ふたつ名の令嬢と龍の託宣【第二部公爵夫人編開始】

古堂 素央

文字の大きさ
上 下
419 / 528
第3章 寡黙な公爵と託宣の涙

しおりを挟む
     ◇
 外に出ると、まだ日も昇らない暗闇だった。昨日に引き続き、強い風が吹いている。春になったとはいえ、この時間はまだ肌寒い。その冷えた空気を吸いながら、ジークヴァルトはいつもの場所へとひとり向かった。

 空の境目が白みかける頃、マテアスが大ぶりの剣を抱えてやってきた。普段よりも早く待っていたあるじに、マテアスが訝し気な顔をする。

「今日はお早いですね。もしかして寝てないんですか?」
「しばらく横にはなった」
「……まぁ、いいでしょう。後で仮眠の時間を作ります。ひと汗流したら、今朝は早めに切り上げましょう。で、今日はいかがなさいますか?」

 剣を差し出すと、ジークヴァルトはそれを黙って受け取った。

「マテアスの好きでいい」
 剣をさやから抜いたジークヴァルトの言葉に、マテアスは体の前ですっと両手を構えた。
「では、こちらは素手で参ります」

 一瞬の静寂の後、ふたり同時に動き出す。容赦なく繰り出される切っ先に、マテアスは飛びのくように距離を取った。ジークヴァルトが次の構えを取る前に、その懐へと飛び込んでいく。
 手元を狙ったマテアスの手刀を、寸でのところでひじで受ける。はじき返すように剣を一閃すると、再びマテアスは遠く距離を取った。

 この早朝の手合わせは、ジークヴァルトが幼少の頃から、日課のように続けられている。マテアスは騎士ではないので、長剣をふるうことはない。だが、時には細剣を持ち、時には短刀で、そして今日のように体術を用いて、ジークヴァルトの相手をずっと務めてきた。

 賊に襲われるとき、相手が礼儀正しい騎士の作法で向かってくるなどあり得ない。ありとあらゆることを想定して、この鍛錬は続けられている。

 互いのくせを知り尽くしているため、勝敗は大概、時間切れで幕を閉じる。幾度目かの攻撃がお互い不発に終わった時、マテアスはその体から緊張を解いた。

「今日はこのくらいにしておきましょう。湯で汗を流したら、一時間だけでも眠ってください。あなたに倒れられたら、わたしもいい迷惑ですから」

 再び長剣を抱えると、マテアスは屋敷に戻っていった。その背を見送りながら、いつの間にか明けた空を見上げる。低く、厚い雲が強風に流されていく。雲間に映る朝焼けが、その動きとともに形を変えた。

 自身の欲情を吹き飛ばすかのように、風に立ち、ジークヴァルトはしばらくの間、その様子をじっと見つめていた。

     ◇
「ご報告申し上げます」

 王の前で片膝をつき、カイは頭を垂れた。人払いがされた謁見えっけん室は、カイとディートリヒ王、そしてハインリヒ王子の三人だけだ。

「昨年見つかった新たな託宣のあざを持つ少女が、この度確認できました。彼女はウルリヒ様の血を引くものと思われます」
「その者とは?」
「少女の名はルチア。ウルリヒ様とアニータ・スタン伯爵令嬢の間に生まれたお子のようです」
「新たな託宣はふたつあったはず。そのうちのどちらなんだ?」

 ハインリヒの問いに、カイは一度言葉を詰まらせた。

「……彼女の受けた託宣名はリシル。異形の者に命奪われし定めの者にございます」
 努めて冷静に口にする。龍の託宣が違えられたことはない。ルチアはいずれ、異形の者にあやめられる運命だ。

「して、その者は今どうしている?」
「彼女は今、ラウエンシュタイン公爵代理の庇護のもと、ダーミッシュ領で暮らしております」
「公爵代理……? リーゼロッテ嬢の父親か?」

 ハインリヒは意外そうな顔をした。

「アニータ嬢が既知の仲である公爵代理に助けを求めたようです。そのアニータ嬢は、一か月ほど前に逝去しています。王、託宣を受けた少女の処遇はいかがなさいましょう」

 カイがディートリヒ王を見上げる。その金色の瞳は、いつでも遠くを見つめているかのようだ。

「ラウエンシュタインに任せておけばよい」
「ですが……!」

 ルチアは王族の血を引く者だ。受けた託宣の内容を考えても、王家で保護するのが筋だろう。

「よい。すべては龍の思し召しだ」

 そう言ってディートリヒは玉座から静かに立ち上がった。青いマントを翻して去っていく。

「カイ・デルプフェルト。そなたはそばでその者を見守るがいい」

 去り際にそう残して、王は扉の向こうに消えた。残されたハインリヒ王子と目を合せる。カイがかいつまんでルチアの経緯を話すと、ハインリヒは神妙な顔つきとなった。

「カイ……何かあったら力になる。遠慮なく言ってくれ」
「お心づかい、感謝いたします」

 ハインリヒに向かって、カイは力ない笑顔を向けた。

     ◇
(今日はどれを読もうかしら……)

