190 / 528
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
4
しおりを挟む
◇
しばらくガラス越しにサロンの外の庭をじっと見つめていたリーゼロッテは、ふと視線を感じて後ろを振り返った。
サロンの入口に公爵家の護衛服を着た細身の若い男が立っている。じっとリーゼロッテを見ていたようで、目が合うと少しばつが悪そうな表情になった。
「あの……?」
何か用事があるのかと、護衛の男の正面に向き直ってリーゼロッテは軽く首をかしげた。
(この人は確か……エーミール様……グレーデン侯爵家の方だったわよね……)
エーミールはリーゼロッテが公爵領へ赴く際に、護衛としてわざわざダーミッシュ領まで迎えにきてくれた男だ。その時にアデライーデに紹介されたのをリーゼロッテは思い出した。
彼の方が家格が上だということに思い当たって、リーゼロッテは淑女の礼を取った。
深窓の妖精姫と噂される令嬢は、サロンから見える庭をバックに、そのふたつ名に恥じない儚さを備えていた。リーゼロッテの優雅な礼に見とれていたエーミールは、はっと我に返り慌てたようにサロンに足を踏み入れた。
「リーゼロッテ様、わたしに対してそのように礼を取る必要はない」
「ですが……」
戸惑うリーゼロッテに男はやさしく微笑みかけた。
「確かにわたしは侯爵家の人間だが、リーゼロッテ様はフーゲンベルク公爵夫人となられるお方だ。それに今は伯爵家にその身を落とされているが、あなたはラウエンシュタイン公爵家の正統な姫君でいらっしゃる」
「まあ、身を落とすなどと……」
リーゼロッテにとってダーミッシュ家は実家も同然だ。養子なのは事実だが、そのように言われては家族を侮辱されたように感じてしまう。
聞きとがめたようなリーゼロッテの声音に、エーミールはふたたびやさしい笑顔を向けた。
「ふっ、あなたは噂に違わぬ妖精のような方だな。可憐で儚げで慈悲深い。ジークヴァルト様が大事にされるのも頷けるというものだ」
やさし気な口調の中に馬鹿にしたような響きを感じ取って、リーゼロッテは無言で瞳を伏せた。
(なんだろう……この人、好きじゃないかも……)
エーミールは今までリーゼロッテの周りにはいなかったタイプの人間だった。見た目はすらりとした爽やかそうなイケメン貴公子だが、いけ好かないという表現がしっくりくる人物だ。
無礼にならない程度に淑女の笑みを保っているが、これ以上会話を続けたいとは思わない。リーゼロッテは静かに微笑んだまま押し黙った。
エーミールはそんなリーゼロッテの体から溢れる緑の力の輝きを見つめ、目を細めた。
(ジークヴァルト様の婚約者が、ダーミッシュ家の令嬢と聞いてどうなることかと思っていたが……)
ダーミッシュ伯爵家は中立派の比較的歴史の浅い貴族だ。しかし中立と言っても、最近では下位の新興貴族との交流が深く、領民相手に教育を施しているという話をよく耳にする。
平民は貴族に黙って従うもので、教育など必要ないと考えているエーミールにとっては、ダーミッシュ伯爵はやっかいな部類の貴族だった。
(だが、聞けばリーゼロッテ様は公爵家の血筋の方……ジークヴァルト様との釣り合いも十分とれる)
初めてリーゼロッテに会った時の衝撃は今も忘れることはできない。
この小さい身に纏わせた緑の力は、今まで目にしたことのない清廉な輝きを放っていた。ジークヴァルトほどの力強さはないものの、彼女こそ自分の主人の伴侶にふさわしいと、エーミールは大いに満足したのだ。
リーゼロッテが瞳を伏せているのをいいことに、エーミールはぶしつけなほど彼女の姿をまじまじと観察した。
(それに、これを機にやり手のダーミッシュ伯爵をこちら側に取り込むにも悪くない)
値踏みをされているような視線を感じ、リーゼロッテは小さく身震いした。
自分を目の前にして、か弱いウサギのように震えているリーゼロッテに、エーミールは満足そうに薄く笑った。
「リーゼロッテ様、こちらにいらしたのですね。お迎えにあがりましたわ」
不意にエマニュエルがサロンにやってきてリーゼロッテに声をかけた。エーミールに無言で礼を取ったあと、「さあ、参りましょう」とリーゼロッテを連れて出ていこうとする。
「これはこれは、ブシュケッター子爵夫人。相変わらずお美しいな」
賞賛の声とは裏腹に、その声音には侮蔑の色がありありと伺えた。
公爵家の使用人だったエマニュエルは、ブシュケッター子爵に見初められその妻となった。貴族社会ではうまくやったものだと陰口をたたく者も多くいる。エーミールもそう考えるひとりだった。
「まあ、若い令嬢たちのあこがれの的であるエーミール様にそのように言っていただけるなんて。お世辞でもうれしいですわ」
