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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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「カークが残留思念なら、あそこからまた動かすのはむずかしいかしら……」
ドアに張り付く異形を思ってリーゼロッテが独り言のようにつぶやくと、ジークハルトがおもしろいことを思いついた子供のような顔をした。
『アレはヴァルトが怖くてあそこから動けないんだよ』
「残留思念なのにですか?」
『強い思いだからこそ、消される恐怖が強いんじゃないかな?』
「じゃあ、ヴァルト様から言ってもらえれば、またカークを動かせるかしら? やっぱりもう少し自由に動けるようにしてあげたいですわ」
しかし、この前おねだり作戦を決行したばかりである。それに先日の執務室の騒ぎの後処理で、忙しくしているジークヴァルトの手を煩わせるのもためらわれた。
『だったら今すぐヴァルトにやってもらいなよ』
「え? いいえ、今ヴァルト様はお忙しくて」
『いいからいいから。面倒だからヴァルトをここに呼ぼう。さあ、リーゼロッテ目を閉じて』
「え? 目?」
『ほら、いいから早く』
ジークハルトにせかされて、リーゼロッテはソファに腰かけたまま素直にその緑の瞳を閉じた。
「これでよろしいですか?」
『うん、そのまま動かないでね』
ジークハルトは目を閉じたままのリーゼロッテを覗き込みながら、ゆっくりと自分の顔を近づけていった。
リーゼロッテがじっとしているのをいいことに、ジークハルトがその唇をよせていく。リーゼロッテの唇にそれが届きそうになったその瞬間、二の腕を掴まれたリーゼロッテは思い切り横に引っ張られた。
「ひゃっ」
突然のことにリーゼロッテは思わず叫び声をあげた。倒れこんだ体は何か硬くて温かなものにがっちりと包みこまれている。
「おい」
頭の上から声がする。低い低い声だった。
「ヴァルト様?」
見上げると、ジークヴァルトが目の前の守護者を睨みつけている。
「え? どうして」
先ほどまで自分とジークハルト以外この部屋には誰もいなかったはずだ。
ソファの上、ジークヴァルトの腕にきつく抱かれた状態で、リーゼロッテの頭上にクエスチョンマークが乱舞した。
ドアに張り付く異形を思ってリーゼロッテが独り言のようにつぶやくと、ジークハルトがおもしろいことを思いついた子供のような顔をした。
『アレはヴァルトが怖くてあそこから動けないんだよ』
「残留思念なのにですか?」
『強い思いだからこそ、消される恐怖が強いんじゃないかな?』
「じゃあ、ヴァルト様から言ってもらえれば、またカークを動かせるかしら? やっぱりもう少し自由に動けるようにしてあげたいですわ」
しかし、この前おねだり作戦を決行したばかりである。それに先日の執務室の騒ぎの後処理で、忙しくしているジークヴァルトの手を煩わせるのもためらわれた。
『だったら今すぐヴァルトにやってもらいなよ』
「え? いいえ、今ヴァルト様はお忙しくて」
『いいからいいから。面倒だからヴァルトをここに呼ぼう。さあ、リーゼロッテ目を閉じて』
「え? 目?」
『ほら、いいから早く』
ジークハルトにせかされて、リーゼロッテはソファに腰かけたまま素直にその緑の瞳を閉じた。
「これでよろしいですか?」
『うん、そのまま動かないでね』
ジークハルトは目を閉じたままのリーゼロッテを覗き込みながら、ゆっくりと自分の顔を近づけていった。
リーゼロッテがじっとしているのをいいことに、ジークハルトがその唇をよせていく。リーゼロッテの唇にそれが届きそうになったその瞬間、二の腕を掴まれたリーゼロッテは思い切り横に引っ張られた。
「ひゃっ」
突然のことにリーゼロッテは思わず叫び声をあげた。倒れこんだ体は何か硬くて温かなものにがっちりと包みこまれている。
「おい」
頭の上から声がする。低い低い声だった。
「ヴァルト様?」
見上げると、ジークヴァルトが目の前の守護者を睨みつけている。
「え? どうして」
先ほどまで自分とジークハルト以外この部屋には誰もいなかったはずだ。
ソファの上、ジークヴァルトの腕にきつく抱かれた状態で、リーゼロッテの頭上にクエスチョンマークが乱舞した。
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