 アンネマリーは星読みの間の書斎で、本を吟味していた。正式に王太子妃になった後、隠されたこの本棚の存在を、イジドーラ王妃に告げられた。目の前に並ぶのは、歴代の王太子妃たちが書き残した記録の数々だ。
 いわば日記というやつだが、書いた人間によって内容は様々だった。王太子妃としての心構えを後世に残す者から、ただ日々の出来事を淡々と綴る者、中には、食卓のメニューを並べるだけのそんな強者つわものもいた。

 王太子妃としてやっていくにあたって、参考になる物とそうでない物の落差がありすぎる。そんなラインナップに、アンネマリーは思わず力が抜けてしまった。過去の王太子妃たちが、肩ひじを張らなくても大丈夫だと教えてくれているようで、アンネマリーは少しだけ気が楽になった。

 そうはいっても、アンネマリーはあまりにも急にこの立場となってしまった。本来なら幼少期から行われるであろう、王妃になるための教育は、もはや実地訓練と化している。
 何しろ今まで上だった身分の者が、一斉に自分にかしずいて来るのだ。いきなり王族に籍を置いた身で、人を従えるのはことのほか気を使う。

 指を滑らせて背表紙を追う。綺麗な日記は手に取らず、すり切れたものを優先的に開いていった。
 参考になる日記は、過去の王太子妃たちにも何度も読まれてきたようだ。年月を経てまくられ続けた日記などは、もうページがちぎれそうなくらいだった。

(あ、これはまだ見てないわね)

 奥の方に押し込まれていたぼろぼろの日記を探し当てる。紙が破れないようにと、アンネマリーはそっとそれを開いた。
 ぺらぺらと少しめくって、アンネマリーは慌てたようにその日記を閉じた。顔を赤くして、しばし固まったまま動けなくなる。

(見間違いではないわよね……)
 心を落ち着けてから、再びそうっと日記を開く。中でもだんとつと言えるほどすり切れたその日記には、細かい文字でびっしりとねやの作法が記されていた。

 いかにして愛する王太子を癒すのか。そんなことが中心に書かれている。刺激的な体位、マンネリになった時の打開策、殿方の体に関する知識のアレコレ。時には図解入りで、夜の営みに関することが、表現豊かに綴られていた。

 しかもいろいろな者が、後から書き加えた痕跡も残っている。王太子妃たちの叡智が詰まった、究極の愛の教本となっていた。

 立ったまま、食い入るようにそれに目を通していたアンネマリーは、途中ではっと我に返った。ハインリヒとは毎晩のように体をつなげている。癒すどころかハインリヒに翻弄されて、アンネマリーはいつもされるがままだ。
 体が火照ってくるのを感じて、慌ててその日記を本棚の奥に押し込んだ。

 気を取り直して、もっと日々の公務に役立ちそうなものを探す。いちばん端の真新しそうな日記を見て、アンネマリーは驚きの声を上げた。
「これ、アランシーヌ語で書かれているわ」

 アランシーヌは鎖国を貫くこの国が、唯一国交を持つ隣国だ。手に取って中を確かめると、そこには綺麗なアランシーヌの文字で日記が綴られていた。
 それを手に、一度居間へと戻る。ソファに座り、アンネマリーはゆっくりと目を通していった。

(この日記は、セレスティーヌ前王妃……ハインリヒ様のお母様が書いたものだわ)

 セレスティーヌは隣国の王女だったと聞く。その縁もあって第二王女のテレーズは、アランシーヌの王族へと嫁ぐこととなった。セレスティーヌは病弱で、ハインリヒが幼い時に亡くなっている。故人の記憶を盗み見ているようで、アンネマリーは後ろめたい気持ちになった。

《九月九日、晴れ、この国に来てからもう一か月。まだ秋も間もないのに、この寒さはどういうことなのかしら。真冬が来たら、わたくしはきっと氷漬けね》

 ふいに背後からハインリヒの声が聞こえた。流暢りゅうちょうなアランシーヌ語で、ちょうどアンネマリーが開いているページの日記を読み上げていく。

「ハインリヒ様!?」
「一応声はかけたけど、驚かせてしまったね」

 ソファの背をまたいで、アンネマリーの後ろに無理やりに座ってきた。時々こんなふうにハインリヒは、すごく子供っぽいことをする。それは自分にだけ見せる姿だと思うと、アンネマリーはくすぐったい気分になった。

 少し前にずれたアンネマリーを抱え込んで、そのうなじに口づけを落とす。
「ん……ハインリヒ様、そこは駄目です」
 龍のあざがある場所に触れられると、否応なしに体が熱を持ってしまう。

