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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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     ◇
 リーゼロッテは、自室を見回して、ほうとため息をついた。
 義父のフーゴにお願いして、ジークヴァルトから贈られた調度品の数々を、部屋に運んでもらったのだ。

(お姫様の部屋みたい……!)

 王城のアンネマリーの客間のような豪華さはなかったが、年頃の女の子があこがれそうなフェミニンな家具で埋め尽くされている。ふたたびリーゼロッテは、ほうとため息をついた。

 その姿を見ていたエラは、うれしそうに涙ぐんでいる。

 質素な生活を強いられていたリーゼロッテが、奇病にかかっていたと知らされたときは、エラは心臓が凍るかと思った。大事なリーゼロッテが苦しんでいることに気づけなかった自分が許せなかったし、今でも許せないでいる。

 そんなリーゼロッテを救ってくれた、王家と公爵家に、エラはいくら感謝してもしたりないと感じていた。

 そんな時、部屋の扉がノックされる。エラが扉を開けると、そこにはシンプルなドレスを着たアデライーデが立っていた。

 騎士服姿も格好いいが、出かけるとき以外は楽な服装でいてほしいとリーゼロッテが懇願したのだ。アデライーデは苦笑いしたが、それでリーゼロッテの緊張がほぐれるならと、リーゼロッテのかわいいお願いを快く受け入れてくれた。

「アデライーデ様、および立てして申し訳ありません」

 リーゼロッテが室内に案内すると、「いいえ、かわいい妹の頼みですもの。いつでも喜んでくるわ」アデライーデはうれしそうに笑った。

「もうお姉様とは呼んでくれないの?」
 すねたように言われ、リーゼロッテは顔を赤らめた。

「アデライーデお姉様」
 はにかむように言われ、アデライーデはきゅんとしてリーゼロッテをその胸に抱きしめた。

(ヴァルトの気持ちが分かるような気がするわ)

 あの女嫌いの弟が、やたらとリーゼロッテには触れていた。それこそ必要以上と思えるほどに。
 そのことを特別意識していないリーゼロッテを見て、全く男として見られていない弟に少しばかり同情したのだが。

 あの甲斐性なしの朴念仁にはちょうどいいと思い、次の託宣が降りるまで、当面は邪魔してやろうとアデライーデはほくそ笑んだ。

「それで、相談というのは何?」

 エラの淹れた紅茶を飲みながら、アデライーデは本題に入った。

「あの……守り石のことなのですが……」
「その首に下げているペンダントね?」

 何やら言いにくそうにしているリーゼロッテに、アデライーデは首をかしげた。青い守り石は、多少はくすんできていたが、まだ綺麗な青の揺らめきを保っている。

「はい。このペンダントの守り石の力はそれほど長持ちはしないだろうから、領地に着いたらこちらを普段からずっと身に着けるようにと、ジークヴァルト様に言われていたのですが……」

 例の首飾りが入ったベルベットの箱を、リーゼロッテはエラに持ってこさせた。リーゼロッテの許可を取り、アデライーデがその箱を開けた。

「コレを一日中身につけろと?」

 箱の中身を見るなりそう聞いてきたアデライーデに、リーゼロッテはこくりと頷いた。

「あんの甲斐性なしが」

 吐き捨てるようにつぶやいたアデライーデに、リーゼロッテは相談しない方がよかったかと後悔し始めていた。

 ジークヴァルトには今朝一番で手紙を送っている。今、ジークヴァルトは公爵家と王城を行ったり来たりしているらしく、とりあえず、公爵家に届けるよう、家令のダニエルに手紙をたくしてあった。

 公爵領は王城からほど近く、ダーミッシュ領から早駆けの馬で四時間程度のところにあるので、夜にジークヴァルトが手紙を確認したとして、返事は早くても明日の午後以降だろう。

(ホウレンソウ、報告・連絡・相談は基本よね)

 ペンダントの守り石がすぐにくすむことはなさそうだが、今までの思いもよらない事態があったことを考えると、早めに対処するの方がよいと考えたのだ。

 しかし、リーゼロッテは目の前のアデライーデの不穏な空気に、「ヴァルト様にはお手紙を出したのですが」と慌てて付け加えた。
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