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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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「ルカ!」
リーゼロッテがルカに駆け寄り飛びつくように抱きついた。
「ルカ、怪我はない? 痛いところはない?」
ルカの頭から腕、体と、上から下まで確かめるようにペタペタと触っていく。
「大げさです、義姉上」
ルカはリーゼロッテを引き離すように距離を開けた。
「離れてください。せっかくのドレスが汚れてしまいます」
ジークヴァルト様に頂いたお気に入りでしょう?と付け加えると、ルカは笑顔でジークヴァルトを見あげた。
「ジークヴァルト様、また今度、手合わせをしていただけますか?」
「ああ」
ジークヴァルトの返事にルカは「ありがとうございます!」と弾む声で返した。
(わたしのルカが……!)
自分そっちのけでジークヴァルトに天使の笑顔を向けるルカを見て、リーゼロッテは危機感を募らせた。
「ジークヴァルト様。お疲れのところ、息子に付き合わせて申し訳ありません」
「いや、問題ない。ダーミッシュ伯爵はいい子息をお持ちだ」
「そうね。ルカはなかなか剣術の素質があるわね。騎士団に欲しいくらいだわ」
「本当ですか? アデライーデ様」
アデライーデの言葉に、ルカがぱあぁっと顔を明るくした。
「アデライーデ様、ルカが本気にするのであまり褒めないでやってください。ルカ、お前は伯爵家を継ぐ身だ、わきまえなさい」
苦笑いのフーゴに、ルカは不服そうに反論した。
「お言葉ですが、父上。ジークヴァルト様だって、領地の経営と騎士のお仕事を両立されています。わたしも騎士団に入団したいです」
「ふふ、ルカは騎士様のお仕事にあこがれているものね」
クリスタがやわらかく微笑むと、フーゴは困ったように眉を下げた。
「クリスタ、お前までそんな甘やかすことを……」
「あら、いいではないですか。ルカは言い出したら聞きませんもの。無理に抑えつける方がよくありませんわ」
妻を溺愛しているフーゴは、クリスタには頭が上がらない。母親の援護にルカはその顔に喜びをにじませた。
「父上、せめて一度だけでも騎士団の訓練に参加してみたいです!」
「騎士のみな様は遊びでやっているわけではないんだ。ご迷惑をおかけするようなことは許可できない」
フーゴの言葉にルカはしゅんとして、「わかりました。父上」と悲しそうに頷いた。
「見学くらいならいつでもさせてあげられますよ? ねえ、ジークヴァルト」
申請さえすれば、騎士団の訓練は見学できる。それこそ筋肉目当ての暇な令嬢が連日押しかけているのだ。まれにハインリヒが顔を出すことがあるのだが、王太子が参加する日などは黄色い声援が飛び交ってそれこそお祭り騒ぎとなる。
アデライーデの援護射撃にルカに笑顔が戻る。ルカはそのまま期待に満ちた目をジークヴァルトに向けた。
「ああ、問題ない。オレからも話を通しておこう」
「ありがとうございます! ジークヴァルト様!!」
「お手数をおかけして申し訳ありません……」
ひたすら恐縮している父親をよそに、ルカは飛び上がらんばかりに喜んだ。
「ジークヴァルト様、よろしければこれからは義兄上とお呼びしても構いませんか?」
再びルカに笑顔を向けられたジークヴァルトは、「好きに呼べばいい」と相変わらずの無表情だ。
「ありがとうございます!義兄上」
ルカは満面の笑顔でジークヴァルトの手を取った。
「あらあら、ルカもすっかりジークヴァルト様と仲良しさんね」
クリスタが微笑ましそうなまなざしを向け、フーゴも仕方ないとばかりに眉を下げた。
そんなやりとりを呆然と見ていたリーゼロッテは、あわててルカに抱きついた。
「ルカ、あまり危ないことはしないでちょうだい」
「義姉上、汚れてしまうと言ったでしょう? 離れてください」
にべもなくルカに押しのけられたリーゼロッテは、信じられないとばかりに大げさによろけて見せた。そんなリーゼロッテに見向きもせず、ルカはそのまま「そんなことより義兄上」とジークヴァルトに向き直った。
思いがけない弟の塩対応に、リーゼロッテは隣にいたアデライーデに助けを求めるようにすがりついた。
「アデライーデお姉様……わたくしの可愛いルカが……」
「あら」
リーゼロッテをきゅっと抱きしめ、アデライーデはその頭をよしよしとなでた。
アデライーデの腕の中でふるふると震えながら、リーゼロッテは涙混じりにジークヴァルトを睨みあげた。
「ヴァルト様、わたくし負けませんわっ」
睨んでいるつもりなのだろうが、上目遣いがどうしようもなく可愛らしい。そんなリーゼロッテを見てアデライーデは思わず口角を上げた。言われたジークヴァルトは、眉をひそめて何のことだというような顔をしている。
(ルカを取られて敵認定なんて……。ヴァルトも前途多難だわ)
「おもしろすぎてたまらないわね」
思わず漏れたその言葉に、リーゼロッテはアデライーデを見上げ、こてんと小首をかたむけた。そんな様子がまた愛らしすぎる。
アデライーデはこれ見よがしにリーゼロッテの頭に頬ずりした。それをジークヴァルトが恨みがましそうに見つめている。ルカがうれしそうにジークヴァルトに話しかけ、そんなルカの様子にリーゼロッテは涙目だ。
なんともカオスな四角関係の誕生だった。
そんなやり取りを遠巻きに見ていた使用人のひとりがぽつりとつぶやいた。
「お嬢様といい、ルカ坊ちゃんといい、旦那様も、奥様も……。あの公爵様相手に、なぜあんなに和やかな雰囲気でいられるんだ……?」
その居合わせた使用人も護衛の騎士も、みな同じことを思った。
「「「ダーミッシュ一家、マジ最強!!!」」」
その認識は、ピクニックに参加した者の土産話によって、屋敷の者全員に浸透していくのであった。
リーゼロッテがルカに駆け寄り飛びつくように抱きついた。
「ルカ、怪我はない? 痛いところはない?」
ルカの頭から腕、体と、上から下まで確かめるようにペタペタと触っていく。
「大げさです、義姉上」
ルカはリーゼロッテを引き離すように距離を開けた。
「離れてください。せっかくのドレスが汚れてしまいます」
ジークヴァルト様に頂いたお気に入りでしょう?と付け加えると、ルカは笑顔でジークヴァルトを見あげた。
「ジークヴァルト様、また今度、手合わせをしていただけますか?」
「ああ」
ジークヴァルトの返事にルカは「ありがとうございます!」と弾む声で返した。
(わたしのルカが……!)
自分そっちのけでジークヴァルトに天使の笑顔を向けるルカを見て、リーゼロッテは危機感を募らせた。
「ジークヴァルト様。お疲れのところ、息子に付き合わせて申し訳ありません」
「いや、問題ない。ダーミッシュ伯爵はいい子息をお持ちだ」
「そうね。ルカはなかなか剣術の素質があるわね。騎士団に欲しいくらいだわ」
「本当ですか? アデライーデ様」
アデライーデの言葉に、ルカがぱあぁっと顔を明るくした。
「アデライーデ様、ルカが本気にするのであまり褒めないでやってください。ルカ、お前は伯爵家を継ぐ身だ、わきまえなさい」
苦笑いのフーゴに、ルカは不服そうに反論した。
「お言葉ですが、父上。ジークヴァルト様だって、領地の経営と騎士のお仕事を両立されています。わたしも騎士団に入団したいです」
「ふふ、ルカは騎士様のお仕事にあこがれているものね」
クリスタがやわらかく微笑むと、フーゴは困ったように眉を下げた。
「クリスタ、お前までそんな甘やかすことを……」
「あら、いいではないですか。ルカは言い出したら聞きませんもの。無理に抑えつける方がよくありませんわ」
妻を溺愛しているフーゴは、クリスタには頭が上がらない。母親の援護にルカはその顔に喜びをにじませた。
「父上、せめて一度だけでも騎士団の訓練に参加してみたいです!」
「騎士のみな様は遊びでやっているわけではないんだ。ご迷惑をおかけするようなことは許可できない」
フーゴの言葉にルカはしゅんとして、「わかりました。父上」と悲しそうに頷いた。
「見学くらいならいつでもさせてあげられますよ? ねえ、ジークヴァルト」
申請さえすれば、騎士団の訓練は見学できる。それこそ筋肉目当ての暇な令嬢が連日押しかけているのだ。まれにハインリヒが顔を出すことがあるのだが、王太子が参加する日などは黄色い声援が飛び交ってそれこそお祭り騒ぎとなる。
アデライーデの援護射撃にルカに笑顔が戻る。ルカはそのまま期待に満ちた目をジークヴァルトに向けた。
「ああ、問題ない。オレからも話を通しておこう」
「ありがとうございます! ジークヴァルト様!!」
「お手数をおかけして申し訳ありません……」
ひたすら恐縮している父親をよそに、ルカは飛び上がらんばかりに喜んだ。
「ジークヴァルト様、よろしければこれからは義兄上とお呼びしても構いませんか?」
再びルカに笑顔を向けられたジークヴァルトは、「好きに呼べばいい」と相変わらずの無表情だ。
「ありがとうございます!義兄上」
ルカは満面の笑顔でジークヴァルトの手を取った。
「あらあら、ルカもすっかりジークヴァルト様と仲良しさんね」
クリスタが微笑ましそうなまなざしを向け、フーゴも仕方ないとばかりに眉を下げた。
そんなやりとりを呆然と見ていたリーゼロッテは、あわててルカに抱きついた。
「ルカ、あまり危ないことはしないでちょうだい」
「義姉上、汚れてしまうと言ったでしょう? 離れてください」
にべもなくルカに押しのけられたリーゼロッテは、信じられないとばかりに大げさによろけて見せた。そんなリーゼロッテに見向きもせず、ルカはそのまま「そんなことより義兄上」とジークヴァルトに向き直った。
思いがけない弟の塩対応に、リーゼロッテは隣にいたアデライーデに助けを求めるようにすがりついた。
「アデライーデお姉様……わたくしの可愛いルカが……」
「あら」
リーゼロッテをきゅっと抱きしめ、アデライーデはその頭をよしよしとなでた。
アデライーデの腕の中でふるふると震えながら、リーゼロッテは涙混じりにジークヴァルトを睨みあげた。
「ヴァルト様、わたくし負けませんわっ」
睨んでいるつもりなのだろうが、上目遣いがどうしようもなく可愛らしい。そんなリーゼロッテを見てアデライーデは思わず口角を上げた。言われたジークヴァルトは、眉をひそめて何のことだというような顔をしている。
(ルカを取られて敵認定なんて……。ヴァルトも前途多難だわ)
「おもしろすぎてたまらないわね」
思わず漏れたその言葉に、リーゼロッテはアデライーデを見上げ、こてんと小首をかたむけた。そんな様子がまた愛らしすぎる。
アデライーデはこれ見よがしにリーゼロッテの頭に頬ずりした。それをジークヴァルトが恨みがましそうに見つめている。ルカがうれしそうにジークヴァルトに話しかけ、そんなルカの様子にリーゼロッテは涙目だ。
なんともカオスな四角関係の誕生だった。
そんなやり取りを遠巻きに見ていた使用人のひとりがぽつりとつぶやいた。
「お嬢様といい、ルカ坊ちゃんといい、旦那様も、奥様も……。あの公爵様相手に、なぜあんなに和やかな雰囲気でいられるんだ……?」
その居合わせた使用人も護衛の騎士も、みな同じことを思った。
「「「ダーミッシュ一家、マジ最強!!!」」」
その認識は、ピクニックに参加した者の土産話によって、屋敷の者全員に浸透していくのであった。
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※小説家になろうグループムーンライトノベルズにて【R18】ふたつ名の令嬢と龍の託宣 不定期投稿中☆
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
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