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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
第23話 泣き虫な異形
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「ねえねえ、リーゼロッテ様のお姿ってもう見た?」
「見た見た! もうウワサ通り妖精って感じ? 同じ人間とは思えない!」
「でしょでしょ! わたしも人形なんじゃないかって思わず二度見しちゃったし!」
「え?ずるい! わたしまだ見てない!」
「幻の令嬢っていうからさ、ここだけの話、ウワサの通り病弱か、よっぽど見目が悪いかのどちらかだと思ってたんだけど。本物のリーゼロッテ様は、深窓の妖精姫の名にふさわしい可憐な方だったわぁ」
「でもでも、リーゼロッテ様ってちょっと近寄りがたくない? なんていうかこう、神秘的っていうか」
「わかるかわる! 旦那様とはまた違ったお力を纏ってて、なんだか恐れ多い感じだよね」
「あ~それ、わかる~! 妖精って言うより、精霊的な?」
「そう、それ! 精霊的な!」
「え~うそずるい! わたしも見た~い!!」
「それなら泣き虫ジョンの所に行けば会えるかもよ」
「泣き虫ジョン? あの裏庭でいっつもジメジメしてるジョン?」
「そうそう、そのジョン。最近リーゼロッテ様がジョンのいる場所で頻繁に目撃されてるらしくて」
「あ、その話わたしも知ってる! 不動のカークに続いてジョンまでリーゼロッテ様に心を開いてるって話だよ」
「カークの話もびっくりだよね」
「ええ? 何それ? そういえば最近カークを見かけないと思ってたけど、何かあったの?」
「あんた、そんなことも知らないの? リーゼロッテ様がカークを動かしたらしいよ」
「カークって何百年もあそこに立ってたんでしょ? あたしなんてカークを初めて見たとき殺られると思ってマジびびっちゃったし。まあ、無言で動かないし、害はないってわかったら平気になったけどさ。そんなカークをリーゼロッテ様が瞬殺で懐柔したって聞いたときも、あたしマジびびったわ」
「えええ! 押しても引いても微動だにしなかった仁王立ちのカークが!?」
ここはフーゲンベルク公爵家の洗濯場だ。下働きの少女が三人、洗濯物をせっせと干しつつ、おしゃべりに花を咲かせていた。
リーゼロッテはダーミッシュ領で無事に十五歳の誕生日を迎え、領地のみなに盛大に祝われた。その数日後、屋敷中の者に泣きながら見送られ、ジークヴァルトの待つフーゲンベルク領に赴いたのがだいたい半月前のことだ。
アデライーデはリーゼロッテをジークヴァルトのもとに送り届けると、新たな任務を受けてあっという間に去って行ってしまった。久々の実家でゆっくりする暇もなかったようだ。
エラとふたりだけの来訪だったが、思った以上にふたりは快く受け入れられた。
公爵家サイドにしてみれば、リーゼロッテは格下の伯爵令嬢。使用人たちに受け入れてもらえるか、リーゼロッテは心配していた。
しかし、エラがうまく立ち回ってくれているせいか、リーゼロッテは思った以上に歓待され、わりと自由に過ごさせてもらっている。屋敷内で使用人によるリーゼロッテの目撃情報が多発しているのもそのせいだ。
「あー、でも、何より一番驚いたのは、旦那様のあのデレっぷりよねー」
「そうそうそう! あの鉄面皮の旦那様の口の端が! こう、上にくいって」
「ねー! 旦那様の笑うところを見るなんて、あたし一生あり得ないって思ってた!」
「隙あらばリーゼロッテ様に触れようとしたりして。あたし俄然、旦那様を応援しちゃう!」
「あんなふうに旦那様を笑顔にできるなんて。リーゼロッテ様、絶対に逃しちゃダメだよね」
「ええ! ずるい!! わたしも旦那様の笑うとこ見てみたいぃ!!!」
洗濯日和の夏の空に、かしましいおしゃべりが響き渡る。仕える主人に言いたい放題の三人を、横目で見ながら通り過ぎる者はいたものの、咎める者は誰もいなかった。
