんわよね……?」
「ああ、問題ない。そのときはオレが連れていく」
うれしくてリーゼロッテは瞳を輝かせた。ひとりで里帰りすらできない自分が情けなくもなるが、異形を騒がせる体質を思うと、ジークヴァルトに同伴をお願いするよりほかはない。
「わたくし、ヴァルト様のご負担にならないように、力の扱いがうまくなるようもっともっと励みますわ」
「そんなことは必要ないと言っただろう」
「ですが……」
見上げるとやさしく頬を撫でられる。青の瞳が細められ、親指が下唇をゆっくりなぞってきた。いつもキスの前にされるその仕草に、リーゼロッテの頬が一瞬で桜色に色づいた。
自然に口づけられそうな流れの中、視線を感じてはっと我に返る。すぐそこで、定規のようにぴしりと背筋を伸ばしたルルが、無表情のまま立っていた。動揺して、思わずジークヴァルトの胸を押しのける。
「ご、ごめんなさい、こんなところで」
「わたしのことはお気になさらず。どうぞお続けになってください」
生まれた家と言えど、記憶も残っていない今や他人のお宅様だ。そんな玄関先でさぁどうぞと言われても、これ以上ふたりでイチャコラできるはずもない。
「ラウエンシュタイン家はリーゼロッテ様のお戻りを待ち侘びておりました。遠慮することなどございません。どうぞ思うままにお過ごしください」
「それなら城の中を見て回ってもいいかしら……?」
「もちろんでございます。リーゼロッテ様のお部屋も以前のまま整えてあります。順にご案内いたしましょう」
ルルの先導のもと、城の中をあちこち回る。生家と言っても、初めてに思える場所ばかりだった。やはり他人様のお宅のように感じて、リーゼロッテはルルの説明を物珍しく聞いていた。
(やっぱりここは静かだわ……)
以前訪問したグレーデン侯爵家もそうだったが、自分たち以外、人の気配がまるでしない。だが息が詰まりそうな雰囲気だったグレーデン家とは違って、この城は空気の流れが感じられた。どこもかしこも清浄な気で満ちている。
「では最後にリーゼロッテ様のお部屋にご案内いたします」
終わりが近づくのを知り落胆するも、滞在時間は限られている。案内が手短なのも仕方がないことだろう。
(あれ……?)
渡る廊下でリーゼロッテはふと足を止めた。
(わたし、ここ知ってる)
来た後ろを振り返り、再びルルが行く奥に目を向ける。
「どうした?」
「いえ、わたくし、なんだかここを……」
ルルが進む先には、きっと子ども部屋がある。振り返った廊下の角を真っすぐ行くと、一年中花が咲く美しい庭に出るはずだ。
衝動にかられて、リーゼロッテは駆けだした。ジークヴァルトの静止も耳に届かず、スカートをつまみ上げ、誰もいない廊下を息を切らしてひた走る。
庭に出て、きょろきょろと辺りを見回した。茂みの向こうに見つけた小道を進み、幅広の石の階段を駆け下りる。
「やっぱり、ここ知ってる……」
そうだ。そこに見える生垣の奥に、いつも小鬼と遊んでいた花畑がある。大事なお客様が来るからと、あの日は妖精たちにお願いをして、いつもより多めに花を摘ませてもらった。
両手いっぱいの花束を抱え、城へ戻ろうとうきうきで小道を進む。スカートにまとわりつく小鬼たちとじゃれ合いながら。
『ロッテ、お待ちかねのひとを連れてきたよ』
父親の声が聞こえたような気がして、降りてきた石の階段をリーゼロッテははっと見上げた。
(そうよ、ここでジークヴァルト様と初めて会ったんだわ)
ちょうどあの辺り、幅広の階段の上から、真っ黒いモヤを纏ったジークヴァルトが黙ってこちらを見下ろしていた。
とそのとき、リーゼロッテを囲む庭が眩暈のように揺らめいた。雪景色から一変、庭木の緑が視界に映る。急に目線が低くなり、世界がひとまわり大きく膨らんだ。
抱える花々の、むせかえるあまい匂い。髪の毛をさらう秋の風。はためくスカートにしがみつく小鬼たち。
いちばん上の段の縁に、黒髪の少年が立っている。前髪がさらりと風になびき、自分を見下ろす宝石のような青の瞳が目に飛び込んだ。
(あれ? わたし、ヴァルト様の顔、見えてる……?)
