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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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「ヴァルト様、わたくしエラに薬をもらってきます」
「ああ」

 リーゼロッテはエラの部屋に行くと、しばらくして小さな紙に包まれた白い粉を手に戻ってきた。それは、お茶会から帰るときに使う予定だった眠り薬だった。

「一体どういうことだ?」
 ハインリヒは困惑したようにジークヴァルトを見やった。

「ダーミッシュ嬢が異形を浄化する。玉座の間までハインリヒもついてきてくれ」
「カイ様はこのままここに残って、アンネマリーとエラを守っていただけますか?」

 リーゼロッテにそう言われたカイは、「ええ?それはいいけど、いきなり何でそうなるの?」とこちらも困惑した声で言った。

「話はあとだ」

 そう言って、ジークヴァルトはリーゼロッテの前に跪いた。

 リーゼロッテはそっと手を伸ばし、自らジークヴァルトの腕に身をゆだねた。ジークヴァルトはリーゼロッテを大事そうに抱き上げると、そのまま廊下への扉に手をかけた。

「ハインリヒ行くぞ。カイは部屋の結界を守れ。オレの張った結界もじきに持たなくなる」

 ジークヴァルトは何のためらいもなく扉を開けた。ぐおっと異形たちの熱気とも冷気ともとれる圧がその身を襲う。

「カイ、これをアンネマリーに渡しておいてもらえないか? ただの気休めにしかならないが」

 振り返りざま、ハインリヒはカイにそれを手渡した。カイが受け取ったのは、ハインリヒがいつも愛用している懐中時計だった。

「わかりました。ご武運を」

 カイがそう言うと、ハインリヒはそのまま部屋から飛び出し、急いで扉を閉めた。玉座の間に向かえと言うなら、そうするしかない。何か算段あってのことでなければ、後でジークヴァルトを殴り飛ばそう。
 そう思ったハインリヒは、異形が渦巻く王城の廊下へと一歩踏み出した。

 部屋に残されたカイは、「さてと」と言うと、おもむろに紅茶を淹れだした。

「はーい、お嬢様方。もうこちらに来て大丈夫ですよー」
 楽し気にエラの部屋をノックする。

 ドン! と客間全体が強い力で揺さぶられるのを感じながら、カイは女性陣をどうおもてなししようか考えを巡らせていた。




【次回予告】
 はーい、わたしリーゼロッテ。異形の声が木霊する中、玉座の間に向かったわたしたち三人。異形を浄化するために、ジークヴァルト様の腕の中でわたしは眠りに落ちて!?
 次回、第14話「天のきざはし」 転生令嬢の名に懸けて、一世一代のチート咲かせて見せます!
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