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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
第13話 死者の行進
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後ろ手に扉を閉めたカイは、扉からはみ出した異形たちに一瞥を向けた後、「ああ、もうっ」と言って扉に蹴りを食らわせた。異形たちは振動でドアの縁からボトリと床に落ち、そのままジュっと消えていった。
「部屋を出たら、城のあちこちで異形が湧いて出てきてて、王城内はパニック状態なんですよ。オレの可愛い令嬢たちが待っているのに!」
公務どころではない状況に、カイは腹立たしそうに言った。
「ハインリヒはどうした?」
「ハインリヒ様は今、王のいる玉座の間に向かっているかと。王城内は異形が視えないものにも影響が出ているので、キュプカー隊長が指揮をとってみなを避難させてます」
そう言いながらカイは、背で押えるように扉にもたれかかっている。誰かが乱暴に叩いているかのように扉がガタガタと激しく揺れた。
「ジークヴァルト様もすぐ来るようにとのご命令です」
扉がきしむように悲鳴をあげた。意を決したようにカイが扉を開け放つと同時に、ジークヴァルトがリーゼロッテを抱え上げる。そのままふたりは廊下へ飛び出した。
リーゼロッテがジークヴァルトの腕の中で目にしたのは、真っ黒な廊下だった。それが異形の塊であると認識するまで、そう長い時間はかからなかった。
「しっかりつかまっていろ」
そう言うとジークヴァルトは駆け出した。乱暴な足取りにリーゼロッテの体が跳ねる。片腕でのみで抱えられ、不安定さはいつもの移動の比ではなかった。それだけ余裕がないということだ。
異形たちの咆哮が耳ざわりに響く。リーゼロッテはジークヴァルトにしがみついてぎゅっと目を瞑った。
((( コワイイタイニクイイヤダクルシイシニタクナイナゼジブンダケツライドウシテドウシテドウシテ……)))
異形たちの叫びが頭の中に直接響いてくる。リーゼロッテは耳を塞ぎながら「やめて」と知らず叫んだ。
「のみこまれるな!」
強い声音にリーゼロッテは意識を引き戻される。
「大丈夫だ、オレがいる」
ジークヴァルトのその言葉に、リーゼロッテはただしがみつくしかできなかった。
「みーちーをーあーけーろーよ、こんちくしょーっ!」
カイが前方に向かって叫ぶと、目の前の廊下の異形たちが一気に消し飛んだ。まさに、ねじ伏せてドン、な浄化に、リーゼロッテは思わずその目をそむけた。耳を塞いでも異形たちの悲鳴が届く。毎夜見る悪夢の続きのようだった。
どこをどうどれだけ進んだのかもわからない。ただただ早く終わってほしい。苦しそうなリーゼロッテを見て、ジークヴァルトは抱き上げた体をさらにぎゅっと引き寄せた。
ふいにリーゼロッテが顔を上げ、「アンネマリー?」とつぶやいた。
「どうした?」
「あちらにアンネマリーが……」
ジークヴァルトが問うと、リーゼロッテは廊下の先を指さした。異形の塊で遠くは見えなかったが、ジークヴァルトは言われた方向に歩を進めていく。
「ジークヴァルト様、玉座の間はそちらでは……」
止めようとしたカイの視線が、ジークヴァルトが切り開いた廊下の先を向く。そこにはハインリヒ王子とキュプカー隊長、そしてなぜかアンネマリーがいた。とその時、アンネマリーの背後の異形が、うねるように動くのが目に入った。
ひとつひとつは大した力を持たない異形が、何か意思を持ったかのように一つに合わさり、渦を巻いて立ち上がる。天井高く上がった異形の先端は、そのまま下降しアンネマリーの背中を強く押し出した。
アンネマリーの体が傾き、倒れていこうとする先に、振り返ったハインリヒがいた。
「やばい」
カイは思うより早く、その場を駆け出した。
「部屋を出たら、城のあちこちで異形が湧いて出てきてて、王城内はパニック状態なんですよ。オレの可愛い令嬢たちが待っているのに!」
公務どころではない状況に、カイは腹立たしそうに言った。
「ハインリヒはどうした?」
「ハインリヒ様は今、王のいる玉座の間に向かっているかと。王城内は異形が視えないものにも影響が出ているので、キュプカー隊長が指揮をとってみなを避難させてます」
そう言いながらカイは、背で押えるように扉にもたれかかっている。誰かが乱暴に叩いているかのように扉がガタガタと激しく揺れた。
「ジークヴァルト様もすぐ来るようにとのご命令です」
扉がきしむように悲鳴をあげた。意を決したようにカイが扉を開け放つと同時に、ジークヴァルトがリーゼロッテを抱え上げる。そのままふたりは廊下へ飛び出した。
リーゼロッテがジークヴァルトの腕の中で目にしたのは、真っ黒な廊下だった。それが異形の塊であると認識するまで、そう長い時間はかからなかった。
「しっかりつかまっていろ」
そう言うとジークヴァルトは駆け出した。乱暴な足取りにリーゼロッテの体が跳ねる。片腕でのみで抱えられ、不安定さはいつもの移動の比ではなかった。それだけ余裕がないということだ。
異形たちの咆哮が耳ざわりに響く。リーゼロッテはジークヴァルトにしがみついてぎゅっと目を瞑った。
((( コワイイタイニクイイヤダクルシイシニタクナイナゼジブンダケツライドウシテドウシテドウシテ……)))
異形たちの叫びが頭の中に直接響いてくる。リーゼロッテは耳を塞ぎながら「やめて」と知らず叫んだ。
「のみこまれるな!」
強い声音にリーゼロッテは意識を引き戻される。
「大丈夫だ、オレがいる」
ジークヴァルトのその言葉に、リーゼロッテはただしがみつくしかできなかった。
「みーちーをーあーけーろーよ、こんちくしょーっ!」
カイが前方に向かって叫ぶと、目の前の廊下の異形たちが一気に消し飛んだ。まさに、ねじ伏せてドン、な浄化に、リーゼロッテは思わずその目をそむけた。耳を塞いでも異形たちの悲鳴が届く。毎夜見る悪夢の続きのようだった。
どこをどうどれだけ進んだのかもわからない。ただただ早く終わってほしい。苦しそうなリーゼロッテを見て、ジークヴァルトは抱き上げた体をさらにぎゅっと引き寄せた。
ふいにリーゼロッテが顔を上げ、「アンネマリー?」とつぶやいた。
「どうした?」
「あちらにアンネマリーが……」
ジークヴァルトが問うと、リーゼロッテは廊下の先を指さした。異形の塊で遠くは見えなかったが、ジークヴァルトは言われた方向に歩を進めていく。
「ジークヴァルト様、玉座の間はそちらでは……」
止めようとしたカイの視線が、ジークヴァルトが切り開いた廊下の先を向く。そこにはハインリヒ王子とキュプカー隊長、そしてなぜかアンネマリーがいた。とその時、アンネマリーの背後の異形が、うねるように動くのが目に入った。
ひとつひとつは大した力を持たない異形が、何か意思を持ったかのように一つに合わさり、渦を巻いて立ち上がる。天井高く上がった異形の先端は、そのまま下降しアンネマリーの背中を強く押し出した。
アンネマリーの体が傾き、倒れていこうとする先に、振り返ったハインリヒがいた。
「やばい」
カイは思うより早く、その場を駆け出した。
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