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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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「お嬢様、朝食の準備が整いましてございます」
物思いにふけっていると、エラがリーゼロッテに声をかけた。自分の粗相で周囲になにかと迷惑をかけてしまうので、いつも部屋に食事を運んでもらっている。本当は家族と一緒に食べたいのだが。
「ふふ、今日もおいしそうね」
部屋に唯一置かれたテーブルの上は、ちょうどテーブルと同じ大きさくらいの木製の皿が置かれていた。皿はいくつか区切られていて、前菜からスープ、サラダ、メインにデザートがのせられている。巨大なワンプレートといった体だ。
陶器やガラスの器だと、ご多分にもれず、割れる・ひっくり返る・飛ぶなどの事故が多発するのだ。銀製のカトラリーも、リーゼロッテの前では凶器と化すため、木製のスプーンのみでリーゼロッテは食事をすませている。
いつだったか、何がどうしてそうなったのか、フォークとナイフが天井に刺さってしまい、それを回収するのに苦慮したのである。貴族の屋敷の天井は、とても高いのだ。
巨大なワンプレートにしたのは、運ぶのは少々大変だが、これくらいの大きさと重さがあれば、そうそうひっくり返すこともない。テーブルマナーもへったくれもないが、みなの安全が第一である。
安心安全な日常を送るために、リーゼロッテの身の回りは、これ以上ないというくらい簡素にブラッシュアップされているのである。
(質実剛健、いさぎよくていい言葉だわ)
自分を慰めるように強がりながら、リーゼロッテは食事の席に着いた。
プレートにはそれぞれの料理がこんもりと盛られ、およそ深窓の令嬢が食す量ではないように思える。ざっと五人前はある。子供の誕生パーティーでも開けそうだ。だが、リーゼロッテにとっては、これくらいが標準的な食事の量だった。
リーゼロッテはその華奢な体に似合わず、ものすごい大食漢であった。痩せの大食いというレベルではない。リーゼロッテは、普段一日七食は食べる。そうしないと、力が出なくなって動けなくなってしまうのだ。
寝起きのバスケットいっぱいのクッキーから始まり、山盛りの朝食に続いて十時の間食、ふつうに昼食、三時のおやつと続き、何食わぬ顔で夕食を食べたら、寝る前に夜食をつまむ。そんな生活を何年も続けている。
エンゲル係数がハンパない、はた迷惑な令嬢であった。しかし、これでいて全く太らない。かえって痩せすぎているくらいであるから、燃費が悪いにもほどがある。
(食べている量は、海賊王になれそうな勢いなのに、どうして成長しないのかしら)
十四歳にしては発育が遅い体に、リーゼロッテは秘かにコンプレックスを感じていた。
日本での記憶があって、異世界の令嬢に転生したというのに、チートらしきものがみじんも発生しない。外出はおろか、部屋から出るのも一苦労するのだ。
この世界がよくあるラノベのように、乙女ゲームの世界だったとしても、ゲームをやっていた記憶はなかった。役どころも分からない。
ベタに、悪役令嬢転生ものだったとして、外出もままならない自分にそんな大役が務まるだろうか。死刑とか、国外追放とか、お家お取りつぶしとか、シャレにならないが。
(でも、婚約破棄ものなら、バッチ来いね)
リーゼロッテは自分にふりかかった婚約話を、叶うことなら辞退したいと思っていた。
(まあ、無理なんだけど。何せ王命だし)
リーゼロッテにできることといえば、せいぜい脳内突っ込みを繰り広げることくらいである。
(こころやさしい主人公さん、どうか婚約者様の心をサクッと奪っちゃってください)
まだ見ぬ乙女ゲームの主人公に思いを馳せて、現実逃避をはかるリーゼロッテだった。
物思いにふけっていると、エラがリーゼロッテに声をかけた。自分の粗相で周囲になにかと迷惑をかけてしまうので、いつも部屋に食事を運んでもらっている。本当は家族と一緒に食べたいのだが。
「ふふ、今日もおいしそうね」
部屋に唯一置かれたテーブルの上は、ちょうどテーブルと同じ大きさくらいの木製の皿が置かれていた。皿はいくつか区切られていて、前菜からスープ、サラダ、メインにデザートがのせられている。巨大なワンプレートといった体だ。
陶器やガラスの器だと、ご多分にもれず、割れる・ひっくり返る・飛ぶなどの事故が多発するのだ。銀製のカトラリーも、リーゼロッテの前では凶器と化すため、木製のスプーンのみでリーゼロッテは食事をすませている。
いつだったか、何がどうしてそうなったのか、フォークとナイフが天井に刺さってしまい、それを回収するのに苦慮したのである。貴族の屋敷の天井は、とても高いのだ。
巨大なワンプレートにしたのは、運ぶのは少々大変だが、これくらいの大きさと重さがあれば、そうそうひっくり返すこともない。テーブルマナーもへったくれもないが、みなの安全が第一である。
安心安全な日常を送るために、リーゼロッテの身の回りは、これ以上ないというくらい簡素にブラッシュアップされているのである。
(質実剛健、いさぎよくていい言葉だわ)
自分を慰めるように強がりながら、リーゼロッテは食事の席に着いた。
プレートにはそれぞれの料理がこんもりと盛られ、およそ深窓の令嬢が食す量ではないように思える。ざっと五人前はある。子供の誕生パーティーでも開けそうだ。だが、リーゼロッテにとっては、これくらいが標準的な食事の量だった。
リーゼロッテはその華奢な体に似合わず、ものすごい大食漢であった。痩せの大食いというレベルではない。リーゼロッテは、普段一日七食は食べる。そうしないと、力が出なくなって動けなくなってしまうのだ。
寝起きのバスケットいっぱいのクッキーから始まり、山盛りの朝食に続いて十時の間食、ふつうに昼食、三時のおやつと続き、何食わぬ顔で夕食を食べたら、寝る前に夜食をつまむ。そんな生活を何年も続けている。
エンゲル係数がハンパない、はた迷惑な令嬢であった。しかし、これでいて全く太らない。かえって痩せすぎているくらいであるから、燃費が悪いにもほどがある。
(食べている量は、海賊王になれそうな勢いなのに、どうして成長しないのかしら)
十四歳にしては発育が遅い体に、リーゼロッテは秘かにコンプレックスを感じていた。
日本での記憶があって、異世界の令嬢に転生したというのに、チートらしきものがみじんも発生しない。外出はおろか、部屋から出るのも一苦労するのだ。
この世界がよくあるラノベのように、乙女ゲームの世界だったとしても、ゲームをやっていた記憶はなかった。役どころも分からない。
ベタに、悪役令嬢転生ものだったとして、外出もままならない自分にそんな大役が務まるだろうか。死刑とか、国外追放とか、お家お取りつぶしとか、シャレにならないが。
(でも、婚約破棄ものなら、バッチ来いね)
リーゼロッテは自分にふりかかった婚約話を、叶うことなら辞退したいと思っていた。
(まあ、無理なんだけど。何せ王命だし)
リーゼロッテにできることといえば、せいぜい脳内突っ込みを繰り広げることくらいである。
(こころやさしい主人公さん、どうか婚約者様の心をサクッと奪っちゃってください)
まだ見ぬ乙女ゲームの主人公に思いを馳せて、現実逃避をはかるリーゼロッテだった。
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