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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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「君はなぜここに?」
「はい、王妃様に休暇を頂いていたのですが、クリスタ叔母様、いえ、ダーミッシュ伯爵夫人からリーゼロッテに言付けを頼まれましたので、早めに戻ってきたのです」
彼女がいくら無知なる者でも、今の王城の警備は手薄となっていた。こういった異形がらみの騒ぎでは、飲み込まれた人間が犯罪を犯すことがよくあるのだ。異形の被害は受けなくとも安全とは言い切れなかった。
ハインリヒは迷ったが、アンネマリーをキュプカーに託すことにした。
「キュプカー、彼女を頼む」
そう言って、足早にハインリヒはその場を去ろうとした。
「ハインリヒ様、リーゼロッテは大丈夫でしょうか?」
アンネマリーは咄嗟にその背中に問いかけた。
「ああ、彼女はジークヴァルトといるはずだ」
振り向いてそう答えた瞬間、アンネマリーの背後にいた異形がざわりと形を変えた。
「え?」
アンネマリーは誰かに背中を押されたような感覚を覚え、後ろを振り返ろうとした。そのまま廊下に倒れこみそうになる。その先にいたのはハインリヒだった。
ハインリヒは異形に囲まれ、その場を一歩も動くことができなかった。
避けることも、アンネマリーを受け止めることもできずに、彼女の柔らかそうな肢体が自分に近づいてくるその光景を、スローモーションのように感じてただ立ち尽くしていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁおっとぉぉぉぉ」
スライディングするようにその間に割り込んできたのはカイだった。ハインリヒを突き飛ばし、アンネマリーをその胸に抱きとめた。
「あっぶねー。マジ危ねー、心臓止まるかと思った」
カイが心臓をバクバクさせながら、アンネマリーの背に回した腕に力を入れる。ぎゅっとカイに抱きしめられながら、アンネマリーは動揺したように言った。
「は、ハインリヒ様」
廊下の端から端まで突き飛ばされたハインリヒが、呆然とそこで尻もちをついている。
「怪我はない? アンネマリー嬢」
「……わたくしは大丈夫です……ですがハインリヒ様が」
のぞき込むようにカイに問われたアンネマリーはふるえる声で返した。目の前で王子が突き飛ばされたのだ。しかも、転びそうになった自分を助けるために。
「大丈夫。ハインリヒ様はすっごい静電気体質なの。触ったらバチっとなって、繊細なご令嬢にはめちゃくちゃ危険なんだ。もう心臓止まっちゃうレベルだよ。だから誰も被害に合わないよう気をつけるようにハインリヒ様にいつも言われてるんだ。ね! そうですよね、ハインリヒ様!」
カイのやけくそのようなその言葉にアンネマリーが目を見開く。真偽を確かめるようにハインリヒに顔を向けると、ハインリヒは青ざめた顔のままコクコクと頷いた。
「はい、王妃様に休暇を頂いていたのですが、クリスタ叔母様、いえ、ダーミッシュ伯爵夫人からリーゼロッテに言付けを頼まれましたので、早めに戻ってきたのです」
彼女がいくら無知なる者でも、今の王城の警備は手薄となっていた。こういった異形がらみの騒ぎでは、飲み込まれた人間が犯罪を犯すことがよくあるのだ。異形の被害は受けなくとも安全とは言い切れなかった。
ハインリヒは迷ったが、アンネマリーをキュプカーに託すことにした。
「キュプカー、彼女を頼む」
そう言って、足早にハインリヒはその場を去ろうとした。
「ハインリヒ様、リーゼロッテは大丈夫でしょうか?」
アンネマリーは咄嗟にその背中に問いかけた。
「ああ、彼女はジークヴァルトといるはずだ」
振り向いてそう答えた瞬間、アンネマリーの背後にいた異形がざわりと形を変えた。
「え?」
アンネマリーは誰かに背中を押されたような感覚を覚え、後ろを振り返ろうとした。そのまま廊下に倒れこみそうになる。その先にいたのはハインリヒだった。
ハインリヒは異形に囲まれ、その場を一歩も動くことができなかった。
避けることも、アンネマリーを受け止めることもできずに、彼女の柔らかそうな肢体が自分に近づいてくるその光景を、スローモーションのように感じてただ立ち尽くしていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁおっとぉぉぉぉ」
スライディングするようにその間に割り込んできたのはカイだった。ハインリヒを突き飛ばし、アンネマリーをその胸に抱きとめた。
「あっぶねー。マジ危ねー、心臓止まるかと思った」
カイが心臓をバクバクさせながら、アンネマリーの背に回した腕に力を入れる。ぎゅっとカイに抱きしめられながら、アンネマリーは動揺したように言った。
「は、ハインリヒ様」
廊下の端から端まで突き飛ばされたハインリヒが、呆然とそこで尻もちをついている。
「怪我はない? アンネマリー嬢」
「……わたくしは大丈夫です……ですがハインリヒ様が」
のぞき込むようにカイに問われたアンネマリーはふるえる声で返した。目の前で王子が突き飛ばされたのだ。しかも、転びそうになった自分を助けるために。
「大丈夫。ハインリヒ様はすっごい静電気体質なの。触ったらバチっとなって、繊細なご令嬢にはめちゃくちゃ危険なんだ。もう心臓止まっちゃうレベルだよ。だから誰も被害に合わないよう気をつけるようにハインリヒ様にいつも言われてるんだ。ね! そうですよね、ハインリヒ様!」
カイのやけくそのようなその言葉にアンネマリーが目を見開く。真偽を確かめるようにハインリヒに顔を向けると、ハインリヒは青ざめた顔のままコクコクと頷いた。
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※小説家になろうグループムーンライトノベルズにて【R18】ふたつ名の令嬢と龍の託宣 不定期投稿中☆
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
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