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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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王妃の庭園は、薔薇を中心に色鮮やかな花々が咲き誇る、それは美しい庭だった。
(これを見られただけで、ここに来たかいがあったわ)
頬にあたる風が心地よい。風を直に感じるのも、久しぶりのことであった。
庭園の奥にはパラソルのついた白い円卓がいくつか並べられていて、その先をみやると、令嬢たちが列を作って、ひとりひとり順番に王妃に挨拶をしているところが目に入った。
そこを目指して庭園を進む。それにしても広い庭だ。
通り過ぎざま、脇に飾られていた水瓶を持った女性のオブジェが、何の前触れもなくゴトンと倒れた。リーゼロッテが進むに合わせて、その先の小鹿のオブジェの足がぽきりと折れ、同じようにゴトンと倒れた。
ゴトン、ガタン、バキンッ……
進むにつれて両脇で何がしかが壊れたり傾いたりしている。リーゼロッテは、音のする方から顔をそむけた。
(見たら負けだわ)
最後にパリンと何かが割れる音がしたが、リーゼロッテは、あれはわたしのせいじゃないと自分に言い聞かせて、何食わぬ顔で通りすぎていった。
あわてた衛兵が駆けよってくる。何ごとかと問われたので、「大きな猫があちらに走っていきました」とごまかすと、衛兵はあっさりと納得してくれた。言ってみるものである。
途中、何度かつまずきそうになったが、そのたびに足を止め、すり足でゆっくり進み、なんとか事なきを得た。ドレスの裾すそが長いせいで、その珍妙な足さばきは、誰の目にも止まることはなかった。
この歩き方は、幼少期に教わったマナー教師の夫人の指導の賜物である。厳しい人だったが、おかげでリーゼロッテが転ぶ回数は大幅に減ったのだ。
(ありがとう、ロッテンマイヤーさん)
夫人の名前が長ったらしくて覚えきれなかったリーゼロッテは、心の中で夫人をそんな名前で呼んでいた。ひっつめ髪に丸眼鏡の夫人はかなりの美人であったが、雰囲気がまんまアルプスの某少女の友人令嬢の教育係そのものだった。げに恐ろしい人だったが、今では感謝するばかりだ。
リーゼロッテはようやく、令嬢の最後尾につく。先に着いた令嬢とその母親の王妃様への熱烈なアピールが続いているため、ゆっくり歩いてきたリーゼロッテでも余裕で並ぶことができた。
挨拶し終わった令嬢は、その母親と共に円卓の席へといざなわれていたが、ひとりあたりのアピールタイムが長く、並んでからしばらくたっても、リーゼロッテの順番はまだまだ来そうにない。
(こんなことなら、焦らなくてもよかったかも)
ふう、とまわりに気づかれない程度にリーゼロッテはため息をついた。
(ああ……からだが重くなってきたわ)
日常でも感じる疲労感が、いつも以上に早くリーゼロッテの体をじわじわと襲ってきている。慣れない馬車での移動に加え、コルセットで締め上げた窮屈なドレスと、普段よりかかとの高い靴が、よりいっそう体力を奪う。
自分の部屋から出ることがほとんどないリーゼロッテに、残された体力と時間はあまりなさそうだ。
王妃様に挨拶を済ませたら、体調不良を理由に、早いところお暇することを決めていた。いざとなったら気絶でも何でもして、強制送還をねらうしかない。お茶会程度で気絶する令嬢など、未来の王たる王太子殿下にふさわしくないと、すぐに解放されることだろう。
気絶はあくまで最終手段だが、周りを巻き込まないためにも、うまく立ち回らなくてはならない。
子供のころからお守りにしている、初恋の人からもらった青銅色のペンダントを、知らず握りしめる。徐々に重くなっている体を奮い立たせて、リーゼロッテはぐっと背筋をのばした。
(これを見られただけで、ここに来たかいがあったわ)
頬にあたる風が心地よい。風を直に感じるのも、久しぶりのことであった。