目をそらすことなく、少年が階段を下りてくる。ゆっくりとゆっくりと時間をかけて。
子どものジークヴァルトはそれでも自分よりも背が高くて、目の前まで来て立ち止まった青い瞳を、リーゼロッテは何もできずにじっと見上げていた。
足元の小鬼たちから不安げな気配が伝わってくる。それが分かっても、瞳の青に魅入られて、瞬きすらできずにただ息をつめた。
延ばされた手が髪の中に差し入れられる。引き寄せられるまま、ふたりの距離が近づいた。まるでそうすることが当然のように、ジークヴァルトの唇は躊躇いなくリーゼロッテのそれに重ねられた。
何が起きたのかすら分からなくて、リーゼロッテは胸の花束をぎゅっと抱きしめた。長く何度も啄まれて、舌先がこの唇をなぞってくる。目を見開いたその瞬間、すべてが漆黒に塗りつぶされた。
小鬼たちの叫びに引きずられ、リーゼロッテもあっという間に恐怖に飲まれていく。襲い来る黒い穢れは、肌の上を這い回る虫の群れのようだ。抱えた花を手落として、リーゼロッテは力の限りジークヴァルトを押しやった。
「リーゼロッテ!」
肩をゆすぶられて、はっと意識が戻る。見下ろす青の瞳が目に飛び込んで、リーゼロッテは大きく息を吸った。
「ジーク、ヴァルトさま……」
呆然と見やると、視界の高さも元に戻っている。今見ていた景色は、子どものころの記憶なのだと、リーゼロッテはそう気がついた。
「わたくし、ここでヴァルト様と初めてお会いして……」
あの直後広がった黒モヤに驚いて、火がついたように泣き出した。それを見て慌てたジークフリートが、抱き上げて庭中を歩いてあやしてくれたのだ。
どうして忘れていたのだろうと思うくらい、急速にあの日の出来事が蘇る。ペンダントを手渡され、守り石を陽にかざしながらご機嫌で部屋に戻った。ジークヴァルトのことなど、すっかり忘れたままで。
無意識に指で唇をなぞる。初対面でした口づけの感触が、ここにまだ残っているような気がした。
「なんだ、思い出したのか?」
ふっと笑って、ジークヴァルトはちゅっとキスをひとつ落としてきた。
不意打ちに、フリーズしていた頭が動き始める。
「わ、わたくしのファーストキスぅう……っ!!」
絶叫が木霊する。
「……ふぁあすときす?」
思わず口をついた叫び声に、ジークヴァルトが軽く眉根を寄せた。
◇
最後に通された子ども部屋も、なんとなく見覚えがあった。暖炉のある居間に寝室が別になっていて、乳母用と思われる小部屋も備えられている。
「お時間までここでおくつろぎください」
芳しい紅茶と焼き菓子を置いて、ルルはひとり下がっていった。
「疲れたか?」
「いえ、なんだか気持ちが高揚してしまって……」
早朝に公爵家を出発し、午前中にはティビシス神殿で結婚式を終えた。大急ぎで着替えたあと、ジークヴァルトとふたりでこのラウエンシュタイン城に赴いたという強行軍ぶりだ。しかもこれから日が沈みかける中、フーゲンベルク領へと戻ることになっていた。
「わたくしは帰ってからゆっくりできますし、むしろヴァルト様の方が心配ですわ」
「いや、オレは何も問題ない」
忙しい執務の合間を縫って、リーゼロッテのためにスケジュールを空けてくれた。そんなジークヴァルトは休む間もなく、明日から激務の日々が待っている。
(やっぱりわたしがもっと自立しないと……)
力の制御は上手にはなったが、異形に対して無防備なのは変わらない。
「何を考えている?」
「いえ、わたくしも明日からなまけず頑張りますわ」