フーゲンベルク公爵家は、その高い地位にそぐわないほど、代々気さくな家風なのであった。
「見た見た! もうウワサ通り妖精って感じ? 同じ人間とは思えない!」
「でしょでしょ! わたしも人形なんじゃないかって思わず二度見しちゃったし!」
「え?ずるい! わたしまだ見てない!」
「幻の令嬢っていうからさ、ここだけの話、ウワサの通り病弱か、よっぽど見目が悪いかのどちらかだと思ってたんだけど。本物のリーゼロッテ様は、深窓の妖精姫の名にふさわしい可憐な方だったわぁ」
「でもでも、リーゼロッテ様ってちょっと近寄りがたくない? なんていうかこう、神秘的っていうか」
「わかるかわる! 旦那様とはまた違ったお力を纏ってて、なんだか恐れ多い感じだよね」
「あ~それ、わかる~! 妖精って言うより、精霊的な?」
「そう、それ! 精霊的な!」
「え~うそずるい! わたしも見た~い!!」
「それなら泣き虫ジョンの所に行けば会えるかもよ」
「泣き虫ジョン? あの裏庭でいっつもジメジメしてるジョン?」
「そうそう、そのジョン。最近リーゼロッテ様がジョンのいる場所で頻繁に目撃されてるらしくて」
「あ、その話わたしも知ってる! 不動のカークに続いてジョンまでリーゼロッテ様に心を開いてるって話だよ」
「カークの話もびっくりだよね」
「ええ? 何それ? そういえば最近カークを見かけないと思ってたけど、何かあったの?」
「あんた、そんなことも知らないの? リーゼロッテ様がカークを動かしたらしいよ」
「カークって何百年もあそこに立ってたんでしょ? あたしなんてカークを初めて見たとき殺られると思ってマジびびっちゃったし。まあ、無言で動かないし、害はないってわかったら平気になったけどさ。そんなカークをリーゼロッテ様が瞬殺で懐柔したって聞いたときも、あたしマジびびったわ」
「えええ! 押しても引いても微動だにしなかった仁王立ちのカークが!?」
ここはフーゲンベルク公爵家の洗濯場だ。下働きの少女が三人、洗濯物をせっせと干しつつ、おしゃべりに花を咲かせていた。
リーゼロッテはダーミッシュ領で無事に十五歳の誕生日を迎え、領地のみなに盛大に祝われた。その数日後、屋敷中の者に泣きながら見送られ、ジークヴァルトの待つフーゲンベルク領に赴いたのがだいたい半月前のことだ。
アデライーデはリーゼロッテをジークヴァルトのもとに送り届けると、新たな任務を受けてあっという間に去って行ってしまった。久々の実家でゆっくりする暇もなかったようだ。
エラとふたりだけの来訪だったが、思った以上にふたりは快く受け入れられた。
公爵家サイドにしてみれば、リーゼロッテは格下の伯爵令嬢。使用人たちに受け入れてもらえるか、リーゼロッテは心配していた。
しかし、エラがうまく立ち回ってくれているせいか、リーゼロッテは思った以上に歓待され、わりと自由に過ごさせてもらっている。屋敷内で使用人によるリーゼロッテの目撃情報が多発しているのもそのせいだ。
「あー、でも、何より一番驚いたのは、旦那様のあのデレっぷりよねー」
「そうそうそう! あの鉄面皮の旦那様の口の端が! こう、上にくいって」
「ねー! 旦那様の笑うところを見るなんて、あたし一生あり得ないって思ってた!」
「隙あらばリーゼロッテ様に触れようとしたりして。あたし俄然、旦那様を応援しちゃう!」
「あんなふうに旦那様を笑顔にできるなんて。リーゼロッテ様、絶対に逃しちゃダメだよね」
「ええ! ずるい!! わたしも旦那様の笑うとこ見てみたいぃ!!!」
洗濯日和の夏の空に、かしましいおしゃべりが響き渡る。仕える主人に言いたい放題の三人を、横目で見ながら通り過ぎる者はいたものの、咎める者は誰もいなかった。
フーゲンベルク公爵家は、その高い地位にそぐわないほど、代々気さくな家風なのであった。
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