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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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◇
「アンネマリー、今日はわざわざありがとう。また会えてうれしいわ」
リーゼロッテは王城の客間で、アンネマリーを迎え入れていた。お茶会の夜から、半月ぶりの再会であった。
「リーゼは休んでいなくて大丈夫なの? 体調を崩したときいたわ」
「ええ、問題ないわ。大事を取って今日一日休ませてもらったのだけれど、正直やることもなくて退屈していたの」
にっこり微笑むリーゼロッテの顔は、お茶会の時よりも少し青白かった。
「食欲はある? ちゃんと眠れているの?」
心配そうにのぞき込むアンネマリーに、リーゼロッテは明るく返した。
「大丈夫よ。お城の食事はおいしいし、ついつい食べ過ぎてしまうくらい」
明らかに強がっているのがわかって、アンネマリーはリーゼロッテをぎゅっと抱きしめた。エラは何も言わなかったが、心配顔のまま後ろで控えている。
「それよりも、アンネマリーこそ困ったことはない? 王妃様から王女殿下の話し相手を務めるよう言われたと聞いたわ」
「ええ、わたしも急な話で驚いたのだけれど。ピッパ様はとても快活で素直な愛らしい王女殿下よ。王城にいて毎日楽しいわ」
この国の王家はとても親しみやすく、仕える者にも悪どい人間はほとんどいなかった。アンネマリーは、王宮などは陰謀渦巻くドロドロとした世界で、決して近づくものではないと思っていたのだが。自国の王室はいたって平和な人間関係ばかりだった。
「それに、リーゼの言っていた通りね。ハインリヒ様にお会いしたのだけれど……とてもおやさしい方ね」
頬を赤らめて、アンネマリーが恥ずかしそうに言った。
「まあ、王子殿下とお会いしたのね」
アンネマリーが王妃の茶会でどうしてあれほど王子殿下を悪く言っていたのか、リーゼロッテは今でも不思議に思っていた。
「アンネマリーは、なぜ王子殿下のことを……あんなふうに誤解していたの……?」
「……わたくしの偏見がいけなかったの」
アンネマリーは気まずそうに答えた。
「わたくし、隣国にいたときテレーズ様と懇意にさせていただいていたのだけれど……」
「テレーズ王女殿下ね。ブラオエルシュタインから隣国に輿入れされたのだったわね」
「ええ。それで、隣国の王室はそれこそ魑魅魍魎がいるような場所だったの。特に王族の男性は横柄で、女性を物としかみないような方ばかりだったのよ。国に戻って、王子殿下のお噂を聞いたとき、この国の王家の方々も同じなのだと勝手に思い込んでしまったの」
アンネマリーは申し訳なさそうに続けた。
「テレーズ様はおやさしくて聡明な方だわ。ハインリヒ様はそんなテレーズ様の弟君であらせられるのに、勝手な妄想で貶めてしまうなんて……ひどい話よね」
実のところアンネマリーは、隣国の王族に手籠めにされそうになったことがあった。幸いすぐに助けが入ったのだが、あの時のことを思い出すと今でも身震いしてしまう。
テレーズの計らいもあって、逃げるように帰国した経緯もあった。その時の恐怖から、王族に対する不信感がどうしてもぬぐえなかった。王族には絶対に近づきたくない。そう強固に思わせるほどに。
何かを察したリーゼロッテが、今度はアンネマリーをぎゅっと抱きしめた。
「ごめんなさい……何か辛いことを思い出させてしまったかしら」
「大丈夫よ。リーゼは心配性ね」
「まあ、その言葉、そのままそっくり返すわ、アンネマリー」
ふたりは抱き合ったまま、くすくす笑いあった。
「アンネマリー、今日はわざわざありがとう。また会えてうれしいわ」
リーゼロッテは王城の客間で、アンネマリーを迎え入れていた。お茶会の夜から、半月ぶりの再会であった。
「リーゼは休んでいなくて大丈夫なの? 体調を崩したときいたわ」
「ええ、問題ないわ。大事を取って今日一日休ませてもらったのだけれど、正直やることもなくて退屈していたの」
にっこり微笑むリーゼロッテの顔は、お茶会の時よりも少し青白かった。
「食欲はある? ちゃんと眠れているの?」
心配そうにのぞき込むアンネマリーに、リーゼロッテは明るく返した。
「大丈夫よ。お城の食事はおいしいし、ついつい食べ過ぎてしまうくらい」
明らかに強がっているのがわかって、アンネマリーはリーゼロッテをぎゅっと抱きしめた。エラは何も言わなかったが、心配顔のまま後ろで控えている。
「それよりも、アンネマリーこそ困ったことはない? 王妃様から王女殿下の話し相手を務めるよう言われたと聞いたわ」
「ええ、わたしも急な話で驚いたのだけれど。ピッパ様はとても快活で素直な愛らしい王女殿下よ。王城にいて毎日楽しいわ」
この国の王家はとても親しみやすく、仕える者にも悪どい人間はほとんどいなかった。アンネマリーは、王宮などは陰謀渦巻くドロドロとした世界で、決して近づくものではないと思っていたのだが。自国の王室はいたって平和な人間関係ばかりだった。
「それに、リーゼの言っていた通りね。ハインリヒ様にお会いしたのだけれど……とてもおやさしい方ね」
頬を赤らめて、アンネマリーが恥ずかしそうに言った。
「まあ、王子殿下とお会いしたのね」
アンネマリーが王妃の茶会でどうしてあれほど王子殿下を悪く言っていたのか、リーゼロッテは今でも不思議に思っていた。
「アンネマリーは、なぜ王子殿下のことを……あんなふうに誤解していたの……?」
「……わたくしの偏見がいけなかったの」
アンネマリーは気まずそうに答えた。
「わたくし、隣国にいたときテレーズ様と懇意にさせていただいていたのだけれど……」
「テレーズ王女殿下ね。ブラオエルシュタインから隣国に輿入れされたのだったわね」
「ええ。それで、隣国の王室はそれこそ魑魅魍魎がいるような場所だったの。特に王族の男性は横柄で、女性を物としかみないような方ばかりだったのよ。国に戻って、王子殿下のお噂を聞いたとき、この国の王家の方々も同じなのだと勝手に思い込んでしまったの」
アンネマリーは申し訳なさそうに続けた。
「テレーズ様はおやさしくて聡明な方だわ。ハインリヒ様はそんなテレーズ様の弟君であらせられるのに、勝手な妄想で貶めてしまうなんて……ひどい話よね」
実のところアンネマリーは、隣国の王族に手籠めにされそうになったことがあった。幸いすぐに助けが入ったのだが、あの時のことを思い出すと今でも身震いしてしまう。
テレーズの計らいもあって、逃げるように帰国した経緯もあった。その時の恐怖から、王族に対する不信感がどうしてもぬぐえなかった。王族には絶対に近づきたくない。そう強固に思わせるほどに。
何かを察したリーゼロッテが、今度はアンネマリーをぎゅっと抱きしめた。
「ごめんなさい……何か辛いことを思い出させてしまったかしら」
「大丈夫よ。リーゼは心配性ね」
「まあ、その言葉、そのままそっくり返すわ、アンネマリー」
ふたりは抱き合ったまま、くすくす笑いあった。
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※小説家になろうグループムーンライトノベルズにて【R18】ふたつ名の令嬢と龍の託宣 不定期投稿中☆
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
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