ふたつ名の令嬢と龍の託宣【第二部公爵夫人編開始】

古堂 素央

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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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 騎士たちとすれ違うたびにリーゼロッテは、ジークヴァルトの首筋にしがみついて隠すように顔をうずめた。顔を見られないようにするには、そうするしか手立てがなかった。

「……ヴァルト様」
 結果、耳元でささやくようになる。
「わたくしは、恥ずかしいのです。毎日、このように、荷物のように運ばれて……」

 耳にかみついてやれば、驚いて降ろしてくれるかもしれない。リーゼロッテが真剣にそう思ったとき、ジークヴァルトの足がピタリと止まった。まだ、行程を半分行ったくらいの場所だった。

「そうか」

 ジークヴァルトは、すとんとリーゼロッテを下に降ろした。突然のことに、リーゼロッテは向かい合わせになったまま、ぽかんとジークヴァルトを見上げた。

「なんだ? 歩かないのか?」
 再び抱き上げようとするジークヴァルトに、リーゼロッテはあわてて距離をとる。

「歩きます! 歩かせていただきます!」

 リーゼロッテはウキウキしながら廊下を歩いていた。その後ろを無表情のジークヴァルトが続く。
 なるべく廊下の真ん中を歩き、左右の確認も怠らないようにする。異形の者たちは、遠巻きに見つめてくるが、それ以上は近寄ってこようとはしなかった。

(やった、この作戦ばっちりだわ!)

 すれ違う騎士たちには、軽く笑顔をつくり会釈をする。抱えられてなければ、恥ずかしいことは何もない。鼻歌のひとつでも歌いたい気分だ。

 いつも抱えられて移動していた廊下は、リーゼロッテの視点からはまた違った風景に見えた。異形たちも、ずっと同じいるところにいる者もいれば、ふらふら移動している者もいて、いろんなことが分かってくる。

(だってジークヴァルト様、速足なんだもの)
 揺れるわ恥ずかしいわで、周りを冷静に観察する余裕もなかった。

(でも、あまりゆっくり歩いていると、また運ばれてしまうかも)
 そう思ったリーゼロッテは、気持ち速足で進むことにした。

 そのまましばらく進むと、急に後ろからジークヴァルトに手をひかれた。二の腕をつかまれ、勢いで背中がジークヴァルトの腹にぶつかる。

「急ぐことはない。危ないからゆっくり歩け」
 真上からそう言うとジークヴァルトは腕から手を放した。

「はい、申し訳ありません」
「わかったら早く進め」

 今度はジークヴァルトに背を押される。

 急ぐなと言ったり、急げと言ったり。お茶会で再会してから毎日顔を合わせているが、ジークヴァルトはやさしいのか意地悪なのか、リーゼロッテはわからずに混乱していた。

 気を遣われているような気もするが、意地悪を楽しんでいるようにも、いないようにもみえる。基本、無表情で口数も多くないので、ジークヴァルトの真意がわからない。何かを尋ねても、「問題ない」の一言で済まされることが多かった。
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※小説家になろうグループムーンライトノベルズにて【R18】ふたつ名の令嬢と龍の託宣 不定期投稿中☆
 第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
 こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
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