意に介した様子もなく、エマニュエルは大人の笑みをエーミールに向けた。泣きぼくろのある瞳を妖艶に細め、誘うような唇が弧を描く。
エーミールは鼻白んで、思わず赤くなってしまった顔をエマニュエルから咄嗟にそむけた。
「それにしても、エーミール様……リーゼロッテ様の護衛はそれと気づかれぬよう、旦那様から言いつかっていたはずですのに……どうしてこのようなことになっているのでしょう」
エーミールの前で怯えるように目を伏せていたリーゼロッテを庇うように立ち、エマニュエルは毅然とした態度でエーミールの顔を見上げた。
ぐっと言葉に詰まった後、エーミールは苦々しい顔をして開き直ったように言った。
「リーゼロッテ様の可憐な姿につい見とれてしまったのだ。おやさしいリーゼロッテ様に甘えて、お声がけをしてしまっただけだ。そうでしょう?リーゼロッテ様」
エマニュエルにではなくリーゼロッテに向けられた声は、ともすれば甘く聞こえる台詞だった。しかしそこに心が伴っているようには到底思えない。
うぶな令嬢ならばコロッと参ってしまうような表情と声音だったが、リーゼロッテは困ったようにエマニュエルに視線を向けた。
「……ともかく、この件は旦那様にご報告させていただきます。さ、リーゼロッテ様」
この話は終わりだとばかりに、エマニュエルがリーゼロッテを促した。頷いたリーゼロッテはエーミールへと向き直り、優雅な所作で淑女の礼をする。
「それでは失礼いたします、グレーデン様」
サロンから出ていくふたりを不遜な笑顔で見送ったエーミールだったが、エマニュエルの小さくなっていく背に向けて忌々しそうに舌打ちをした。
「成り上がりの使用人風情が……」
その横をカークがゆっくりと通り過ぎ、ふたりを追うように出ていった。
「ジークヴァルト様もあのような異形をリーゼロッテ様につけるとは……」
エーミールにとっては、力こそが正義だった。貴族としても、力ある者としても、ジークヴァルトはその頂点に立つべき存在だ。
エーミールは力を持つ者として、王家に仕える道よりもジークヴァルトへの忠誠を選んだ。ジークヴァルトが道を踏み外さないよう、行くべき正しい場所へ導くことこそが、己の役目だと信じて疑わない。
「全てはジークヴァルト様のために……」
サロンの出口を睨みつけるように、エーミールはひとりつぶやいた。
しばらくガラス越しにサロンの外の庭をじっと見つめていたリーゼロッテは、ふと視線を感じて後ろを振り返った。
サロンの入口に公爵家の護衛服を着た細身の若い男が立っている。じっとリーゼロッテを見ていたようで、目が合うと少しばつが悪そうな表情になった。
「あの……?」
何か用事があるのかと、護衛の男の正面に向き直ってリーゼロッテは軽く首をかしげた。
(この人は確か……エーミール様……グレーデン侯爵家の方だったわよね……)
エーミールはリーゼロッテが公爵領へ赴く際に、護衛としてわざわざダーミッシュ領まで迎えにきてくれた男だ。その時にアデライーデに紹介されたのをリーゼロッテは思い出した。
彼の方が家格が上だということに思い当たって、リーゼロッテは淑女の礼を取った。
深窓の妖精姫と噂される令嬢は、サロンから見える庭をバックに、そのふたつ名に恥じない儚さを備えていた。リーゼロッテの優雅な礼に見とれていたエーミールは、はっと我に返り慌てたようにサロンに足を踏み入れた。
「リーゼロッテ様、わたしに対してそのように礼を取る必要はない」
「ですが……」
戸惑うリーゼロッテに男はやさしく微笑みかけた。
「確かにわたしは侯爵家の人間だが、リーゼロッテ様はフーゲンベルク公爵夫人となられるお方だ。それに今は伯爵家にその身を落とされているが、あなたはラウエンシュタイン公爵家の正統な姫君でいらっしゃる」
「まあ、身を落とすなどと……」
リーゼロッテにとってダーミッシュ家は実家も同然だ。養子なのは事実だが、そのように言われては家族を侮辱されたように感じてしまう。
聞きとがめたようなリーゼロッテの声音に、エーミールはふたたびやさしい笑顔を向けた。
「ふっ、あなたは噂に違わぬ妖精のような方だな。可憐で儚げで慈悲深い。ジークヴァルト様が大事にされるのも頷けるというものだ」
やさし気な口調の中に馬鹿にしたような響きを感じ取って、リーゼロッテは無言で瞳を伏せた。
(なんだろう……この人、好きじゃないかも……)
エーミールは今までリーゼロッテの周りにはいなかったタイプの人間だった。見た目はすらりとした爽やかそうなイケメン貴公子だが、いけ好かないという表現がしっくりくる人物だ。
無礼にならない程度に淑女の笑みを保っているが、これ以上会話を続けたいとは思わない。リーゼロッテは静かに微笑んだまま押し黙った。
エーミールはそんなリーゼロッテの体から溢れる緑の力の輝きを見つめ、目を細めた。
(ジークヴァルト様の婚約者が、ダーミッシュ家の令嬢と聞いてどうなることかと思っていたが……)
ダーミッシュ伯爵家は中立派の比較的歴史の浅い貴族だ。しかし中立と言っても、最近では下位の新興貴族との交流が深く、領民相手に教育を施しているという話をよく耳にする。
平民は貴族に黙って従うもので、教育など必要ないと考えているエーミールにとっては、ダーミッシュ伯爵はやっかいな部類の貴族だった。
(だが、聞けばリーゼロッテ様は公爵家の血筋の方……ジークヴァルト様との釣り合いも十分とれる)
初めてリーゼロッテに会った時の衝撃は今も忘れることはできない。
この小さい身に纏わせた緑の力は、今まで目にしたことのない清廉な輝きを放っていた。ジークヴァルトほどの力強さはないものの、彼女こそ自分の主人の伴侶にふさわしいと、エーミールは大いに満足したのだ。
リーゼロッテが瞳を伏せているのをいいことに、エーミールはぶしつけなほど彼女の姿をまじまじと観察した。
(それに、これを機にやり手のダーミッシュ伯爵をこちら側に取り込むにも悪くない)
値踏みをされているような視線を感じ、リーゼロッテは小さく身震いした。
自分を目の前にして、か弱いウサギのように震えているリーゼロッテに、エーミールは満足そうに薄く笑った。
「リーゼロッテ様、こちらにいらしたのですね。お迎えにあがりましたわ」
不意にエマニュエルがサロンにやってきてリーゼロッテに声をかけた。エーミールに無言で礼を取ったあと、「さあ、参りましょう」とリーゼロッテを連れて出ていこうとする。
「これはこれは、ブシュケッター子爵夫人。相変わらずお美しいな」
賞賛の声とは裏腹に、その声音には侮蔑の色がありありと伺えた。
公爵家の使用人だったエマニュエルは、ブシュケッター子爵に見初められその妻となった。貴族社会ではうまくやったものだと陰口をたたく者も多くいる。エーミールもそう考えるひとりだった。
「まあ、若い令嬢たちのあこがれの的であるエーミール様にそのように言っていただけるなんて。お世辞でもうれしいですわ」
意に介した様子もなく、エマニュエルは大人の笑みをエーミールに向けた。泣きぼくろのある瞳を妖艶に細め、誘うような唇が弧を描く。
エーミールは鼻白んで、思わず赤くなってしまった顔をエマニュエルから咄嗟にそむけた。
「それにしても、エーミール様……リーゼロッテ様の護衛はそれと気づかれぬよう、旦那様から言いつかっていたはずですのに……どうしてこのようなことになっているのでしょう」
エーミールの前で怯えるように目を伏せていたリーゼロッテを庇うように立ち、エマニュエルは毅然とした態度でエーミールの顔を見上げた。
ぐっと言葉に詰まった後、エーミールは苦々しい顔をして開き直ったように言った。
「リーゼロッテ様の可憐な姿につい見とれてしまったのだ。おやさしいリーゼロッテ様に甘えて、お声がけをしてしまっただけだ。そうでしょう?リーゼロッテ様」
エマニュエルにではなくリーゼロッテに向けられた声は、ともすれば甘く聞こえる台詞だった。しかしそこに心が伴っているようには到底思えない。
うぶな令嬢ならばコロッと参ってしまうような表情と声音だったが、リーゼロッテは困ったようにエマニュエルに視線を向けた。
「……ともかく、この件は旦那様にご報告させていただきます。さ、リーゼロッテ様」
この話は終わりだとばかりに、エマニュエルがリーゼロッテを促した。頷いたリーゼロッテはエーミールへと向き直り、優雅な所作で淑女の礼をする。
「それでは失礼いたします、グレーデン様」
サロンから出ていくふたりを不遜な笑顔で見送ったエーミールだったが、エマニュエルの小さくなっていく背に向けて忌々しそうに舌打ちをした。
「成り上がりの使用人風情が……」
その横をカークがゆっくりと通り過ぎ、ふたりを追うように出ていった。
「ジークヴァルト様もあのような異形をリーゼロッテ様につけるとは……」
エーミールにとっては、力こそが正義だった。貴族としても、力ある者としても、ジークヴァルトはその頂点に立つべき存在だ。
エーミールは力を持つ者として、王家に仕える道よりもジークヴァルトへの忠誠を選んだ。ジークヴァルトが道を踏み外さないよう、行くべき正しい場所へ導くことこそが、己の役目だと信じて疑わない。
「全てはジークヴァルト様のために……」
サロンの出口を睨みつけるように、エーミールはひとりつぶやいた。
0
※小説家になろうグループムーンライトノベルズにて【R18】ふたつ名の令嬢と龍の託宣 不定期投稿中☆
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる