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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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◇
ハインリヒ王子は高い壇上の椅子で足を組み、白い手袋をはめた手で頬杖を突きながら、どうしたものかと思案に暮れていた。茶会の主催者が早々に退出するなど、王妃の破天荒ぶりも困ったものである。
それにしても、このような茶会に本当に意味はあるのだろうか。そもそも、わざと冷たく当たって、令嬢たちを遠ざけているのだ。
そうでもしないと、彼女たちの身の安全が保障できない。万が一、飛び出してこられたら、この前のようにきちんと避け切れるだろうか。そう思うと、自然に眉間にしわが寄る。
かつて、思い余った令嬢が突撃してきて、肝を冷やしたことがあった。
その令嬢は自分に抱き着こうとでもしたのか、いきなり茂みの奥から飛びかかってきたのだ。あの時ばかりは、自分の反射神経に感謝した。自分が避けたせいで、その令嬢は思い切り地面にスライディングして、鼻の頭をすりむいてしまっていたが。
女性の一人も受け止められず、男としては非常に申し訳なく思ったので、その令嬢には良縁をみつくろっておいた。令嬢の実家は玉の輿に乗れたと喜んでいたし、年は離れているが、今では仲睦まじく暮らしていると聞く。
ハインリヒは眼前に押し寄せている令嬢たちに、知らずため息をついた。こうして護衛の近衛兵を配しているが、これは王太子であるハインリヒのためではなく、令嬢たちを己から守るために置いているのだ。
こうも多くの令嬢に囲まれていると、常に戦々恐々として、気が休まらない。一目で託宣の相手が判別できるなら話は別だが、どう考えてもこの時間が無駄に思えて仕方がなかった。
「おい、ヴァルト、お前はどうだったんだ?」
ハインリヒは斜め後ろに控えるジークヴァルトに小声で話しかける。自分の護衛騎士の筆頭を務めるフーゲンベルク公爵は、ハインリヒの幼馴染でもあった。
「どう、とはなんだ?」
質問に質問で返される。ジークヴァルトとて、この茶番の理由はわかっているだろうに。ハインリヒが眉をひそめると、ジークヴァルトは腰を折って慇懃無礼に言いなおした。
「一体何がどうとの仰せでしょうか? 王子殿下」
眉間にしわをよせ、さらに不機嫌な顔になったハインリヒは、言い方の問題ではない、とつぶやいた。
しかし、その機嫌の悪い姿も一枚の絵のように様になっていて、令嬢たちから感嘆のため息が漏れる。ハインリヒは、密かに『氷結の王子』や『孤高の王太子』などと呼ばれているのだ。
「ヴァルトは婚約者の令嬢に会っているのだろう? その、初めて会った時に、こう、何か感じるものがあったとか、わたしが聞きたいのはつまりそういうことだ」
みなまで言わせるなと思ったが、ジークヴァルトはあえて言わせているのだろう。どうして自分のまわりには、こういったクセの強い人間ばかりなのだろうか。
「知らんな」
ジークヴァルトはそっけなく答えた後、「むこうは泣いていたが」と、やはりそっけなくつけ加えた。
(泣くほど感動を覚えるものなのか?)
一瞬そう思ったが、ジークヴァルトのことだ、相手を威圧して泣かせたに決まっている。ハインリヒは、相手の令嬢が気の毒に思えてきた。
しかし、泣きたいのはこちらの方だ。国の明暗を担う立場としては、めそめそと泣いている場合ではないのだが。
残された時間はあと二年。やらねばならぬ必要事項を考えると、あまりにも時間が足りなかった。
ハインリヒ王子は高い壇上の椅子で足を組み、白い手袋をはめた手で頬杖を突きながら、どうしたものかと思案に暮れていた。茶会の主催者が早々に退出するなど、王妃の破天荒ぶりも困ったものである。
それにしても、このような茶会に本当に意味はあるのだろうか。そもそも、わざと冷たく当たって、令嬢たちを遠ざけているのだ。
そうでもしないと、彼女たちの身の安全が保障できない。万が一、飛び出してこられたら、この前のようにきちんと避け切れるだろうか。そう思うと、自然に眉間にしわが寄る。
かつて、思い余った令嬢が突撃してきて、肝を冷やしたことがあった。
その令嬢は自分に抱き着こうとでもしたのか、いきなり茂みの奥から飛びかかってきたのだ。あの時ばかりは、自分の反射神経に感謝した。自分が避けたせいで、その令嬢は思い切り地面にスライディングして、鼻の頭をすりむいてしまっていたが。
女性の一人も受け止められず、男としては非常に申し訳なく思ったので、その令嬢には良縁をみつくろっておいた。令嬢の実家は玉の輿に乗れたと喜んでいたし、年は離れているが、今では仲睦まじく暮らしていると聞く。
ハインリヒは眼前に押し寄せている令嬢たちに、知らずため息をついた。こうして護衛の近衛兵を配しているが、これは王太子であるハインリヒのためではなく、令嬢たちを己から守るために置いているのだ。
こうも多くの令嬢に囲まれていると、常に戦々恐々として、気が休まらない。一目で託宣の相手が判別できるなら話は別だが、どう考えてもこの時間が無駄に思えて仕方がなかった。
「おい、ヴァルト、お前はどうだったんだ?」
ハインリヒは斜め後ろに控えるジークヴァルトに小声で話しかける。自分の護衛騎士の筆頭を務めるフーゲンベルク公爵は、ハインリヒの幼馴染でもあった。
「どう、とはなんだ?」
質問に質問で返される。ジークヴァルトとて、この茶番の理由はわかっているだろうに。ハインリヒが眉をひそめると、ジークヴァルトは腰を折って慇懃無礼に言いなおした。
「一体何がどうとの仰せでしょうか? 王子殿下」
眉間にしわをよせ、さらに不機嫌な顔になったハインリヒは、言い方の問題ではない、とつぶやいた。
しかし、その機嫌の悪い姿も一枚の絵のように様になっていて、令嬢たちから感嘆のため息が漏れる。ハインリヒは、密かに『氷結の王子』や『孤高の王太子』などと呼ばれているのだ。
「ヴァルトは婚約者の令嬢に会っているのだろう? その、初めて会った時に、こう、何か感じるものがあったとか、わたしが聞きたいのはつまりそういうことだ」
みなまで言わせるなと思ったが、ジークヴァルトはあえて言わせているのだろう。どうして自分のまわりには、こういったクセの強い人間ばかりなのだろうか。
「知らんな」
ジークヴァルトはそっけなく答えた後、「むこうは泣いていたが」と、やはりそっけなくつけ加えた。
(泣くほど感動を覚えるものなのか?)
一瞬そう思ったが、ジークヴァルトのことだ、相手を威圧して泣かせたに決まっている。ハインリヒは、相手の令嬢が気の毒に思えてきた。
しかし、泣きたいのはこちらの方だ。国の明暗を担う立場としては、めそめそと泣いている場合ではないのだが。
残された時間はあと二年。やらねばならぬ必要事項を考えると、あまりにも時間が足りなかった。
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※小説家になろうグループムーンライトノベルズにて【R18】ふたつ名の令嬢と龍の託宣 不定期投稿中☆
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
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