158 / 506
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
8
しおりを挟む
そして、一同はいつもの定位置についた。
執務机で眉間にしわを寄せるジークヴァルト。その隣の机で補佐をするマテアス。応接用の二人掛けのソファにリーゼロッテ。その横に浮いているジークハルト。そして、エマニュエルがみなのために紅茶を淹れている。
そんないつもの風景が戻ってきて、リーゼロッテはほっと胸をなでおろしていた。ここのところ、あちこちで波風が立って、少々気疲れが重なっていた。
(ヴァルト様とハルト様との仲は相変わらずだけど……)
二人の問題に口出しすることもできず、リーゼロッテはただ成り行きを見守るしかなかった。
リーゼロッテがジークハルトと会話をしていても、ジークヴァルトは特に興味なさそうにしている。何も言われないということは、自分はこのままでもいいのだろう。そう思って、リーゼロッテ自身は今まで通りジークハルトに接していた。
ジークハルトの方もジークヴァルトをそっちのけで、リーゼロッテの訓練をおもしろそうに観察している。
「……どうしてうまくできないのかしら」
ふわふわ掴みどころのない自分の力に、リーゼロッテはため息をついた。
(やっぱりわたしの守護者とうまく同調できてないせいなのかも)
リーゼロッテはとなりのジークハルトをちらりとみやった。あぐらポーズで浮いている守護者は、ん?という顔を返してくる。
「ハルト様のように、わたくしの守護者が視えて会話もできたらいいのに……」
『ははっ。リーゼロッテの守護者はいつもそこにいるけど、リーゼロッテには視えなさそうだよね』
リーゼロッテの背後辺りに視線をやりながら、ジークハルトは楽しそうに笑った。リーゼロッテは思わず自分の後ろを振り返ったが、そこにはやはり誰もいない。
「わたくしの守護者が、ハルト様には視えるのですね」
『うん。だってずっとそこにいるし』
「まあ! そうなのですね! わたくしの守護者はどんな方なのですか?」
リーゼロッテはワクワクしながら前のめりに聞いた。
『うん、なんていうか、おもしろ系?』
「おもしろ系……? もしかして男の方なのですか?」
『ううん、女性だよ。黒髪の細目で顔の薄い聖女様だね』
「聖女様? ……まったく想像がつきませんわ」
黒髪はともかく、顔の薄いおもしろ系の聖女様っていったい何なのだ。
『そう?』
ジークハルトはそう言うと、その場からふっと掻き消えた。
すると執務机で書類に書き物をしていたジークヴァルトの手が不自然に動き、そのペンを持った手が書類の余白にするすると女性の絵を描きだした。
「おい」
ジークヴァルトが眉間にしわを寄せるが、絵を描く手は止まらなかった。その書類は、領地を運営するために王の許可を得なければならない大事な書類であった。
(じ、自動書記?)
一筆書きのように黒髪の女性が描きあがると、ジークヴァルトの輪郭がぶれて、ふわっとジークハルトが浮き上がった。
『だいたいこんな感じ。地味めだけど、まあ清楚系美人かな?』
絵を指さすと、ジークハルトは満足そうにうなずいた。
「おい」とジークヴァルトがもう一度言ったが、ジークハルトは完全にスルーする。
「まあ、こんな感じの方なのですね。ハルト様、絵がお上手ですわ」
リーゼロッテが立ち上がり執務机の上をのぞきこむと、その紙に描かれていたのは、浮世絵のような黒髪の女性だった。薄く笑みを浮かべている様がどこか儚げに見える。
(見返り美人みたいね。よー〇やのあぶらとりがみにも似てるかも)
リーゼロッテは懐かしさに脳内でくすりと笑った。
『ああ、やっぱりおもしろ系だ』
「なんですの? そのおもしろ系って」
リーゼロッテは首を傾げた。
執務机で眉間にしわを寄せるジークヴァルト。その隣の机で補佐をするマテアス。応接用の二人掛けのソファにリーゼロッテ。その横に浮いているジークハルト。そして、エマニュエルがみなのために紅茶を淹れている。
そんないつもの風景が戻ってきて、リーゼロッテはほっと胸をなでおろしていた。ここのところ、あちこちで波風が立って、少々気疲れが重なっていた。
(ヴァルト様とハルト様との仲は相変わらずだけど……)
二人の問題に口出しすることもできず、リーゼロッテはただ成り行きを見守るしかなかった。
リーゼロッテがジークハルトと会話をしていても、ジークヴァルトは特に興味なさそうにしている。何も言われないということは、自分はこのままでもいいのだろう。そう思って、リーゼロッテ自身は今まで通りジークハルトに接していた。
ジークハルトの方もジークヴァルトをそっちのけで、リーゼロッテの訓練をおもしろそうに観察している。
「……どうしてうまくできないのかしら」
ふわふわ掴みどころのない自分の力に、リーゼロッテはため息をついた。
(やっぱりわたしの守護者とうまく同調できてないせいなのかも)
リーゼロッテはとなりのジークハルトをちらりとみやった。あぐらポーズで浮いている守護者は、ん?という顔を返してくる。
「ハルト様のように、わたくしの守護者が視えて会話もできたらいいのに……」
『ははっ。リーゼロッテの守護者はいつもそこにいるけど、リーゼロッテには視えなさそうだよね』
リーゼロッテの背後辺りに視線をやりながら、ジークハルトは楽しそうに笑った。リーゼロッテは思わず自分の後ろを振り返ったが、そこにはやはり誰もいない。
「わたくしの守護者が、ハルト様には視えるのですね」
『うん。だってずっとそこにいるし』
「まあ! そうなのですね! わたくしの守護者はどんな方なのですか?」
リーゼロッテはワクワクしながら前のめりに聞いた。
『うん、なんていうか、おもしろ系?』
「おもしろ系……? もしかして男の方なのですか?」
『ううん、女性だよ。黒髪の細目で顔の薄い聖女様だね』
「聖女様? ……まったく想像がつきませんわ」
黒髪はともかく、顔の薄いおもしろ系の聖女様っていったい何なのだ。
『そう?』
ジークハルトはそう言うと、その場からふっと掻き消えた。
すると執務机で書類に書き物をしていたジークヴァルトの手が不自然に動き、そのペンを持った手が書類の余白にするすると女性の絵を描きだした。
「おい」
ジークヴァルトが眉間にしわを寄せるが、絵を描く手は止まらなかった。その書類は、領地を運営するために王の許可を得なければならない大事な書類であった。
(じ、自動書記?)
一筆書きのように黒髪の女性が描きあがると、ジークヴァルトの輪郭がぶれて、ふわっとジークハルトが浮き上がった。
『だいたいこんな感じ。地味めだけど、まあ清楚系美人かな?』
絵を指さすと、ジークハルトは満足そうにうなずいた。
「おい」とジークヴァルトがもう一度言ったが、ジークハルトは完全にスルーする。
「まあ、こんな感じの方なのですね。ハルト様、絵がお上手ですわ」
リーゼロッテが立ち上がり執務机の上をのぞきこむと、その紙に描かれていたのは、浮世絵のような黒髪の女性だった。薄く笑みを浮かべている様がどこか儚げに見える。
(見返り美人みたいね。よー〇やのあぶらとりがみにも似てるかも)
リーゼロッテは懐かしさに脳内でくすりと笑った。
『ああ、やっぱりおもしろ系だ』
「なんですの? そのおもしろ系って」
リーゼロッテは首を傾げた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
247
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる