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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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◇
ぱちっと目が覚めると、そこには心配そうにのぞき込んでいるエラの顔があった。見知らぬ天井が目に入る。あのあと王城の客間に通されて、着替えもせずに少し眠ってしまったようだ。
「ああ、お嬢様。ご気分はいかがですか? お腹はすいておりませんか?」
おろおろとしているエラに、リーゼロッテは微笑みかけた。
「大丈夫よ、エラ。ごめんなさい、心配をかけたわね」
ふかふかのベッドから体を起こして時計を見ると、夕刻を少し過ぎた頃、お屋敷での晩餐の前くらいの時間だった。いつもならお腹がく~く~なっている時間帯だ。
「あら……不思議とお腹がすいてないわ」
常に腹ペコなのも、あの異形のせいだったのかもしれない。数時間眠っただけなのに、やたらとすっきりしている。万年寝不足を感じていたリーゼロッテにとっては、久しぶりの感覚だった。
リーゼロッテの胸元で、ペンダントの石の青が揺らめいた。
(……これも守り石のおかげなのかしら?)
「お嬢様、この石は……?」
エラが不思議そうに石をのぞき込んだ。リーゼロッテが大事にしていたペンダントは、もっとくすんだ青銅色だったはずだ。
「ジークヴァルト様に石を綺麗にしていただいたの」
公爵の名にエラの表情がひきつった。
「エラ。今日、ジークヴァルト様とお会いして、わたくし、ジークヴァルト様を誤解していたことに気がついたの」
あわてて言葉を紡ぐ。
「ジークヴァルト様は、とてもお綺麗で、力強いお方だったわ」
綺麗なのは瞳の色で、力強かったのは頭部をつかんでいた大きな手なのだが。
王子殿下に聞いた龍の託宣のことを、エラに話すわけにいかなかった。エラの心配が解ける程度のことを話して、リーゼロッテは、はにかむように笑った。
大切な主人の久しぶりの心からの笑顔に、エラはぱあっと顔を明るくした。
「まああ、それはようございました!」
エラは公爵に目通りしたことはない。毛嫌いしていたのはリーゼロッテが悲しい顔をするからであって、公爵本人に恨みがあったわけではなかった。
リーゼロッテがジークヴァルトを受け入れるのであれば、否はなかった。リーゼロッテを幸せにしてくれるのなら、公爵が本物の魔王だったとしてもエラは受け入れたことだろう。
そのときリーゼロッテがいる寝室の隣にある、居間の扉がノックされた。この客室には、客を出迎える居間と、侍女が控える小部屋、そして奥にこの寝室があった。
「わたしが見てまいります。お嬢様はもう少しお休みになっていてください」
そういうと寝室の扉を閉めて、エラが部屋を出ていった。しばらくして戻ってきたエラが、来訪者はアンネマリーだと告げた。明日にしていただきましょうか? と、寝起きの主人を伺うようにエラは問いかけた。
きっと心配して王城に残っていてくれたのだ。お茶会が終わってから、何時間もたつ。心細かったかもしれない。
「いいえ、お会いするわ。きちんとお礼を言いたいの」
アンネマリーなら、ちょっと乱れたこの格好で会っても問題ないだろう。しわになったドレスを形だけ手で伸ばして、おろした髪は手櫛で整えた。
ぱちっと目が覚めると、そこには心配そうにのぞき込んでいるエラの顔があった。見知らぬ天井が目に入る。あのあと王城の客間に通されて、着替えもせずに少し眠ってしまったようだ。
「ああ、お嬢様。ご気分はいかがですか? お腹はすいておりませんか?」
おろおろとしているエラに、リーゼロッテは微笑みかけた。
「大丈夫よ、エラ。ごめんなさい、心配をかけたわね」
ふかふかのベッドから体を起こして時計を見ると、夕刻を少し過ぎた頃、お屋敷での晩餐の前くらいの時間だった。いつもならお腹がく~く~なっている時間帯だ。
「あら……不思議とお腹がすいてないわ」
常に腹ペコなのも、あの異形のせいだったのかもしれない。数時間眠っただけなのに、やたらとすっきりしている。万年寝不足を感じていたリーゼロッテにとっては、久しぶりの感覚だった。
リーゼロッテの胸元で、ペンダントの石の青が揺らめいた。
(……これも守り石のおかげなのかしら?)
「お嬢様、この石は……?」
エラが不思議そうに石をのぞき込んだ。リーゼロッテが大事にしていたペンダントは、もっとくすんだ青銅色だったはずだ。
「ジークヴァルト様に石を綺麗にしていただいたの」
公爵の名にエラの表情がひきつった。
「エラ。今日、ジークヴァルト様とお会いして、わたくし、ジークヴァルト様を誤解していたことに気がついたの」
あわてて言葉を紡ぐ。
「ジークヴァルト様は、とてもお綺麗で、力強いお方だったわ」
綺麗なのは瞳の色で、力強かったのは頭部をつかんでいた大きな手なのだが。
王子殿下に聞いた龍の託宣のことを、エラに話すわけにいかなかった。エラの心配が解ける程度のことを話して、リーゼロッテは、はにかむように笑った。
大切な主人の久しぶりの心からの笑顔に、エラはぱあっと顔を明るくした。
「まああ、それはようございました!」
エラは公爵に目通りしたことはない。毛嫌いしていたのはリーゼロッテが悲しい顔をするからであって、公爵本人に恨みがあったわけではなかった。
リーゼロッテがジークヴァルトを受け入れるのであれば、否はなかった。リーゼロッテを幸せにしてくれるのなら、公爵が本物の魔王だったとしてもエラは受け入れたことだろう。
そのときリーゼロッテがいる寝室の隣にある、居間の扉がノックされた。この客室には、客を出迎える居間と、侍女が控える小部屋、そして奥にこの寝室があった。
「わたしが見てまいります。お嬢様はもう少しお休みになっていてください」
そういうと寝室の扉を閉めて、エラが部屋を出ていった。しばらくして戻ってきたエラが、来訪者はアンネマリーだと告げた。明日にしていただきましょうか? と、寝起きの主人を伺うようにエラは問いかけた。
きっと心配して王城に残っていてくれたのだ。お茶会が終わってから、何時間もたつ。心細かったかもしれない。
「いいえ、お会いするわ。きちんとお礼を言いたいの」
アンネマリーなら、ちょっと乱れたこの格好で会っても問題ないだろう。しわになったドレスを形だけ手で伸ばして、おろした髪は手櫛で整えた。
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