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第2章 氷の王子と消えた託宣
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「そうだわ……!」
ふと思い出して、名案を思いついたようにリーゼロッテはぱちりと両手を胸の前で重ね合わせた。
「ねえ、アンネマリー。アンネマリーには龍のあざはある?」
「え?りゅうのあざ?」
「ええ、丸い文様のようなこのくらいの大きさのあざよ。体のどこかにないかしら?」
龍から託宣を賜った者は、体のどこかに龍のあざがある。王太子の応接室で、王子殿下はいつもつけている白い手袋を外して、手の甲にあるあざをみせてくれた。
託宣を受けた自分の胸にもそれはあるし、見たことはないがきっとジークヴァルトにもあるのだろう。
もし、それがアンネマリーの体にも刻まれているのなら、王子の託宣の相手はアンネマリーかもしれないのだ。
期待に満ちた目を向けられて、アンネマリーは困惑したように口を開いた。
「丸い文様? もしかして、龍の祝福の事かしら……? そう言えばリーゼには綺麗な龍の祝福があると聞いたわね」
ブラオエルシュタイン国では、生まれつきのあざは龍の祝福として喜ばれるものとされている。アンネマリーはそのことを言っているのだと受け止めた。
「いいえ、あいにくとわたくしは龍の祝福は持っていないわ」
「そう……あざはないのね……」
かぶりを振るアンネマリーにリーゼロッテは落胆の色を示した。今にも泣きだしそうなリーゼロッテに、アンネマリーはそっと微笑んだ。
リーゼロッテがなぜそんなことを聞いたのかはわからないが、自分を心配してくれていることはよくわかる。
母親のジルケにしてもそうだ。王城で何があったのかを、無理に聞き出そうとすることはなかった。落ち込む自分に何かを言いたげにはしているが、それでも我慢強くじっと見守っていてくれている。
(このまま落ち込んでばかりいても仕方ないわね……)
アンネマリーは気持ちを切り替えるように、一度静かに瞳を閉じた。
「……ねえ、リーゼロッテ……わたくしね、王子殿下が好きだったの」
ぽつりと言うアンネマリーは寂しげで、だが、どこか誇らしげにも見えた。
「すごくすごく……大好きだった……」
はるか遠く、懐かしいものを見るように、アンネマリーは言葉を切った。
「アンネマリー……」
リーゼロッテの瞳からもりもりと涙がせりあがってくる。それを見たアンネマリーは少しだけ目を見開いた後、ふっと微笑んでリーゼロッテのまなじりに手を伸ばした。
「ばかね、どうしてリーゼが泣くの」
こぼれ落ちる涙をやさしくぬぐい取る。
「だって……だって、アンネマリー……」
えぐえぐとリーゼロッテはしゃくりあげた。本来であれば侯爵令嬢の立場なら、身分的に王太子妃になってもおかしいことではない。しかし、龍の託宣がそれを許さないのだ。
(アンネマリーと王子殿下は、絶対に両想いなのに……)
それを言ったところで、アンネマリーが余計に傷つくだけだ。何もできないくせに安易に涙を流す自分にも腹が立ったが、何より龍の存在が恨めしく思えた。
「ありがとうリーゼ……わたくしのために泣いてくれて……」
泣きじゃくるリーゼロッテをぎゅっと抱きしめる。自分の涙はもう枯れ果ててしまった。だからもうお終いにしよう。
アンネマリーはリーゼロッテの肩口に顔をうずめ、囁くように言った。
「ね、リーゼ。わたくし、とてもしあわせな夢を見た気分なの。王子殿下はいずれこの国を背負って立たれるお方……そんな雲の上の存在の王子殿下と、ほんのひと時でも同じ時を過ごせたんですもの……」
「アンネマリー……」
「だから……もういいの……」
アンネマリーの切ない思いが伝わってきて、リーゼロッテはさらに顔をゆがませた。大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
「そんなに泣いては目が溶けてしまうわよ」
いたずらっぽく笑うと、アンネマリーは濡れるリーゼロッテの頬に軽いキスを落とした。
ふと思い出して、名案を思いついたようにリーゼロッテはぱちりと両手を胸の前で重ね合わせた。
「ねえ、アンネマリー。アンネマリーには龍のあざはある?」
「え?りゅうのあざ?」
「ええ、丸い文様のようなこのくらいの大きさのあざよ。体のどこかにないかしら?」
龍から託宣を賜った者は、体のどこかに龍のあざがある。王太子の応接室で、王子殿下はいつもつけている白い手袋を外して、手の甲にあるあざをみせてくれた。
託宣を受けた自分の胸にもそれはあるし、見たことはないがきっとジークヴァルトにもあるのだろう。
もし、それがアンネマリーの体にも刻まれているのなら、王子の託宣の相手はアンネマリーかもしれないのだ。
期待に満ちた目を向けられて、アンネマリーは困惑したように口を開いた。
「丸い文様? もしかして、龍の祝福の事かしら……? そう言えばリーゼには綺麗な龍の祝福があると聞いたわね」
ブラオエルシュタイン国では、生まれつきのあざは龍の祝福として喜ばれるものとされている。アンネマリーはそのことを言っているのだと受け止めた。
「いいえ、あいにくとわたくしは龍の祝福は持っていないわ」
「そう……あざはないのね……」
かぶりを振るアンネマリーにリーゼロッテは落胆の色を示した。今にも泣きだしそうなリーゼロッテに、アンネマリーはそっと微笑んだ。
リーゼロッテがなぜそんなことを聞いたのかはわからないが、自分を心配してくれていることはよくわかる。
母親のジルケにしてもそうだ。王城で何があったのかを、無理に聞き出そうとすることはなかった。落ち込む自分に何かを言いたげにはしているが、それでも我慢強くじっと見守っていてくれている。
(このまま落ち込んでばかりいても仕方ないわね……)
アンネマリーは気持ちを切り替えるように、一度静かに瞳を閉じた。
「……ねえ、リーゼロッテ……わたくしね、王子殿下が好きだったの」
ぽつりと言うアンネマリーは寂しげで、だが、どこか誇らしげにも見えた。
「すごくすごく……大好きだった……」
はるか遠く、懐かしいものを見るように、アンネマリーは言葉を切った。
「アンネマリー……」
リーゼロッテの瞳からもりもりと涙がせりあがってくる。それを見たアンネマリーは少しだけ目を見開いた後、ふっと微笑んでリーゼロッテのまなじりに手を伸ばした。
「ばかね、どうしてリーゼが泣くの」
こぼれ落ちる涙をやさしくぬぐい取る。
「だって……だって、アンネマリー……」
えぐえぐとリーゼロッテはしゃくりあげた。本来であれば侯爵令嬢の立場なら、身分的に王太子妃になってもおかしいことではない。しかし、龍の託宣がそれを許さないのだ。
(アンネマリーと王子殿下は、絶対に両想いなのに……)
それを言ったところで、アンネマリーが余計に傷つくだけだ。何もできないくせに安易に涙を流す自分にも腹が立ったが、何より龍の存在が恨めしく思えた。
「ありがとうリーゼ……わたくしのために泣いてくれて……」
泣きじゃくるリーゼロッテをぎゅっと抱きしめる。自分の涙はもう枯れ果ててしまった。だからもうお終いにしよう。
アンネマリーはリーゼロッテの肩口に顔をうずめ、囁くように言った。
「ね、リーゼ。わたくし、とてもしあわせな夢を見た気分なの。王子殿下はいずれこの国を背負って立たれるお方……そんな雲の上の存在の王子殿下と、ほんのひと時でも同じ時を過ごせたんですもの……」
「アンネマリー……」
「だから……もういいの……」
アンネマリーの切ない思いが伝わってきて、リーゼロッテはさらに顔をゆがませた。大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
「そんなに泣いては目が溶けてしまうわよ」
いたずらっぽく笑うと、アンネマリーは濡れるリーゼロッテの頬に軽いキスを落とした。
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