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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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「……娘の病気は完治してはいないのですか?」

 フーゴが心配そうにアデライーデに聞き返した。

 リーゼロッテは王妃のお茶会で、めずらしい病にかかっていることが判明して、王家の保護をうけたことになっていた。
 王城への滞在は、異形によるさわりをやまいに置き換えて、治療をうけていたということにしたのだ。

「医師の見解ではいずれ改善するとみられていますが、まだ時間はかかりそうとのことです。リーゼロッテ嬢は、幼少期からよく転ばれていたとか。そういった症状はよくなっているはずですよ」

 アデライーデの言葉に、フーゴは安堵の息を漏らした。

「いずれ、公爵本人から申し入れがあると思いますが、リーゼロッテ嬢が成人したら、治療の継続も兼ねてフーゲンベルク家で保護させていただくことになるかと。これも王の意向です」

 アデライーデがそう言うと、フーゴはとうとうその時が来てしまったと絶望的な顔をした。
 ふたりは婚約関係にあるものの、実際に婚姻を果たすタイミングは王家の指示待ちと聞かされていた。王からゴーサインが出たとなれば、伯爵ごときが否とは言えない。

「ご安心ください。王はまだ婚姻までは考えておられぬようです。リーゼロッテ嬢はこれから社交界デビューも控えておられますし」

 その言葉にフーゴは再び安堵した。
 この一カ月、リーゼロッテがいない屋敷は暗く沈んでいた。部屋から滅多に出ない娘だったが、こんなにも存在感があったのだと、父であるフーゴも驚いたくらいだった。

「我が弟は不器用な奴ですが、嘘だけはつかない男です。必ずリーゼロッテ嬢をお守りするとお約束します」

 そう言って、アデライーデはフーゴに微笑みかけた。

 フーゴはリーゼロッテの義父として、フーゲンベルクの若き公爵とは月に一度は面会してきた。

 公爵はリーゼロッテに会おうとはしなかったが、それはリーゼロッテの生家であるラウエンシュタイン家の意向だった。
 ジークヴァルトはずっと、頑なにそれを守り続けていたが、今回の王城滞在は、王子殿下の命だったため、公爵も従わざるを得なかったのだろう。

 公爵はアデライーデが言うように不器用そうな青年だったが、リーゼロッテに気遣いをみせる様は確かに誠実と言えた。

「こちらこそ、世間知らずでふつつかな娘ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 フーゴは深々とアデライーデに頭を下げた。




【次回予告】
 さーて、次回の龍の託宣さんは~? リーゼロッテです。領地のお屋敷に帰ったわたしは、アデライーデ様との仲も深まりつつ、ヴァルト様と文通を再開。平和な毎日に、感謝・感激・雨あられです!
 さて次回は、第19話「無知なる者」、番外編「伯爵家の面接風景」の二本立てでお送りしまーす。じゃん、けん、ぽん、うふふふふ~

※上の次回予告は、小説を読もう・ムーンライト版に投稿したままでお送りしています。こちらでは今まで通り順に分割投稿してまいります
 18歳以上の乙女の方は、ムーンライトに行くと一気読みできますw
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