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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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『何?』
 ニコニコしながらジークハルトが答える。

「あの……わたくしの顔に何かついておりますか?」
『目と鼻と口?』
「いえ、そういうことではなくて」とリーゼロッテが言うのにかぶせて、ジークハルトは『ねえ、リーゼロッテ。ちょっと目を閉じてみてよ』と言葉を続けた。
「?? ……こうですか?」

 言われるがままリーゼロッテが目を閉じると、ジークハルトはそのままさらにリーゼロッテに顔を近づけた。

 その様子をジークヴァルトは黙って横目で確認していたが、自分の守護者がうっとりした表情でリーゼロッテに顔を寄せていくのを見て、無意識に半眼となった。

「おい」

 ジークヴァルトは低い声で言うと、いきなりリーゼロッテの二の腕を掴んで真横に引いた。目を閉じたままリーゼロッテは、隣に座っていたジークヴァルトの膝の上にころんと倒れこんだ。

「何をやっているんだ、お前は?」

 怪訝な顔でハインリヒがジークヴァルトを見やる。ハインリヒとカイには、ジークハルトの姿は見えないしその声も聞こえない。ふたりには、ジークヴァルトがいきなりリーゼロッテを膝に引き寄せたようにしか見えなかった。

「少し席を外す」

 そう言うとジークヴァルトはリーゼロッテをひょいと抱え上げ、居間の隣にあるリーゼロッテの寝室へと足を踏み入れた。ぽかんとしているハインリヒとカイをよそに、後ろ手で扉を閉める。

 そのまま寝台まで歩を進めると、ジークヴァルトはリーゼロッテをベッドの上にそっと降ろした。肩を押されて、リーゼロッテは仰向けに寝かされる。

「ジークヴァルト様?」

 困惑気味にリーゼロッテが言うと、ジークヴァルトは無表情のまま「お前、今すぐ眠れ」と返した。

 ジークヴァルトは、リーゼロッテが眠ったときに漏れ出た力が気になっていた。あの夜、あまりにも強い力を感じたからだ。あの力と、リーゼロッテが狙われる理由に何か関係があるかもしれない。

「こんな時に何をおしゃっているのですか? この状況でのんきに眠れるはずもありません」
『ええ? リーゼロッテが眠るんだったらオレどっか行ってるよ』

 ふわりと天井近くまで高度を上げ、ジークハルトがどこかで聞いたことがあるような台詞を言った。

「ダメです! ハルト様はヴァルト様の守護者でしょう? 離れるなんていけません」

 あわてて上半身を起こしてリーゼロッテは言ったが、似たようなやりとりをした覚えがあって、ん? と首をかしげた。

『うーん、でもなあ……リーゼロッテの神気って、ちょっとこの身にはツライんだよね。オレまで浄化されちゃいそうだし……』と、ジークハルトが頬をかきながら言った。
「どういう意味だ? お前、何を知っている?」

 ジークヴァルトが自身の守護者を睨みつけた。
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