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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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「そういえば、リーゼは公爵様とうまくいっているようね?」

 アンネマリーの言葉に、リーゼロッテは口ごもった。もしかして、あの抱っこ輸送がアンネマリーの耳にも届いているのだろうか?
 王妃様の近辺で噂にでもなっていたりしたらと思うと、恥ずかしすぎていたたまれない。

「なんでも夜遅くまで公爵様が、リーゼの客間の前でずっと警護なさっているそうじゃない」
「ジークヴァルト様がこの部屋の警護を?」

 アンネマリーの言葉は、リーゼロッテにとって寝耳に水の内容だった。

 王城だから、夜間でも警護の騎士はそれなりの数が配備されているだろう。リーゼロッテのいる客間の前にも、もしかしたら毎晩騎士が立っているのかもしれない。一人で出歩かないよう言われているので、夜の城の様子など知る由もないのだが。

「そうよ。王城勤めの女官の間では、その噂でもちきりよ。あの女性を寄せつけなかった公爵様が、婚約者のためにお心を砕いているって」

 朝は朝食が済んで、しばらくしてからジークヴァルトが迎えに来ていたし、帰りは夕方に客間まで送ってもらったあと、そのまま部屋を出ない生活が続いていた。ジークヴァルトはリーゼロッテを送り届けた後、王城内に用意された私室に帰っていたのだとばかり思っていたのだが。

「そのような話はジークヴァルト様から伺っていないのだけれど……」
 困惑したようにリーゼロッテが言うと、アンネマリーは反対に目を輝かせた。

「まあ、もしかしたらリーゼに心配をかけないよう、黙っていらっしゃるのかもしれないわね。夜勤に向かう女官や侍女からの目撃情報をたくさん聞くから、きっと間違いないわよ」

 ウィンクしながらアンネマリーにそう言われ、ジークヴァルトがわざわざそんなことをするだろうかとリーゼロッテは首をかしげた。

 ジークヴァルトの行動は、何の前触れもなく突拍子もないようなことばかりだ。はじめは、ただ単に、からかわれているのかと思ったが、冷静に考えると、それらの行動にはきちんと意味があったようにも思う。

 昨日の抱っこ輸送も、恥ずかしいからいやだと訴えたら、素直に降ろしてくれたではないか。結局はよくわからない理由で、再輸送されることになってしまったが、もしかしたら理不尽を強いる人ではないのかもしれない。

(ただ、口下手で、不器用な人なのかも?)

 そう思うと、少し苦手意識がなくなったように感じた。もう少し、ジークヴァルトとは会話をした方がいいのかもしれない。

(今日は一日会えないんだわ。……毎日会っていたから、なんだか変な感じ)

 明日になれば、また会える。そう思うのに、会えないとなると漠然と不安を感じた。

(吊り橋効果で、おかしくなってるのかしら……?)

 決してジークヴァルトが嫌いなわけではない。婚約者なのだから、好きになれればそれに越したことはないとも思う。
 しかし、リーゼロッテはこの感情に、名前をつけることはいまだできないでいた。
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