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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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ひとしきり笑った後、カイと呼ばれた灰色の髪の少年が口を開いた。
「その守り石はジークヴァルト様のですよねー。さすがだなー、オレ、こんなにキレーに力込められないですもん」
リーゼロッテの胸元のペンダントをのぞき込むようにまじまじと見る。
「とにかく、守り石は肌身離さず身に着けておいた方がよさそうだな」
「いや、これは、オレが子供の時に作ったできそこないだ。ないよりはましだろうが」
ハインリヒの言葉にジークヴァルトが即座に返した。
「え? これはジークフリート様からいただいたのです」
リーゼロッテが驚いたように顔を向けると、ジークヴァルトは一瞬、怪訝な顔をした。
しかし、あの日、自分が作ったものを父親であるジークフリートが手渡したのだから、リーゼロッテの言うことが間違っているわけではない。
そう結論づけると「ああ、そうだな」とだけ答えて、特に否定はしなかった。
(え? 何? ……もしかしてこのペンダントはジークヴァルト様からのプレゼントだったの……?)
否定されなかったものの、リーゼロッテは逆に混乱していた。
「ダーミッシュ嬢、どうしてあれを身につけて来なかった?」
先ほどした質問を、ジークヴァルトが再び問うた。
ジークヴァルトから贈られた首飾りと耳飾りには、大ぶりの青い石がついているとエラが言っていた。
よくはわからないが、それはきっとこのペンダントと同じように、ジークヴァルトが力を込めた守り石と言われるものだったのかもしれない。
ぐっと言葉に困ったリーゼロッテは、しばらく逡巡したのち、心を決めた。今さら隠しても仕方がない。
「あの、実はわたくし、初めてお会したときからジークヴァルト様のことが……」
何やら愛の告白がはじまりそうな台詞だが、リーゼロッテの口からそんなものが紡がれるはずもなく――
「黒いモヤモヤをまとう魔王に見えて、とっても恐ろしかったのです! いただいた贈り物の何もかも、怖くて触れることも見ることもかないませんでしたっ」
一気に捲したてたリーゼロッテのその言葉に、部屋がしん、と静まり返る。
「り、リーゼロッテ嬢、予想外すぎてオレ、もうムリっ」
その沈黙を破ったのは、やはりカイの大爆笑であった。
「……ああ、もしかしたら、周りにいる小鬼の波動に同調して、ヴァルトの力に恐怖を感じてしまっていたのかもしれないね」
ハインリヒがそう言った横で、カイはいまだに腹を抱えて身をよじらせている。そんなカイをあきれたように一瞥してから、「お前はいい加減笑いすぎだ」とハインリヒはもう一度カイの頭を軽くはたき落とした。
「ときにリーゼロッテ嬢、今はどう思っているの? ……ヴァルトは怖い?」
ハインリヒの問いに、リーゼロッテはきょとんとする。いまだジークヴァルトの腕の中にいたリーゼロッテは、上目遣いでジークヴァルトの青い瞳をじっとみつめた。
「ジークヴァルト様は、とっても綺麗です」
――それこそ、この守り石のように。
リーゼロッテは答えになっているようでなってないような、そんな言葉を返す。無言で見つめ合っているふたりに、ハインリヒがわざとらしく咳ばらいをした。
「それ以上はふたりきりの時にやってくれ」
意味不明なことを言われ、リーゼロッテは訝し気に小さく首をかしげた。
「その守り石はジークヴァルト様のですよねー。さすがだなー、オレ、こんなにキレーに力込められないですもん」
リーゼロッテの胸元のペンダントをのぞき込むようにまじまじと見る。
「とにかく、守り石は肌身離さず身に着けておいた方がよさそうだな」
「いや、これは、オレが子供の時に作ったできそこないだ。ないよりはましだろうが」
ハインリヒの言葉にジークヴァルトが即座に返した。
「え? これはジークフリート様からいただいたのです」
リーゼロッテが驚いたように顔を向けると、ジークヴァルトは一瞬、怪訝な顔をした。
しかし、あの日、自分が作ったものを父親であるジークフリートが手渡したのだから、リーゼロッテの言うことが間違っているわけではない。
そう結論づけると「ああ、そうだな」とだけ答えて、特に否定はしなかった。
(え? 何? ……もしかしてこのペンダントはジークヴァルト様からのプレゼントだったの……?)
否定されなかったものの、リーゼロッテは逆に混乱していた。
「ダーミッシュ嬢、どうしてあれを身につけて来なかった?」
先ほどした質問を、ジークヴァルトが再び問うた。
ジークヴァルトから贈られた首飾りと耳飾りには、大ぶりの青い石がついているとエラが言っていた。
よくはわからないが、それはきっとこのペンダントと同じように、ジークヴァルトが力を込めた守り石と言われるものだったのかもしれない。
ぐっと言葉に困ったリーゼロッテは、しばらく逡巡したのち、心を決めた。今さら隠しても仕方がない。
「あの、実はわたくし、初めてお会したときからジークヴァルト様のことが……」
何やら愛の告白がはじまりそうな台詞だが、リーゼロッテの口からそんなものが紡がれるはずもなく――
「黒いモヤモヤをまとう魔王に見えて、とっても恐ろしかったのです! いただいた贈り物の何もかも、怖くて触れることも見ることもかないませんでしたっ」
一気に捲したてたリーゼロッテのその言葉に、部屋がしん、と静まり返る。
「り、リーゼロッテ嬢、予想外すぎてオレ、もうムリっ」
その沈黙を破ったのは、やはりカイの大爆笑であった。
「……ああ、もしかしたら、周りにいる小鬼の波動に同調して、ヴァルトの力に恐怖を感じてしまっていたのかもしれないね」
ハインリヒがそう言った横で、カイはいまだに腹を抱えて身をよじらせている。そんなカイをあきれたように一瞥してから、「お前はいい加減笑いすぎだ」とハインリヒはもう一度カイの頭を軽くはたき落とした。
「ときにリーゼロッテ嬢、今はどう思っているの? ……ヴァルトは怖い?」
ハインリヒの問いに、リーゼロッテはきょとんとする。いまだジークヴァルトの腕の中にいたリーゼロッテは、上目遣いでジークヴァルトの青い瞳をじっとみつめた。
「ジークヴァルト様は、とっても綺麗です」
――それこそ、この守り石のように。
リーゼロッテは答えになっているようでなってないような、そんな言葉を返す。無言で見つめ合っているふたりに、ハインリヒがわざとらしく咳ばらいをした。
「それ以上はふたりきりの時にやってくれ」
意味不明なことを言われ、リーゼロッテは訝し気に小さく首をかしげた。
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