【R18】恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

古堂 素央

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第36話 折れた聖剣

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「アメリ……君はやはり体調が悪いんじゃないのか……?」

 不自然に距離を取ったアメリにロランが戸惑いの顔を向ける。
 そのとき茂みがガサガサと揺れて、一本角の生えた白いモフモフたちが何匹も飛び出してきた。

「ここらが巣の中心みたいだね。魔物が嫌がる煙魔法使ったから、もっとわんさか出てくるよ。みんな気をつけて~」
「よし! アメリ、来い!」

 一気に緊張感が高まった。殺気立った魔物を前に、アメリも嫌だなどと言ってもいられない。
 全速力でロランに駆け寄ると、アメリは自ら唇を差し出した。
 ロランの唇が触れ、アメリの掌で耐えがたい熱が膨れ上がった。眩い光の中から、ロランが聖剣を抜き去っていく。

 初めは慣れなかった感触だ。
 しかしアメリは最近気づくようになった。
 傷みすら感じていたこの瞬間が、アメリの最奥に穿たれたロランの昂ぶりを、乱暴に引き抜かれる快楽そのままであることに。

「んぁあっ」

 そんな場合ではないというのに、走りぬけた快感に思わず身を震わせる。

「アメリさん、早くこちらへ!」

 サラのひと声に我に返った。
 急いで戦線から離れると、視界がくらりと歪んでアメリの足元がふらついた。

「アメリさん……!」
「大丈夫です、夕べあまり眠れなかっただけなので……」
「でも顔色が……ロラン! わたしはアメリさんを連れて先に戻ります!」
「ああ、そうしてくれ。サラがいなくてもこっちは問題ない」
「でも……」

 サラは防御魔法と回復専門の白魔法の使い手だ。
 何かあったときそばにいないのは危険すぎるというものだろう。

「なぁに大丈夫だ、アメリ。数が多いとはいえ今日の相手はタマゴウサギだ」

 戦いながらフランツがにかっと笑う。

「そうそう、最近はアメリのおかげでロランの聖剣の威力もマシマシだしね~」
「そうよアメリ、心配しないで先に帰ってて! お昼ご飯はアメリの分も食べといてあげるから!」

 ヴィルジールとマーサの言葉もあって、アメリはサラとともに来た道を戻ることになった。
 森の小道をふらふらと歩く。寝不足と怒りと聖剣を出したおかげで、体力が限界に来てしまったようだ。

「すみません、サラさん」
「いいんですよ。体調が良くないときは隠さず言ってくださいね。今日みたいな討伐依頼は緊急性もないですし」
「はい、分かりました……」
「あれ……? アメリ? アメリじゃない?」
「モニカ!? 久しぶり!」

 森の出たところ辺りで、顔見知りに声をかけられた。
 モニカはアメリの幼馴染だ。心を許せる数少ない貴重な存在だった。

「アメリが戻ってきてるって聞いてたんだけど、今ちょっと家を空けられなくて。あ、よかったら寄ってかない? あたしん家、すぐそこだし」
「でも今は……」
「お知り合いですか?」
「あたしモニカって言います。アメリとは幼馴染なんです」
「そうでしたか。それだったらアメリさん、しばらくモニカさんのお宅で待っていてもらえませんか? そうすればわたしもロランたちの元に戻れますし」

 サラの提案にモニカは瞳を輝かせた。

「そうしなよ、アメリ! 今旦那は仕事で出かけてるし、久しぶりにゆっくり話そうよ!」
「うん、じゃあそうさせてもらおうかな」
「魔物退治が終わったら迎えに行きますね。それまでアメリさんはモニカさんのお宅にいてください」

 サラと別れ、アメリはモニカの家に向かった。
 こじんまりとした家は、とても生活感に溢れている。

「散らかっててごめんね。今お茶淹れるから」
「子供たちは?」
「今あっちで眠ってる」

 モニカは三歳になる双子の母親だ。
 子供部屋を覗くと、双子がすやすやと天使の寝顔で眠っていた。

「見ないうちに随分と大きくなったね」
「起こすと魔物並みに騒がしくなるから、そのまま寝かせといて」

 肩をすくめるモニカはすっかりお母さんが板についている様子だ。
 同い年のアメリとの差に、少しだけ劣等感を刺激される。

「アメリもなんだか眠そうね?」
「うん、実は夕べあんまり寝てなくて……」
「デボラおばさんになんか言われた?」
「……ううん」
「なんだ、ベリンダの方か」

 幼馴染なだけあって、アメリの事情はモニカにはお見通しだ。
 寝てないのはベリンダのせいではないが、ロランのことで追い打ちをかけられたことに違いはなかった。

 怒りと悲しみがないまぜになって、黒い感情がアメリの中で渦巻いた。
 それでも最後に残るのは言い様のない虚無感だ。
 やはり自分はこうなる運命なのだと、ぽっかりと穴が開いた心の奥でそんな諦めがすでに顔をのぞかせていた。

「ね、ソファで良ければとりあえずちょっと横になる? 寝不足で考え事してもロクな答え出てこないし」
「だけどそんな迷惑……」
「何言ってんの、あたしとアメリの仲じゃない。しばらくはこの村にいるんでしょ? またあとでゆっくり話聞いてあげるからさ」
「うん、ありがとう、モニカ」
「うんうん、人間素直がいちばんよ」

 ソファで横になると、モニカがやさしく毛布を掛けてくる。
 遠い日の母親の面影が重なって、幸せだった日の思い出がふっと胸に蘇った。

「おやすみ、アメリ。迎えが来たら起こすから」
「ありがとうモニカ……おやすみなさい……」

 訪れた睡魔にあっという間に吸い込まれていく。
 今は何も考えたくない。その願い通りに、アメリは深い眠りに落ちていった。

「……リ! アメリ! たいへんよ、起きて……!」
「ぅむう? もう朝……?」

 心地よいまどろみから、無理やりに引きはがされた。重い頭が起きることを拒絶する。
 それでもモニカはアメリの体を強く揺さぶり続けてきた。

「アメリ! いいから起きて!」
「モニカ……起こすならもうちょっとやさしく……」
「それどころじゃないのよ! いま連絡が来たの。戦いの最中に、勇者の聖剣が折れてしまったって……!」

 その言葉に、アメリから一瞬で眠気が消し飛んだ。

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