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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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「ハルト様はジークフリート様とヴァルト様、おふたりの守護者なのですか?」
『今はヴァルトだけだよ。オレはフーゲンベルク家の託宣者につく守護者だからね。ジークヴァルトの前は、ジークフリート。その前はジークベルト、あ、ヴァルトのじい様ね。リーゼロッテが託宣の子供を産めば、ヴァルトからそっちに移るんだ』
どうやら守護者は世襲制で相続されていくらしい。ふと浮かんだ疑問を、リーゼロッテは何気なく口にした。
「ハルト様はいつから守護者をなさっているのですか?」
『うーん、この国ができてからだから、もう八百年以上前からかなぁ』
「八百年っ!?」
ブラオエルシュタインは、今年で龍歴八百二十八年だ。その間、ジークハルトは守護者としてあり続けたのだろうか。
『ヴァルトが四十七代目の当主だから、リーゼロッテの子供で四十八人目だね。あ、子供の名前はジークなんちゃらはやめない? 何度も同じ名前が使いまわされるから、正直もう飽きてきちゃって。ちなみにジークフリートは九人目で、ジークヴァルトは五人目だよ』
リーゼロッテは一度開きかけた口をつぐんだ。どこをつっこめばいいのかわらなくなったのだ。
『ちなみにリーゼロッテの所、ラウエンシュタインの守護者は毎回変わるみたい』
「え? そうなのですか?」
『うん。まあ、フーゲンベルク家とラウエンシュタイン家が交わることなんて今まで一度もなかったから、オレも詳しくは知らないんだけどね』
ジークハルトは宙に浮いたまま肩をすくめた。
「リーゼロッテ様、わたしは少し所用で出ますが、このままお部屋にいらっしゃいますか?」
エマニュエルはリーゼロッテのエア会話の合間を見て、ゆっくりと立ち上がった。
「ええ。今日はもうおとなしく部屋にいますわ」
「もし何かありましたら、呼び鈴で侍女をお呼びくださいね」
そう言い残すと、エマニュエルは邪魔そうにカークを見やってから、その脇をすり抜けて部屋を出ていった。それを黙って見送っていたジークハルトが、不意にくすりと笑った。
『ホント、楽しいことになってるよね』
「カークの事ですか?」
『うん、アレもそうだけど。庭で泣いてる方もおもしろいことになってるね』
「おもしろいも何も、ジョンは変わらず泣いているだけですわ」
そう言いながらもリーゼロッテは小首をかしげた。
周りのみなは、カークとジョンを同列に扱うが、そこに違和感を覚える。どちらも異形なのだから、それはまあそうなのかもしれないのだが。
「ハルト様。カークとジョンはどちらも異形の者ですけれど、何かか違うと思われませんか?」
『違うって、どこら辺が違うと思うの?』
ジークハルトはかつて王城でしたように、リーゼロッテの顔を覗き込んだ。リーゼロッテは考え込むように首をひねった。
「言葉にしづらいのですが……」
カークから感じるのは純粋な感情だ。強い思いと言い換えられるかもしれない。
対してジョンは、複雑な人生における葛藤が垣間見える。過去の出来事に裏打ちされた憂いのようなものを、リーゼロッテはジョンから感じ取っていた。
強い思いを抱く異形の者という共通点はあるものの、両者は全くの別物のような気がしてならないのだ。
『まあ、カークはただの残留思念だしね』
「残留思念?」
『カークはね、騙されて恥をかいた男の残留思念だよ。あんなにあの場に焼き付いたんだから、よっぽど悔しかったんだろうね』
よくあんなの動かせたね、とジークハルトは笑った。
(焼き付くだなんて、まるで写真のようね)
同じ思いがぐるぐる回るカークは、無限ループの短いGIF動画のようなものだろうか。
対してジョンは幾重にも複雑な感情が巡っていく。まるで長い映画のように。
「カークが残された誰かの強い思念と言うのなら、ジョンは亡くなった方そのものなのですか?」
リーゼロッテは日本で言うところのいわゆる幽霊を思い浮かべた。
『まあ、そんなところかな? ジョンは選ばれし者だしね』
「選ばれし者? ジョンは何に選ばれたのですか?」
『さあ、何にだろうね?』
ジークハルトはいつも謎かけのように話をはぐらかす。思わせぶりなことが多いので、ちょっとモヤモヤしてしまう。
しかし、こうなるとジークハルトは何も教えてくれないので、リーゼロッテはあきらめて別の話題をふることにした。
「それにしても、ハルト様はヴァルト様のお側にいなくてもよろしいのですか?」
王城ではジークハルトは、大概ジークヴァルトの傍らで浮いていた。しかし、公爵領に来て半月ほど経つが、ジークハルトの姿を見たのは今日が初めてのことだった。
『別に側にいなくたって、ヴァルトが生きてるか死んでるかくらいはすぐわかるし。それにここは結びつきの多い土地だからね。どこにいたって同じことだよ』
ジークハルトの言いように、リーゼロッテは目を丸くした。
(守護者って守護霊とはまったく別ものみたいね)
自分の思う守護者は、常に背中に貼りついている背後霊的なイメージが強かった。ジークハルトの感覚とは少々違うのかもしれない。