神殿に攫われて以来、ジークヴァルトは片時もリーゼロッテを離そうとしなくなった。王城出仕で屋敷を空けるときなどは、必要以上に何度も様子をうかがってくる。リーゼロッテもその不安を酌んで、留守番の日は極力部屋から出ないようにしていた。
「お前が頑張る必要など何もない」
「ですからそうやって甘やかさないでくださいませ」
膝に乗せられあーんをされる。幼い自分が過ごしていた部屋で、ジークヴァルトとこうしていることが、何だか不思議な気分になった。
「ヴァルト様、すこし寝室を覗いてきてもよろしいですか?」
「ああ、ゆっくり見てくるといい。その間、オレは先ほどの家令と少し話をしてくる」
膝を降り、ジークヴァルトを置いて寝室の扉を開ける。ずっと使われていなかったはずの部屋は、やはり清浄な空気に包まれていた。
「ベッドは子ども仕様ね……」
小さめの寝台の縁に腰かけると、スプリングが心地よく跳ねた。ダーミッシュ家に養子に入るまで、ここで毎日眠っていたのだろう。
しんとした部屋を見回して、リーゼロッテは座った姿勢から行儀悪く体を横に倒した。頭をふかふかの枕に沈め、ふぅと密やかに息をつく。
「やっぱりちょっと疲れたかも……」
瞼を閉じると心地よいまどろみが訪れる。このままでは本当に眠ってしまいそうで、リーゼロッテは無理やりに目を開けた。横たわったまま降ろした足をプラプラさせながら、横向きの部屋をぼんやり見やる。
(あ、この景色も知ってる……)
肩までもぐりこんだ上かけの毛布が心地よすぎて、起きていたくてもいつの間にか瞼が閉じてしまう。頑張って目を見開いた先にいるのは、やさしく微笑む母親だ。その後ろから父イグナーツが、包み込むように母を抱きしめている。
「マルグリット母様……」
唯一残る母の思い出は、ここで見た風景なのだ。急に郷愁に駆られて、リーゼロッテはなんだか寂しくなってしまった。
身を起こして寝室から出る。
「ジークヴァルト様……?」
戻った居間を見回すも、その姿は見つからない。先ほどルルに話があると言っていたので、まだ戻ってきていないようだ。
耳の守り石に触れると、不思議と不安が和らいだ。ジークヴァルトはすぐ近くにいる。そんな気配が伝わってくる。
感じる青の波動を頼りに、リーゼロッテは子ども部屋を出た。進むにつれて、ジークヴァルトに近づいているのがよく分かった。もうすぐそこにいる。その確信の下、リーゼロッテの足はおのずと速くなっていく。
ぴりっと背筋に悪寒が走った気がして、驚きで立ち止まった。その嫌な気配は自分を追うように、ゆっくりと、だが確実にここへと迫っている。そんなはずはないと言い聞かせながら、リーゼロッテは恐る恐る振り返った。
「おや、これは奇遇ですね、リーゼロッテ・ラウエンシュタイン」
その声に、あの夜の悪夢が蘇る。
背後に佇んでいたのは、かつてリーゼロッテを攫った張本人――盲目の神官レミュリオだった。
【次回予告】
はーい、わたしリーゼロッテ。思いがけない場所で神官レミュリオとエンカウントしてしまったわたし。見え隠れする青龍の思惑に、戸惑いと不安が募ります! 一方、託宣の調査を続けるカイ様は、何も得られないまま王都へと戻ってきて……?
次回、6章第9話「星に堕ちる者 - 前編 -」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!
10
※小説家になろうグループムーンライトノベルズにて【R18】ふたつ名の令嬢と龍の託宣 不定期投稿中☆
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる