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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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     ◇
「リーゼロッテ様はご自分のお力を、どのように感じておいでですか?」

 公爵家執務室のソファに隣り合わせで腰かけて、エマニュエルはリーゼロッテに問いかけた。その様子をジークヴァルトとマテアスは領地の仕事の傍らで聞いている。

「そうですわね。……なんだか緑色のふわっとしたかたまりがこの胸のあたりにあって、それが自然とふわりと広がって、体が全体的にふんわり包まれているような感覚で……あと、身の内から、こう……ふわふわっと溢れてくるような、そんな感じがしますわ」

 我ながらふわふわとしか言ってないやんけと思うのだが、リーゼロッテにはそれ以外に言いようがなかった。

「掴みどころがない、と言ったところでしょうか?」

 確かめるようにエマニュエルに聞かれて、自分の語彙ごいのなさに少々羞恥を覚えながらも「ええ、まさにそんな感じですわ」とリーゼロッテは頷き返した。

「では、リーゼロッテ様は、まずは力の流れを感じ取る訓練から始めるのがよさそうですね」
「力の流れを感じる訓練?」
「ええ。ですがその前に、リーゼロッテ様にはもう少し力の特性を知っていただきます」

 言いながらエマニュエルは手のひらを上に向け、その上に自分の力を集めて見せた。

「ここに集めた力がお分かりになりますか?」
「ええ……エマ様の力も青いのですね……」
「力は瞳の色に宿ると言われています。わたしは小鬼を祓う程度にしか力を持っておりませんので、旦那様ほど濃い色ではありませんが……。ここに集めた力が渦を巻いているのはお分かりになりますか?」

 そう言われてリーゼロッテはエマニュエルの手のひらをじっとみつめた。青いその力は、よく見るとくるくると回っているのが見える。小さな竜巻がそこにとどまっているようだ。

「闇雲に力を集めようとしてもうまくいきません。このように力の流れを収束させて、一点に集中させることによって効率よく力を集められるのです」

 ここまでご理解いただけましたか?、そうエマニュエルに問いかけられ、リーゼロッテはゆっくりと深く頷いた。

「力を集める先は、やはり手の内がいちばん簡単だと思います。ですが、やり方は人により様々です。わたしはこのように手のひらに集めるのが得意なのですが、マテアスなどは指先に集める方がやりやすいようですね」

 話を向けられたマテアスは、執務机に座ったまま立てた人差し指をくるくると回した。その指先に、エマニュエルと同じほのかに青い光が収束していく。

「まあ! マテアスもエマ様と同じ色なのね」

 糸目のマテアスの瞳の色など考えたこともなかったリーゼロッテは、思わずそう口にした。

「エマニュエル様とわたしは姉弟ですから。父のエッカルトも似た色ですよ」

 マテアスにそう言われ、リーゼロッテは驚いたようにマテアスとエマニュエルと交互に見やった。

「わたしは母似でマテアスは父に似ましたからね」
「え? ということはエマ様のお母様はロミルダなの?」
「ええ、そうですよ。わたしはもともとは使用人の娘としてここ公爵家で育ちましたし、子供の頃からアデライーデ様付きの侍女として仕えておりました。たまたま子爵家の後妻に入りまして貴族の地位を得ましたけど」

 エマニュエルは泣きぼくろのある目を細めて笑って見せた。色香ただようエマニュエルにリーゼロッテは思わずドキっとしてしまう。きっとこの色気に子爵もやられてしまったのだろう。

「ともかく、力の扱いは人それぞれですので、初めはいろいろ試すのがいいですね。旦那様のように力が大きく強い場合は、握りこんで放つやり方が向いていますが、あの方法は上級者向けです。リーゼロッテ様はまず力の流れを感じることから始めましょう」

 ジークヴァルトより何倍も分かりやすい。エマニュエルの説明にリーゼロッテは瞳を輝かせた。

(そうか……何もヴァルト様のやり方に固執しなくてもいいのね。もしかしてこれは、かめ〇め波的なものや、ド〇ン波的なものができてしまうのかも?それとも日本人的には螺〇丸?いえ、あれは影分身しないとできないのだっけ?だとすると、むしろレ〇ガンかしら……?)

 これぞ異世界転生の醍醐味なのではと、リーゼロッテはわくわくしてきた。厨二病が荒ぶるというものである。
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