(異世界だし、無理もないか)
リーゼロッテはふわっと理解することにした。
『今はヴァルトだけだよ。オレはフーゲンベルク家の託宣者につく守護者だからね。ジークヴァルトの前は、ジークフリート。その前はジークベルト、あ、ヴァルトのじい様ね。リーゼロッテが託宣の子供を産めば、ヴァルトからそっちに移るんだ』
どうやら守護者は世襲制で相続されていくらしい。ふと浮かんだ疑問を、リーゼロッテは何気なく口にした。
「ハルト様はいつから守護者をなさっているのですか?」
『うーん、この国ができてからだから、もう八百年以上前からかなぁ』
「八百年っ!?」
ブラオエルシュタインは、今年で龍歴八百二十八年だ。その間、ジークハルトは守護者としてあり続けたのだろうか。
『ヴァルトが四十七代目の当主だから、リーゼロッテの子供で四十八人目だね。あ、子供の名前はジークなんちゃらはやめない? 何度も同じ名前が使いまわされるから、正直もう飽きてきちゃって。ちなみにジークフリートは九人目で、ジークヴァルトは五人目だよ』
リーゼロッテは一度開きかけた口をつぐんだ。どこをつっこめばいいのかわらなくなったのだ。
『ちなみにリーゼロッテの所、ラウエンシュタインの守護者は毎回変わるみたい』
「え? そうなのですか?」
『うん。まあ、フーゲンベルク家とラウエンシュタイン家が交わることなんて今まで一度もなかったから、オレも詳しくは知らないんだけどね』
ジークハルトは宙に浮いたまま肩をすくめた。
「リーゼロッテ様、わたしは少し所用で出ますが、このままお部屋にいらっしゃいますか?」
エマニュエルはリーゼロッテのエア会話の合間を見て、ゆっくりと立ち上がった。
「ええ。今日はもうおとなしく部屋にいますわ」
「もし何かありましたら、呼び鈴で侍女をお呼びくださいね」
そう言い残すと、エマニュエルは邪魔そうにカークを見やってから、その脇をすり抜けて部屋を出ていった。それを黙って見送っていたジークハルトが、不意にくすりと笑った。
『ホント、楽しいことになってるよね』
「カークの事ですか?」
『うん、アレもそうだけど。庭で泣いてる方もおもしろいことになってるね』
「おもしろいも何も、ジョンは変わらず泣いているだけですわ」
そう言いながらもリーゼロッテは小首をかしげた。
周りのみなは、カークとジョンを同列に扱うが、そこに違和感を覚える。どちらも異形なのだから、それはまあそうなのかもしれないのだが。
「ハルト様。カークとジョンはどちらも異形の者ですけれど、何かか違うと思われませんか?」
『違うって、どこら辺が違うと思うの?』
ジークハルトはかつて王城でしたように、リーゼロッテの顔を覗き込んだ。リーゼロッテは考え込むように首をひねった。
「言葉にしづらいのですが……」
カークから感じるのは純粋な感情だ。強い思いと言い換えられるかもしれない。
対してジョンは、複雑な人生における葛藤が垣間見える。過去の出来事に裏打ちされた憂いのようなものを、リーゼロッテはジョンから感じ取っていた。
強い思いを抱く異形の者という共通点はあるものの、両者は全くの別物のような気がしてならないのだ。
『まあ、カークはただの残留思念だしね』
「残留思念?」
『カークはね、騙されて恥をかいた男の残留思念だよ。あんなにあの場に焼き付いたんだから、よっぽど悔しかったんだろうね』
よくあんなの動かせたね、とジークハルトは笑った。
(焼き付くだなんて、まるで写真のようね)
同じ思いがぐるぐる回るカークは、無限ループの短いGIF動画のようなものだろうか。
対してジョンは幾重にも複雑な感情が巡っていく。まるで長い映画のように。
「カークが残された誰かの強い思念と言うのなら、ジョンは亡くなった方そのものなのですか?」
リーゼロッテは日本で言うところのいわゆる幽霊を思い浮かべた。
『まあ、そんなところかな? ジョンは選ばれし者だしね』
「選ばれし者? ジョンは何に選ばれたのですか?」
『さあ、何にだろうね?』
ジークハルトはいつも謎かけのように話をはぐらかす。思わせぶりなことが多いので、ちょっとモヤモヤしてしまう。
しかし、こうなるとジークハルトは何も教えてくれないので、リーゼロッテはあきらめて別の話題をふることにした。
「それにしても、ハルト様はヴァルト様のお側にいなくてもよろしいのですか?」
王城ではジークハルトは、大概ジークヴァルトの傍らで浮いていた。しかし、公爵領に来て半月ほど経つが、ジークハルトの姿を見たのは今日が初めてのことだった。
『別に側にいなくたって、ヴァルトが生きてるか死んでるかくらいはすぐわかるし。それにここは結びつきの多い土地だからね。どこにいたって同じことだよ』
ジークハルトの言いように、リーゼロッテは目を丸くした。
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※小説家になろうグループムーンライトノベルズにて【R18】ふたつ名の令嬢と龍の託宣 不定期投稿中☆
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
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