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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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「そうだ、ジークヴァルト様。みなに配る守り石が、最近、消費が激しくて困っているんです。これ、ちゃちゃっと力込めちゃってくださいませんか?」
そう言うとカイは、脇に置いてあった箱を手に取りその蓋を開けた。中には、大小様々な丸いくすんだ石が入れられている。
「ああ」
何か書類に目を通しながら、ジークヴァルトはカイに手のひらを向けた。カイは箱から石をひとつ取って、ジークヴァルトのその手に乗せる。
視線は書類から離さず石を一握りすると、次の瞬間、ジークヴァルトは手首のスナップをきかせてその石を後ろに放り投げた。その石を、別の箱でカイが器用にキャッチする。見ると、くすんでいた石の色は綺麗な青に変化していた。
石を渡され、握り、放る。その作業は高速で行われた。その間、ジークヴァルトは書類に目を通したまま、一連の動きには目もくれていない。ぽい、ぽい、ぽいと、最後の石が投げ込まれると、カイが満足そうに箱の蓋を閉めた。
「はー、いつ見てもジークヴァルト様の妙技はすごいなー。誰よりも早くて間違いない」
じゃあ、これ、早速届けてきます、そう言って、カイは応接室を後にした。
それをずっと目にしていたリーゼロッテは、知らず両手にこぶしを作ってわなわなと震えていた。
「わたしは隣の執務室にいる。クラッセン侯爵令嬢の件は少し時間をもらえるかい?」
懐中時計の蓋を開いて時間を確認すると、ハインリヒはリーゼロッテに声をかけた。
リーゼロッテが我に返り、「は、はい、もちろんでございます」と言うと、ハインリヒはいつになく軽やかな笑顔でうなずいてから隣の執務室へと向かっていった。
そして、リーゼロッテはまたジークヴァルトと二人きりだ。いや、ジークヴァルトの守護者たるジークハルトも先ほどからそこに浮かんでいるのだが。
「さて、ダーミッシュ嬢」
ジークヴァルトは、リーゼロッテの肩に手を乗せ、いつものように椅子に座らせようとした。
「さて、ではございません!」
ジークヴァルトの手をするりと抜けて、リーゼロッテは片手を腰に置き、憤慨したように言いつのった。
「先ほどのあれは何なのですか? あんなふうに手に触れて簡単に力が籠められるなら、必要以上に近づく必要などないではありませんか!」
リーゼロッテは、手で触れるだけで守り石が青くなっていくのを目の当たりにして、ジークヴァルトに怒りを禁じえなかった。あれができるのなら、密着して石に口づける必要などないのだから。
いつも羞恥に耐えていたリーゼロッテは、もうだまされないとばかりに、外したペンダントをジークヴァルトに差し出した。
「これからはわたくしが外してからお渡ししますので、それから力をお籠めくださいませ」
ジークヴァルトは無表情でそれを受け取ると、二人掛けのソファに腰を下ろした。リーゼロッテは立ったまま何も言わずそれを見守った。
ジークヴァルトは石の真上の鎖の部分を握り、石を持ち上げて口元に持って行った。瞳を閉じてすっと息を吸う。
(口づけるのは結局やるのね)
力の籠め方が違うのかもしれない。だとすると、先ほどのたくさんの石は、あまりにもぞんざいに扱われてやしないだろうか。
少しくすんでいた石の青が、すうっと澄んだ青に変化していく。中の青が揺らめく瞬間を、リーゼロッテは食い入るように見つめていた。
(やっぱり綺麗……)
ふいにまぶたを開けたジークヴァルトと視線がばちりと合う。無言でペンダントを差し出されて、リーゼロッテはおずおずと手を伸ばした。
やってもらっているのに、横柄な態度を取りすぎたかもしれない。そう思うと、リーゼロッテはそれ以上強気にでることはできなかった。
お礼を言おうと口を開きかけた瞬間、ぐいと、ジークヴァルトに腕をつかまれ引き寄せられた。
そう言うとカイは、脇に置いてあった箱を手に取りその蓋を開けた。中には、大小様々な丸いくすんだ石が入れられている。
「ああ」
何か書類に目を通しながら、ジークヴァルトはカイに手のひらを向けた。カイは箱から石をひとつ取って、ジークヴァルトのその手に乗せる。
視線は書類から離さず石を一握りすると、次の瞬間、ジークヴァルトは手首のスナップをきかせてその石を後ろに放り投げた。その石を、別の箱でカイが器用にキャッチする。見ると、くすんでいた石の色は綺麗な青に変化していた。
石を渡され、握り、放る。その作業は高速で行われた。その間、ジークヴァルトは書類に目を通したまま、一連の動きには目もくれていない。ぽい、ぽい、ぽいと、最後の石が投げ込まれると、カイが満足そうに箱の蓋を閉めた。
「はー、いつ見てもジークヴァルト様の妙技はすごいなー。誰よりも早くて間違いない」
じゃあ、これ、早速届けてきます、そう言って、カイは応接室を後にした。
それをずっと目にしていたリーゼロッテは、知らず両手にこぶしを作ってわなわなと震えていた。
「わたしは隣の執務室にいる。クラッセン侯爵令嬢の件は少し時間をもらえるかい?」
懐中時計の蓋を開いて時間を確認すると、ハインリヒはリーゼロッテに声をかけた。
リーゼロッテが我に返り、「は、はい、もちろんでございます」と言うと、ハインリヒはいつになく軽やかな笑顔でうなずいてから隣の執務室へと向かっていった。
そして、リーゼロッテはまたジークヴァルトと二人きりだ。いや、ジークヴァルトの守護者たるジークハルトも先ほどからそこに浮かんでいるのだが。
「さて、ダーミッシュ嬢」
ジークヴァルトは、リーゼロッテの肩に手を乗せ、いつものように椅子に座らせようとした。
「さて、ではございません!」
ジークヴァルトの手をするりと抜けて、リーゼロッテは片手を腰に置き、憤慨したように言いつのった。
「先ほどのあれは何なのですか? あんなふうに手に触れて簡単に力が籠められるなら、必要以上に近づく必要などないではありませんか!」
リーゼロッテは、手で触れるだけで守り石が青くなっていくのを目の当たりにして、ジークヴァルトに怒りを禁じえなかった。あれができるのなら、密着して石に口づける必要などないのだから。
いつも羞恥に耐えていたリーゼロッテは、もうだまされないとばかりに、外したペンダントをジークヴァルトに差し出した。
「これからはわたくしが外してからお渡ししますので、それから力をお籠めくださいませ」
ジークヴァルトは無表情でそれを受け取ると、二人掛けのソファに腰を下ろした。リーゼロッテは立ったまま何も言わずそれを見守った。
ジークヴァルトは石の真上の鎖の部分を握り、石を持ち上げて口元に持って行った。瞳を閉じてすっと息を吸う。
(口づけるのは結局やるのね)
力の籠め方が違うのかもしれない。だとすると、先ほどのたくさんの石は、あまりにもぞんざいに扱われてやしないだろうか。
少しくすんでいた石の青が、すうっと澄んだ青に変化していく。中の青が揺らめく瞬間を、リーゼロッテは食い入るように見つめていた。
(やっぱり綺麗……)
ふいにまぶたを開けたジークヴァルトと視線がばちりと合う。無言でペンダントを差し出されて、リーゼロッテはおずおずと手を伸ばした。
やってもらっているのに、横柄な態度を取りすぎたかもしれない。そう思うと、リーゼロッテはそれ以上強気にでることはできなかった。
お礼を言おうと口を開きかけた瞬間、ぐいと、ジークヴァルトに腕をつかまれ引き寄せられた。
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