庭園の奥にはパラソルのついた白い円卓がいくつか並べられていて、その先をみやると、令嬢たちが列を作って、ひとりひとり順番に王妃に挨拶をしているところが目に入った。
そこを目指して庭園を進む。それにしても広い庭だ。
通り過ぎざま、脇に飾られていた水瓶を持った女性のオブジェが、何の前触れもなくゴトンと倒れた。リーゼロッテが進むに合わせて、その先の小鹿のオブジェの足がぽきりと折れ、同じようにゴトンと倒れた。
ゴトン、ガタン、バキンッ……
進むにつれて両脇で何がしかが壊れたり傾いたりしている。リーゼロッテは、音のする方から顔をそむけた。
(見たら負けだわ)
最後にパリンと何かが割れる音がしたが、リーゼロッテは、あれはわたしのせいじゃないと自分に言い聞かせて、何食わぬ顔で通りすぎていった。
あわてた衛兵が駆けよってくる。何ごとかと問われたので、「大きな猫があちらに走っていきました」とごまかすと、衛兵はあっさりと納得してくれた。言ってみるものである。
途中、何度かつまずきそうになったが、そのたびに足を止め、すり足でゆっくり進み、なんとか事なきを得た。ドレスの裾すそが長いせいで、その珍妙な足さばきは、誰の目にも止まることはなかった。
この歩き方は、幼少期に教わったマナー教師の夫人の指導の賜物である。厳しい人だったが、おかげでリーゼロッテが転ぶ回数は大幅に減ったのだ。
(ありがとう、ロッテンマイヤーさん)
夫人の名前が長ったらしくて覚えきれなかったリーゼロッテは、心の中で夫人をそんな名前で呼んでいた。ひっつめ髪に丸眼鏡の夫人はかなりの美人であったが、雰囲気がまんまアルプスの某少女の友人令嬢の教育係そのものだった。げに恐ろしい人だったが、今では感謝するばかりだ。
リーゼロッテはようやく、令嬢の最後尾につく。先に着いた令嬢とその母親の王妃様への熱烈なアピールが続いているため、ゆっくり歩いてきたリーゼロッテでも余裕で並ぶことができた。
挨拶し終わった令嬢は、その母親と共に円卓の席へといざなわれていたが、ひとりあたりのアピールタイムが長く、並んでからしばらくたっても、リーゼロッテの順番はまだまだ来そうにない。
(こんなことなら、焦らなくてもよかったかも)
ふう、とまわりに気づかれない程度にリーゼロッテはため息をついた。
(ああ……からだが重くなってきたわ)
日常でも感じる疲労感が、いつも以上に早くリーゼロッテの体をじわじわと襲ってきている。慣れない馬車での移動に加え、コルセットで締め上げた窮屈なドレスと、普段よりかかとの高い靴が、よりいっそう体力を奪う。
自分の部屋から出ることがほとんどないリーゼロッテに、残された体力と時間はあまりなさそうだ。
王妃様に挨拶を済ませたら、体調不良を理由に、早いところお暇することを決めていた。いざとなったら気絶でも何でもして、強制送還をねらうしかない。お茶会程度で気絶する令嬢など、未来の王たる王太子殿下にふさわしくないと、すぐに解放されることだろう。
気絶はあくまで最終手段だが、周りを巻き込まないためにも、うまく立ち回らなくてはならない。
子供のころからお守りにしている、初恋の人からもらった青銅色のペンダントを、知らず握りしめる。徐々に重くなっている体を奮い立たせて、リーゼロッテはぐっと背筋をのばした。
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※小説家になろうグループムーンライトノベルズにて【R18】ふたつ名の令嬢と龍の託宣 不定期投稿中☆
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
※アルファポリス版は第1部令嬢編として一度完結としましたが、ムーンでは第6章を継続投稿中です。
こちらはR18ですので、18歳以上(高校生不可)の方のみ閲覧できます。
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣 スタートました♡
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