「仕方ないよ、アンネマリーが可愛いのが悪い」
 そう言って、再びうなじに口づける。肩をすくませて逃げようとする体を、ハインリヒはぎゅっと背後から抱きしめた。

「それにアンネマリー、また様がついてるよ」
「あ……」

 気を抜くとすぐ昔に戻ってしまう。これも急な立場の変化についていけてないあかしだ。

「大丈夫。アンネマリーはちゃんとやれているから」
 今度はその耳にキスを落とす。そのままアンネマリーの肩に、ハインリヒは自分の顔を乗せた。

「ハインリヒはアランシーヌ語が話せたのですね」
「ああ、でも聞くのはそこそこできても、話すのは苦手だな」
「ですが、先ほどは完璧でしたわ」
「そうかい? テレーズ姉上に比べたらまだまだってところだろうな。姉上は子供の頃からアランシーヌ語がペラペラだったから」
「え? テレーズ様が?」

 アンネマリーは首をかしげた。テレーズの元にいた時、隣国の言葉をうまく話せない彼女のために、アンネマリーはいつも通訳のようなことをしていた。時には隣国の貴族に、テレーズに伝えられないような暴言を吐かれて、人知れず涙した日もあった。

「ああ、分からないふりはきっとわざとだよ。言葉を理解できないとなると、侮って相手はぼろを出しやすくなるからね」
「そんな……」

 あんな口汚い言葉を、テレーズはにこやかな顔で聞いていたのだろうか。そのしたたかさに、アンネマリーは驚きを隠せない。

「アンネマリーは隣国の言葉にけているからね。わたしもうまく話せないことにしておいた方が、隣国との交渉がうまくいくかもしれないな」

 そう言いながら、ハインリヒは腕に乗せたアンネマリーの胸をゆさゆさと揺らした。腹に巻き付けた腕に乗せ、先ほどからその重みを楽しんでいるようだ。

 ハインリヒはこの大きな胸がいたくお気に入りだ。ずっとコンプレックスに思っていたのに、今では大きくてよかったと思っているから、自分も相当現金だ。くすりと笑って、ハインリヒを振り返った。

「ん? どうしたんだい?」
「いえ、ハインリヒが楽しそうだなと思って」

 再びくすりと笑うと、ハインリヒは途端に真顔になった。
「それは違うよ、アンネマリー」
 あまりにも真剣な声音に、怒らせてしまったのかとアンネマリーは不安に駆られた。

「楽しそうなんじゃない。楽しいんだ」

 王太子顔できりりと言われ、アンネマリーはぽかんと口を開けた。

「ふ……ふふふ、それは本当に何よりですわ」
 くすくす笑っているうちに、ハインリヒが耳をんでくる。日記を手にしていたアンネマリーは、読み進めることを諦めて、閉じたそれをテーブルへと置いた。

「もういいの?」
「ハインリヒより大事なことなんて、この世にはひとつもありませんわ」

 振り向いて、唇を奪う。意表を突かれたハインリヒは、すぐさまアンネマリーに口づけを返した。つばむようなキスは、やがて深いものとなり――

 お互いの熱を分けるように、静かに夜は更けていった。

    ◇
 三度ゆっくりと呼吸をして、ミヒャエルは深い瞑想から目を開けた。
「ラウエンシュタインの小娘は公爵家へと戻ったか……」

 新年を祝う夜会以来、くれないの女神は姿を現さない。何度乞うても、その声を聞くことは叶わなかった。

(いや、まだ見捨てられたというわけではない)

 言い聞かせるように、ミヒャエルは左の拳を握り締めた。あの夜、ラウエンシュタインの忌まわしき力の反撃にあって、負傷した右手はいまだ動かぬままだ。

 緑の小娘を今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい。だが、フーゲンベルクの厚い盾に守られて、その居場所を探るのが精一杯だった。
(指輪さえ砕けなければ……)
 あの指輪と共に、女神から賜った力も失われてしまった。おかげで、フーゲンベルクの青にすら、太刀打ちできない事態に陥っている。

 今の状態で、ラウエンシュタインの力に敵うことはないだろう。だが――

「盾を崩すだけなら、やりようはある」

 ひとりほくそ笑み、再び目をつぶる。
(いつか、すべてを取り返す)

 その日を願ってミヒャエルは、女神の声をただひたすらに待ちつづけた。





【次回予告】
 はーい、わたしリーゼロッテ。ジークヴァルト様との距離がつかめないまま、ぎくしゃくするわたしたち。そんな中、レルナー家を飛び出したツェツィーリア様が、公爵家にやって来て。そして再び、ミヒャエル司祭枢機卿の魔の手が迫る……!
 次回、3章第9話「妄執の棘 - 前編 -」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!
しおりを挟む
※小説家になろうグループムーンライトノベルズにて【R18】ふたつ名の令嬢と龍の託宣 不定期投稿中☆
 第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
 こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

処理中です...